2016.07.20
7月8日、さくらWORKS<関内>でセミナー「多文化教育の実践と理論――神奈川の外国につながる子どもたちへの支援の現場から」が開催されました。主催は横浜市立大学 都市社会文化研究科(以下、都市社会文化研究科)。都市社会文化研究科の研究・教育成果を地域社会に還元すること、学内の研究活性化を目的として実施しています。
セミナーテーマは、グローバル化が進む現代の日本社会において「多文化社会」や「共生社会」の実現が叫ばれる一方で、同化主義的な思想や日本語によるモノリンガリズム(単一言語主義)が、地域社会や学校などの論理として、根強く存在しているという背景があります。そうした状況のなかで、外国につながる子どもたちの学びのあり方・多文化教育の実践と理論について考えようと設定されました。
今回のセミナーでは、神奈川県において外国につながる子どもへの教育支援に取り組むゲストスピーカーNorman Nakamuraさんを迎え、「多文化共生社会」の現段階や課題について取り上げました。それを踏まえ、講師の坪谷美欧子さんから「多文化教育」についての理論を整理し、神奈川県の取り組みや課題の意味について考察します。
Norman Nakamuraさんによる発表
自身も外国とつながる子供の一人であったNakamuraさんは、「外国とつながる子供にとって、社会が持っている大きなハードルが高校進学」であると話しました。 Nakamuraさんは 「子どもの問題は本人の努力の問題ではないこと、教育が子どもの問題・家族の問題ではなく、社会の問題である」と話しました。「子どもを社会を構成する財産として考えてほしい、子どもが納税に行きつくまで成長することをを考えてほしい、納税したくてもできない収入の人達が社会を構成していることを知ってもらいたい」とのことでした。
様々な国の、外国とつながる子供が分散しており、多様である中で、神奈川県では『 かながわ国際施策推進指針 』を策定、多文化共生の地域づくりを実施しようとしているとのことです。
Nakamuraさんは「多文化共生は未来に希望を持てるということが大事であり、高校に行くことが夢だと思う人たちも、社会の構成員の中にいます。ある時点において高校に在籍しているかどうかを計る指標に「在学率」がありますが、外国につながる子どもたちの場合30%台と低迷しています。その大きな理由として、生活が困窮している家庭が多く「教育よりも働くことを優先」という状況がありました。
また、日本語指導を必要とする子供たちが増加し、外国籍市民の生活困窮者比率が高い点に言及しながら「日本語が話せるだけでは進学や就職には結びつかない。読むこと・書くことの力がないと安定した職を得ることができず、ひいては社会保障からも排除されてしまう。しかも、日本語指導がないため、学校以外で勉強をすることができない状況にある」と、教育を受ける機会からははじき出され、厳しい状況におかれている子どもを取り巻く「負の循環」について指摘しました。
Nakamuraさんはこうした課題を解決していくアクションとして次の4つを示しています。
坪谷美欧子さんによる発表
坪谷さんは、日本国内、特に神奈川県内に住む「外国とつながる子供たち」の支援や調査を行っています。今回のセミナーでは、 アメリカにおける多文化教育に焦点をあて、「人間関係」「多文化教育」などいくつかの視点からその実践のアプローチを紹介しました。 また、外国とつながる子供たちにとって、日本と母国では「 形式」「評価基準」「生徒像」「教師像」「生徒と教師間のコミュニケーション方法」の各指標において、「なにが良いことなのか」という価値観が異なり、それが戸惑いにつながっていることを、坪谷さんは指摘しました。
いわゆる「日本の国民」を育てる教育を前提とした指導を外国籍の子どもに単に提供するだけではなく、「多文化」を尊重し、育てる教育の実践の必要性も訴えました。 そして「神奈川県には 『かながわ国際施策推進指針』があります。 その指針の中に『多文化共生』を位置づけてもらうだけでも変わることがある」と話しました。
鶴見総合高校の事例
坪谷さんは1つの事例として、神奈川県立鶴見総合高校(鶴見区平安町2 )の取り組みを紹介しました。 鶴見総合高校では、在県外国人等特別募集がない時代から支援を行っており、支援内容は日本語教育や母語の学習や進路指導など、多岐にわたっています。(http://www.tsurumisogo-ih.pen-kanagawa.ed.jp/annai/gaikoku_shien.html) こうした自主的な支援活動には、教員にとっては負担ではありますが坪谷さんは「外国につながる子どもたちに対する支援は、高校にとっても財産である」というメッセージを伝えています。
坪谷さんは 「外国につながる子どもたちに対する支援を『特別な個別指導』ではなく、普遍的なサポートにしていくかが問われています。教育という営みは、もともと多文化的であることを強調しておきたい。外国につながる子どもたちの可能性を伸ばす実践が、特別な荷物や負担としてではなく、日本社会にとっても取り組むべき重要な問題としてととらえることが求められています」と、セミナーを締めくくりました。
このほか、都市社会研究科でブラジルの日系移民について研究している現役社会人大学院生である中沢英利子さんも登壇し、入学に至る経緯や思い、社会人が大学院で学ぶ意義などについて報告しました。本セミナーはテーマを変え、第2回以降も開催するとのことです。