2016.02.15
地域のキーパーソンからまちの課題と取り組みを聞き、交流を深めるイベント「ローカルグッドカフェ」(LGC)が、2月5日に旭区の西ひかりが丘商店街内にある地域作業所カプカプにて開催されました。LGCは、地域課題解決プラットフォームサイト「LOCAL GOOD YOKOHAMA」が主催する交流イベント。ウェブサイト上だけではなく、顔を合わせて話を聞き、それぞれの活動に学ぶ場として位置づけられています。地域で活躍する人、地域で暮らす人の視点から地域の課題や意義ある活動について紹介しあい、これからのつながりをつくることが目的です。
また、今回のLGCは、その旭区にある地域作業所「カプカプ」が新しく挑戦するクラウドファウンディングのキックオフイベントでもありました。当日は30名近くの参加者が集まり、「カプカプ」所長の鈴木励滋さんを中心に、カプカプのこれまでの活動や今後の展望、「障害」や「出来ないこと」についての捉え方、そして地域で支え合うことの重要性について、集まった皆で共有する場となりました。
【地域とつながる作業所】
地域作業所カプカプは、1997年にひかりが丘開所し、1998年には喫茶スペースが誕生しました。その後人員が増えて作業スペースが足りなくなったことから、2002年には竹山に、また2010年には川和にそれぞれ新たに開所し、現在では旭区では19名、竹山では17名、川和では20名と、3地域のカプカプで合計56名の障害をもつ人、生きづらさをもつ人が働いています。1997年からは運営委員会を母体として、横浜市の助成金で運営される地域作業所でしたが、2009年にNPO法人化し、地域活動支援センター障害者地域作業所型となりました。
旭区は、高齢者数は市内第1位、高齢化率は同第2位にあり、高齢者をはじめとした区民の健康づくりや地域の福祉を推進し、区民の誰もが安心して住み続けられるまちづくりが求められています。カプカプが立地するひかりが丘団地でも、3人に1人は高齢者という状況があります。
カプカプひかりが丘は、木のぬくもりと、そこに集う人たちの手作りの品々が溢れる喫茶店で、店の外には地域の人たちが持ち寄った「自分の家ではいらないけれどまだ使える、着られる品」が並び、地域の人たちが店に入ってきて試着したり、そのままお買い上げしていったり、コーヒーを飲みにきたりと、地元の人たちの日常生活の一部になっています。
カプカプで働く生きづらさや障害を持つ人たち(通称カプカプーズ)は、喫茶、製菓、ものづくり、リサイクルバザー、ポスティング、接客といった業務を担っています。また、カプカプではこのような活動以外に、地域の中で一般的な作業所とは異なった役割も多く担っています。例えば、この地域ではかねてからコンビニのような印刷が出来る場所が少なかったことから、コピーができるサービス提供しているほか、夏休みのクッキー教室やハロウィンパーティー、月1回のお悩みカフェも実施しています。特に、スタンプカードをなくしてしまうお客さんのために行っているスタンプカードお預かりサービスは、お客さんの名前を覚えるきっかけとなり、地域の中に名前と顔のわかる関係性を作っていく良い契機になっているそうです。
喫茶という場以外に、カプカプーズのこうした業務ひとつひとつが地域とつながる機能をもっていると鈴木さんは言います。
【生きづらさをもつひとが緩まる場所を目指して】
鈴木さんは、障害とは「生きづらさ」であり、その生きづらさは「関係」をさしている、「関係」というのは、片方が「そう」だが、もう片方は「そうでない」ことから、片方が嫌な想いをすることを意味していると語りました。そして、その「生きづらさ」は、障害だけではなく、高齢者や生活の苦しい人、外国人の方など、しんどいと思っている人がそれぞれもっているもの。そういう人が困ったときに駆け込める場所や、しんどさが緩まる場所を地域の中につくっていきたいと話していました。
緩まる場づくりを目指す鈴木さんが大切にしているのは、「地域と一緒に」ではなく「地域で一緒に」という考え方。地域の人に「○○してください」と頼むのではなく、地域の一員として何ができるかを考えながら活動することが大切だということを意味しています。また、どこかに理想的な場所というものが存在するわけではない中で、居場所を作っていく上で重要なのは、だれかのために(してあげたい)という視点や、自分のために(居心地よくしたい)という視点ではなく、“誰にとっても”という視点であると言います。そうした視点を持ちながら活動をすることで、誰もが排除されない場を作っていくこと、育てていくことが可能になるのではと話していました。
【できる関係性をともに作る】
鈴木さんのお話の後には、参加者の方たちとの対話の時間が設けられました。その中で、カプカプと同じように困難を抱えた方たちの作業所でスタッフをしているという男性から、「地域と作業所のメンバーをつなぎたいが、シャイなところがあり難しい。人とかかわるのがすごく苦手な人もいる。そういうメンバーにはどのように地域との関わりを促していけばいいのか」という質問が投げかけられました。これに対して鈴木励滋さんは、「地域と関わるのは絶対善とは必ずしも言えないし、ここのメンバーにも一様に地域と関われとお尻を叩いているわけではない。そうした中で大事なのはメンバーの邪魔をしない、やろうとしていることを殺さないということ。そうした意味では、働き方は人それぞれだし、いつか繋がればいいというくらいに思っている」と話しました。
また、カプカプスタッフの鈴木真帆さんは、自身がアメリカに住んでいたとき英語での意思疎通に不自由を感じた経験から、何かが出来ないということの意味を改めて考え直すことになった、出来ないことがある人と「できる関係性」を一緒にどうやって作っていくかが大事だと考えるようになったと、話しました。
【カプカプ本の出版について】
今回のLGCでは、カプカプの思想や活動をまとめたカプカプ本出版のためのクラウドファンディングの紹介がありました。誰もが排除されない地域や場を、広い範囲に拡大させていきたいという想いを持ちながら、まずはひかりが丘団地を中心とする地域に密着した活動を続け、今ではカプカプが地域の人に立ち寄ってもらえる場として浸透してきたという認識を持てるようになったことから、今後同じような場所や、同業者/賛同者を増やしていくため、今回カプカプの活動を紹介する本を出版することになりました。
LGCには、カプカプの本の出版プロジェクトに関わっている編集者の大谷薫子さん(モ・クシュラ株式会社・代表)や、デザイナーの阿部太一(GOKIGEN・代表)さんも参加していました。大谷さんからは、「もともと地域作業所には親しみがなかったが、重ねてくるうちにカプカプという場の心地よさを感じるようになった、それを伝えられる本が出来たら」、阿部さんは「デザインの面白さは、きちんと「分けられたもの」や「整理されたものでなく」むしろ「わかりにくいもの」にあるのではないかと思う、カプカプにもそのような面白さがある」と話していました。
今回、出版したい本は、B5版全64ページフルカラー。鈴木さんは、「価値観の転換」をはかるための作戦について「空間をつくる」「カネをつくる」から「関係をつくる」「つながりをつくる」まで、プロセスを6つに分けて具体的に説明をしています。また、あつまった金額に応じて、本から漏れてしまった文章や新たなコンテンツを追加したフリーペーパーもつくりたいと企画しています。
LGCが行われた2月5日(金)から本の出版のためのLOCAL GOOD YOKOHAMAクラウドファウンディングが開始され、順調な滑り出しを見せています。ぜひ今後のカプカプの活動の展開にご注目ください。