エリアリポート

【レポート】寿町に暮らす人が人生を語り、語られた人生を後世に残す。「聞き書き本」が完成

住民とボランティアの協働のカタチ

  寿町に暮らす人が人生を語り、語られた人生を「聞き書き本」として後世に残す。横浜市ことぶき協働スペースでは、この活動を、住民の方、そしてボランティアとともに進めてきました。このほど住民同士の「聞き書き」のスタイルで、2冊の「聞き書き本」が完成しました。聞き手と語り手とボランティアの三者の協働がカタチとなった本のタイトルは『流れゆく日々』、そして『南の旅人』。語り手の思いが詰まった、味わい深い人生が綴られています。

 寿町には、昭和の時代の港湾荷役の重労働を支えた人々を含め、さまざまな苦難を乗り越えた人々が住み、中には50年以上にわたり、この町の歴史を見てきた人もいます。寿町に限らずどこの町でも、誰の人生にも、それぞれの出会いやドラマがあり、その人が主人公の物語を残すことは、時代の、その地域の暮らしの生きた証言としても味わい深いものとなります。今回創刊にたどりつけた、語る人と聞く人の共同作業である「聞き書き本」が生まれるまでに歩んできた経緯を振り返ってみます。


 2020年2月、「聞き書き」を社会に広める活動をしている作家の小田豊二さんを講師に迎えてワークショップ「聞かせてください、あなたの人生」を開催しました。聞き手が聞きたいことではなく、語り手が語りたいことを聞かせていただくにはどうすればよいか。小田さんの実践から、相手が語りたくなる「言葉の薬箱」を用意しておくこと、そこで太鼓とバチのように互いに響き合い、語りが弾んでいく過程を体験しました。

 このワークの直後に、楽しい対話の自粛が求められたコロナ禍に世の中全体が包まれてしまいましたが、2021年7月~8月にかけて、聞き書き活動への思いを実践につなぐ傾聴講座を開催します。「よこはま回想法倶楽部」がめざす「回想法」は、よい聴き手の意味を深めるものとなりました。同年11月から開始した、「寿・人生カタリバ」は、「聞き書き」活動同様に、語り手と聴き手がつくる和やかな空間づくりの活動です。毎月第土曜日の午後に定期開催となったカタリバは、住民の皆さんだけでなく、寿町の活動に関心を持つ地区外の方との交流の場ともなっています。

 昨年12月の暮れのこと、この交流の場に参加された住民お二人から、2020年に体験した聞き書き本制作へのチャレンジの思いをお聞きしました。講座で学んだことを生かしていきたいという強い意志は、住民同士で「聞き書き」し合う段階まで進んでいました。お互いの人生を聞き手が執筆した、手書きの原稿を見せていただいたのです。多様な主体の協働を目ざす私たちは、これを一冊の本として活字に起こし、編集するボランティアプログラムを早速想定します。そして、この活動に参加の価値を見出してくれたのは、寿に関心を寄せる作家志望のボランティアでした。

 こうして、1月、2月、3月と、住民相互の執筆活動とボランティアとの編集打合せが繰り返されました。住民自身が段取りを決め、役割を交互に分担して人生の記憶や思いを言葉で紡いでいく、それを文字に落とし込んでは、一緒に読み返し編集する。語り手と聞き手と書き手の三役をこなしつつ、読み手のボランティアの思いにも寄り添い、みんなで校正し合った3か月はあっという間に過ぎ、行間をつなぐイラストを付加して校了しました。

 最終行程の製本作業はこのプロジェクトに参加した7名全員(住民2名、ボランティア1名、交流協会職員1名、協働スペース職員3名)で取り組みました。写真は、こうしてできあがった聞き書き本です。寿地区で出会った二人のそれぞれの人生が、読み物としてカタチになった感慨はひとしお。ボランティアの浅野さんとの記念撮影はとてもいい表情を見せてくれました。これは後日談ですが、出来上がった本を見た住民の友人には、感動のあまり読みながら涙ぐむ人もいたそうです。

 聞き書き本完成に至る工程に参加し、住民とボランティアの協働をつないだことは、ことぶき協働スペースにとっても大きな喜びとなりました。一人の人生の脳内にあった記憶が、言葉や行間をとおして隣人にも後世にも共有できる「聞き書き本」。時間と空間を超えた新たな作品が、この寿町から更に生まれることを願っています。

※本記事は、横浜市ことぶき協働スペースからの転載記事です。
https://kotobuki.space/phvYe846/20220513

ライター紹介

横浜市寿町健康福祉交流センター内に開設した、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボが運営する寿地区の地域包括支援・調査研究などの事業拠点「横浜市ことぶき協働スペース」。協働のご提案、スペースのご利用、ボランティアへのご関心など、どなたでもお気軽にご相談ください。 kotobuki.space

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