テーマリポート

【レポート】身近なもので目に見える循環を。神奈川大学学生が循環型経済の実現に向けたプロトタイプを提案

 

「身近なもの同士を循環させて、リサイクルの機運を高めたい。」

 

環境汚染をはじめさまざまな社会問題が顕在化している今日、廃棄をなくし、資源を循環させる経済の仕組み「サーキュラーエコノミー」がキーワードとして取り沙汰されています。神奈川大学経営学部国際経営学科の道用大介准教授はこの新たな仕組みを学生が学び、実際にプロトタイプを制作するプロジェクト「Circular Design プロジェクト」を主催。3月29日、学生が制作したプロトタイプを企業向けに提案する最終発表会がみなとみらいキャンパスで行われました。

 

サーキュラーエコノミー(循環経済/循環型経済)とは・意味

 

循環型経済を実践的に学ぶ「Circular Design プロジェクト」

 

「Circular Design プロジェクト」は、神奈川大学経営学部の道用大介准教授が自身のゼミナールで進行する、サーキュラーエコノミーの実践を目的としたプロジェクトです。

デジタルファブリケーションを学ぶ経営学部の学生 14名が参加し、横浜市内の循環型経済を加速させることを目指したプラットフォーム「Circular Yokohama」を運営するハーチ株式会社の協力のもと、2ヶ月に渡るディスカッションやワークショップでアイデアを育て、最終日は各チームが制作したプロトタイプが発表されました。

それでは、8チームそれぞれの成果物を見ていきましょう。

 

  • プラごみから作るオリジナル学生証
  • 削り屑から作る無限鉛筆
  • 廃棄予定の花を再利用
  • ペットボトルキャップをおもちゃに
  • 思い出の絵本を壁紙に変身
  • リサイクルの優等生・段ボールを活用
  • 果物の皮から作るマドラー
  • 修理が簡単な子ども用傘

 

プラごみから作るオリジナル学生証


「プラスチックの使用量を減らせない以上、そのゴミを循環させていくことが地球環境を守ために最も良い方法だ」
と話す「学生証チーム」が提案したのは、コーヒーフレッシュやガムシロップといったプラスチックゴミを再利用して作る学生証です。

同世代の学生のリサイクル意識を高めるには、身近なもの(コーヒーフレッシュなど)から身近なもの(学生証)を作り出すことが有効だと考え、このアイデアに至りました。カフェやメーカーなど、材料であるプラスチック容器の回収に協力してくれるであろう事業者は多く、発表者によると、神奈川大学の学生分だけでおよそ37万個の容器をリサイクルできます。

今後の商品化を見据えているそうで、チームの代表は「他の学校と違う学生証を持つことで、サーキュラーエコノミーに興味関心を抱く学生が増えてほしい」と話しました。

 

削り屑から作る無限鉛筆

 

ノートやメモ帳に字を書くときに使う鉛筆を最後まで使い切ったことがある人はいるでしょうか。完全に消費することが物理的に難しい鉛筆ですが、まだ使える部分を捨ててしまうのは勿体無いという発想から、「えんぴつえんぴつチーム」が発案したのが、削りカスを再利用する鉛筆、いわば無限鉛筆です。

無限鉛筆は、溶かした仏壇用ろうそくと鉛筆の削りカスを混ぜ、中央に芯を入れることで完成します。無限鉛筆から出る削りカスは新しい鉛筆の材料として使えます。また、削りカスに加えもう一つの材料・ろうそくも、短くなったら無限鉛筆の制作に回すことができる点が特徴です。

えんぴつえんぴつチームは「デジタルツールの導入により、子供の手書き離れや筆圧の低下が起こっています。この無限鉛筆を自分で作る経験を通して、鉛筆に親近感を抱き、ものの循環を肌で感じるきっかけとなれば嬉しいです」と期待を込めました。

 

廃棄予定の花を再利用

 

花を育てたり、生けたりすることが趣味の学生が集った「ドライフラワーチーム」が問題視したのは、年間約10億本も廃棄されている、枯れて観賞用の価値が無くなった花の存在です。枯れた花にもそれぞれに思いや意味合いがあり、鑑賞用の役割を終えても利用できると考え、ドライフラワーとして応用するアイデアを発想しました。

作り方はシンプルで、枯れた花の花びらを押し花にして固めます。押し花自体も綺麗ですが、強度を高めてバッグやポーチに貼り付けることで可愛らしいデコレーションや、押し花に穴を開けてポストを通せば、オリジナルのピアスにもなります。

花と花に込められた思いが循環する社会を目指すドライフラワーチームは、「バッグやアクセサリーといった形で花に込められた思いを身につけることで、毎日に華やかさと癒しを与えられれば」とコメントしました。

 

ペットボトルキャップをおもちゃに

 

ペットボトルキャップのリサイクルは、ボランティア活動の一環として取り組んでいる学校が多いことから身近に感じている人も多いはずです。しかし、実際に回収されたキャップが買い物かごやTシャツに加工されていても、あまりに綺麗に成形されておりリサイクルの循環を実感できていません。

そこで「子ども用おもちゃチーム」は、あえて目で見て分かるようなリサイクル製品を作ることでその実感を生み出そうと、ペットボトルキャップを材料とする子ども用おもちゃを制作しました。

キャップを細かく刻み、平になるよう成形してできるおもちゃは、可愛らしい色味で子どもが喜んで使うこと間違いなし。原料は全てプラスチックなので、分別の必要もなく再度リサイクルできます。

「フォークやスプーンなどカトラリー類へのリサイクルを想定していた」と振り返る子ども用おもちゃチーム。実際に作ってみると、食欲を落とす色味であったり、リサイクル製品を口にすることへの抵抗感があり、おもちゃへのシフトチェンジを決断したそうです。2ヶ月という短い期間に多くの試行錯誤を重ねた過程が垣間見えました。

 

思い出の絵本を壁紙に変身

 

読まなくなった絵本のページを、壁紙に変身させるチームもありました。小さい頃に読んでいた絵本は、他の人に譲ったり、処分して製紙工場にてリサイクルさせたりして循環するのが一般的です。

「壁紙チーム」は、目に見える形で思い出を残す方策での循環を目指し、絵本のページから壁紙を制作したと言います。チャーミングで可愛い絵本の壁紙は、子ども部屋はもちろん保育園やショッピングモールのキッズスペースなど、多くの場所に設置したいとのことです。

また、両面印刷された絵本を最大限活用しようと、壁紙に次いで暖簾を作り上げました。絵本を壁紙や暖簾にリメイクすることで「絵本の作者の思いが届き続けるし、子供の頃の思い出をいつまでも心に残すことができると思います」と、チームの代表は思い出が循環する意義を話します。

 

リサイクルの優等生・段ボールを活用

 

「段ボールはリサイクルの優等生」と話すチームが制作したプロトタイプは、段ボールを加工してできた机や椅子、テイクアウト用のバッグです。梱包以外の用途を模索する中で、まだ使えるのに捨ててしまうものを段ボールで代替しようと思い立ったのがきっかけだと話します。

子どもの成長は早く、当時はちょうど良かった机や椅子もすぐに小さくなってしまうもの。そういった家具を丈夫で加工しやすい段ボールで作ることにより、長い間使うことが可能となります。デパ地下やドライブスルーを利用するたびにもらう紙袋の代わりとなる段ボール製バッグも、長期間の使用を想定しています。

今後は、子どもが学校で作った作品を飾る作品展示用スタンドや、観葉植物用の置き物も段ボールで代替していくと話し、愛着を持って同じものを使い続けることの重要性を強調しました。

 

果物の皮から作るマドラー

 

家庭で果物を食べる人は多くいると思いますが、皮まで残さず食べている人は少ないのではないでしょうか。「マドラーチーム」は、栄養豊富な果物の皮を最大限に活用したいと考え、皮を棒状に成形してできるマドラーを提案しました。

紅茶などの飲み物を混ぜるときに使用するマドラーを果物の皮で代替することにより、果物の風味や香りも一緒に楽しむことができます。例えば、りんごの皮は柔らかく砂糖に溶けやすいため甘い飲み物にぴったり。オレンジやレモンは柑橘の風味が飲み物に移りマイルドになることが分かったそうです。

今後は果物の皮をティーバッグに詰めた、フルーツバッグの開発も検討しているとのこと。マドラーチームは、「余すことなく皮まで食べることでゴミが減り、また砂糖などの甘味料を使わずに味変できます。このマドラーを使ったティータイムが癒しの時間になれば」と話し、果物の楽しみ方に新たな可能性を示しました。

 

修理が簡単な子ども用傘

 

最後のチームが提案したプロトタイプは、リサイクル可能な子ども用傘「Childrella(チルドレラ)」です。傘で視界が遮られ、子どもが巻き込まれる事故が発生したり、子どもが故意に傘を壊したりするなど、雨の日特有の課題が現在多く残されています。

チルドレラチームは傘に関する課題を念頭に、「家庭のプラごみを再利用し、壊れても修復が簡単で、子供の事故を減らせる傘を作れないか」と考え、チルドレラを試作しました。

傘の生地部分はポリエチレン製のレザーバッグを、先端の石突はペットボトルキャップなど、素材は全て家庭から出るプラスチックゴミとなっています。破れた生地は1枚ずつ張り替えることができ、子どもでも修繕しやすい仕組みが特徴的です。また反射アップリケでデコレーションしており、事故を防ぐデザイン性も備えられています。

発表会後もさらに改良を続け、商品化を目指すチルドレラチーム。今後は、使い終わった傘を特定の店舗に持ち込むとポイントや賞状を親子に付与するなど、面白い仕掛けを構想中です。

 

原体験を製品アイデアに

 

各チームのプロトタイプ発表後、学生と参加した企業の代表によるフリーディスカッションタイムが設けられました。

実際に制作した製品を囲むようにしてお互いに意見を交換しあい、企業の方からは、「身近な視点や思いから商品を開発している、その視点が素晴らしい」といった感想や、「段ボールのチームと壁紙のチームがコラボするのはどうか」といったアドバイスが送られており、企業側にとっても刺激的なイベントであったことがうかがえました。

 

 

おわりに

「Circular Design プロジェクト」の根幹を担うサーキュラーエコノミーという概念は、政府や一部の企業による取り組みで成立するものではなく、あらゆる立場の人々が共に手を動かし、自分たちごととして推進し、実現を目指せるものです。

このプロジェクトでは、大学生が自分たちの視点でものや思いが循環するようなアイデアを着想し、プロトタイプの制作まで漕ぎ着けました。次のフェーズは生まれたアイデアやプロトタイプをブラッシュアップし、社会実装していくことでしょう。循環を志す思いが地域中を巡り、行政や民間企業、そして市民一人ひとりが協働する未来が待たれます。

 

参加いただいた企業

 

  • ハーチ株式会社
  • 株式会社Nature Innovation Group(アイカサ)
  • 株式会社Innovation Design
  • 株式会社テクノラボ
  • 富士フイルムイメージングシステムズ株式会社
  • 三菱鉛筆株式会社
  • 無印良品 港南台バーズ   

※順不同

ライター紹介

2001年生。神奈川県在住。横浜市立大学国際商学部に在学。起業家人材論ゼミに所属し、起業家精神やスタートアップ・エコシステムの分野を学習している。趣味はラジオやPodcastなど音声メディアの視聴。自称「感化請負人」。ライティングの関心分野はローカル・コミュニティや環境保護活動。

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