テーマリポート

【レポート】女性起業家が社会を前進させる。横浜市大同窓会がSDGsシンポジウムを開催

社会の現状を変えるためには、女性起業家の拡大が不可欠—

 

3月12日、ランドマークタワー7階の横浜市立大学みなとみらいサテライトキャンパスにて、「YCU REUNION SDGsシンポジウム2022」が開催されました。金沢八景にキャンパスを構える横浜市大の同窓会が主催した本イベントでは、国際的な開発目標・SDGsの5番「ジェンダー平等を実現しよう」を重点分野と位置付け、女性の起業・創業の拡大に向けた現状の認識や課題について議論が交わされました。

女性の社会進出が活発になりつつある今日において、ビジネス環境でも性別に依らない公平な取組が求められています。第一部では、起業支援アドバイザーの井手美由樹氏による基調講演、そして第二部では横浜市大の卒業生や在学生であり起業家の方々によるパネルディスカッションが行われ、女性起業家の活躍に向けたヒントが探られました。

 

キーノートスピーチ〜女性起業の現状と課題とは〜

 

起業したい女性が一歩踏み出せる社会には、何が必要なのか。第一部の基調講演に登壇したのは、起業支援アドバイザーとして多くの方々の会社の立ち上げをアシストしてきた、 Ideal Works(認定経営革新等支援機関) 代表取締役の​​井手美由樹さん。

 

データで見る女性起業の現状と、パーパス経営

女性起業の現状を把握するために、井手さんははじめに起業や事業運営に関するデータを紹介しました。井手さんによると、2021年時点で全体に占める女性社長の割合は、わずか8.1パーセント。年々増加傾向にあるものの、会社の指揮をとる女性の数は10人中1人にも満たないのです。

開業後の心配事として男女間で違いが現れるのは、家事や育児、介護と仕事の両立です。この点では女性の方が懸念材料としてあげる人が多く、自身の子や親に対する意識の違いが見られます。また、男女共通して見られる特徴が、経理・税務・法務・マネジメントの知識に自信がない人が多いことです。井手さんは、「起業を支援する立場の人たちが、この辺のサポートを手厚くしていく必要がある」と提起しました。

自社の存在意義を定義する「パーパス経営」を着想することも、ビジネスパーソンには欠かせません。コロナ禍で再度明らかになったように、外部環境の変化はあらゆる事業に影響を及ぼし、変化に対応できない企業は淘汰されていきます。

不確実性が日に日に高まる時代を生き抜くには、どんな事業を始めるのか、またどう既存事業にテコ入れしていくのか。「パーパスの定義と事業の成長は不可分である」と、井手さんはパーパス経営の本質を強調します。

 

パーパスとは?経営で注目される理由や取り入れ方、参考事例を紹介(ツギノジダイ 朝日新聞社)

 

起業を後押しする支援策

では、起業家の背中を後押しする外部環境はどういったものが挙げられるでしょうか。井手さんは、資金面で創業者を手助けする支援策を3つ紹介しました。

 

  • 登録免許税の減免・・・横浜市認定のセミナーを受講・卒業すると、登録免許税が半額。
  • 融資・・・横浜市の「創業おうえん資金」制度、日本政策金融公庫の「新規開業資金」など多数。
  • 小規模事業者持続化補助金・・・応募時の内容が優れたものと認められると受けられる補助金。

 

お金の工面に多くの起業家が頭を悩ませている中で、井手さんは「いろんな支援策をうまく活用いただきたい」と外部にある応援環境を積極的に役立てるよう奨励しました。

講演のクロージングとして、井手さんから起業を志す全ての方にエールが送られました。

「みなさんが少しでも抱いている思いが、全ての出発点です。ただ思っているだけでは事業になりません。どれくらいの規模にしたいのか、どれだけ稼ぎたいのか、数値を絡めて目標を立ててみてください。目標が定まれば、あとは実行するだけ。ぜひ、起業を生きる術の一つとして選択肢に加えていただければと思います。」

性別にかかわらず、起業したい人が一歩を踏み出す上で未だ制度的、社会的課題は残されています。しかし、手を差し伸べてくれる人や組織がいるのもまた現実です。思いを形にできる手段として、多くの参加者が前向きに起業を志せるようになった講演でした。

 

パネルディスカッション〜起業家の先輩が女性起業のヒントを探る〜

 

第二部では、横浜市大の卒業生や在学生であり、起業家として活躍される5名の方をパネリストとして迎え、女性起業を拡大していくための手がかりを議論。

 

登壇者

  • 飯田峰子さん yururi salon × HanaUta café 代表/株式会社共路観光 代表取締役
  • 関芳実さん 株式会社StockBase 代表取締役
  • 松尾幸治さん 株式会社リチカ 代表取締役 
  • 松島有理さん ココミライ株式会社 代表取締役
  • 吉原彰子さん 株式会社ナカガワ 代表取締役/富士山麓マイクロツアーズ 代表
  • 福士紗英さん 横浜市大卒業生/IT 関係の企業に勤務
  • 金子延康さん 横浜市大同窓会会長 

 

井手さん:自己紹介を兼ねて、はじめにどんな事業をされているのか、どうして起業の道を選んだのかについて教えてください。

 

 

飯田さん:「長女が1歳の時に、1、2階がお子さま連れ優先の座敷がある惣菜カフェ、3階が美容室のお店をオープンしました。私自身が妊婦だった頃、子連れで気軽に足を運べる飲食店があまりなかったんです。そこで、かねてからの夢であり、やりたいことをすぐに挑戦できる環境として、妹と一緒に開業しました。開業して良かったのが、面白い人と一度人間関係を構築すると、その関係がずっと継続するんですよね。それが新たな事業や人生の魅力に繋がっていると思います。」

 

 

関さん:「2021年に、関内を拠点に開業した株式会社StockBaseの代表を務めています。StockBaseでは、「廃棄を削減して循環型社会を実現する」ことを目標に、不用品を有効活用するプラットフォームを運営しています。もともと起業の意志は全くなく普通の大学生だったのですが、とある企業との交流を通じて、誰かにとって不要なものは、他の誰かにとって欲しいものかもしれない、という気づきを得ました。そこから、両者をうまくつなげる循環の仕組みを作りたいと一念発起し、創業に至りました。」

 

 

松尾さん:「起業の経緯ですが、以前勤めていた会社が資本政策に失敗して、結局会社が解散したんです。そのまま別のところに就職すれば、生活の質が落ちるのはまだしも住民税が払えなくなる、ということで、起業を決意しました。2014年にカクテルメイク株式会社(現株式会社リチカ)を設立し、現在は法人向けに動画広告やバナー広告を自動で簡単に生成できるシステムの提供を行っています。」

 

 

松島さん:「まちづくりのイベントや地域ブランドのマーケティングなど、地域振興に関わる事業を手がけるココミライ株式会社を運営しています。一言で言えば便利屋のような会社ですが、事業の根底として相手の本質的な課題を見つけ、解決に向けて伴走することを大事にしていますね。何かやりたいことがあったというよりも、「ありたい自分」を実現できる働き方を求めていて、そこで起業を選択肢として選びました。」

 

 

吉原さん:「現在は静岡県で、創業から54年となる婦人服専門店株式会社ナカガワを営んでいます。コロナ禍になってからは、実際の店舗は必要なのかと、自分たちの存在意義を問うようになりました。そんな中でも、ついてきてくれる顧客のためにできることは、ネット販売ではなく、昔買ってもらった洋服を修繕したり、飽きないで着られる服を提案することであり、こうした事業を通じてゴミを減らすなど社会に貢献できるお店になればと思って続けています。」

 

 

福士さん:「2021年に横浜市立大学を卒業し、まだ起業はしていませんが、これから起業してみたいと思っている1人です。この後のディスカッションが非常に楽しみです!」

 

 

金子さん:「横浜市大同窓会の会員は32000人にのぼり、会員の一人ひとりが持つネットワーク、経験を集結すれば、地域や地球の課題の解決に貢献できるのではないかと考えています。これからも、横浜市大の同窓生を繋ぐソフトなインフラとして同窓会の役割を果たしていきます。」

 

起業家が抱える悩み事

 

井手さん:「いきなりですがお金のことを聞いてもいいでしょうか?事業を始める際の心配事というとやはりお金が真っ先に上がると思うのですが、皆さんは起業資金をどう見積もりどう調達したのか、また金融機関やベンチャーキャピタルの方とどのようにお付き合いしているのかを教えてください。」

飯田さん:「金融公庫に何度も面談に行ったのですが、結局借りられなかった経験があります。美容師の妹が未婚であることからリスクが高いと思われたりしました。」

井手さん:「最初は自己資金だけで始めたのですね。」

飯田さん:「開業の際は1000万円ほどかかりました。開業後に1番びっくりしたのが消費税です。あんなに高くなるとは全く知らなかったので、事前に聞いておくべきだったと思います。」

井手さん:「起業を目指して貯金し続ける計画性とガッツが素晴らしいです。」

関さん:「私たちは会社設立前にビジネスコンテスト(以下ビジコン)に出場して、そこで得た賞金を資本金として入れました。ビジコンではオフィスの利用権もいただいたり、また学生ということもあって、ランニングコストはほとんどなかったです。」

井手さん:「賞金をパッと使うのではなく資本金に回しているところに、StockBaseのお二人の魅力がひしひしと感じられます。お金に加えて集客も悩ましい点ですが、1番最初のお客様を確保する時であったり、みなさんは集客についてどのような工夫をされていますか?」

関さん:「私たちのビジネスは企業側と受け取り側の両サイドに顧客がいるのですが、前者については、ビジコンに出場した際に交流した企業とまずマッチングをしました。受け取り側は電話で売り込みをして集めてきました。」

松島さん:「地域振興など公の事業は毎年コンペで勝ち進み、実績を積んでいく感じです。民間の仕事は、前職で私にお願いしたいと言ってくださる方がいて、その方と関係性を築いていたので、会社を移るごとにお客様がついてきてくださり大変ありがたかったです。」

井手さん:「松尾さんはBtoBの事業を展開していらっしゃいますがいかがでしょう?」

松尾さん:「いただいたお仕事をしっかりこなして信頼を得るのがベースにあります。そこで作った実績を次のお客様の獲得につなげる、というサイクルを続けています。」

福士さん:「お話を聞いていて気になったのですが、皆さん1日の時間の使い方ってどうされているのですか?お子さまがいらっしゃる方は育児も生活に入ってきますし、私だったらパンクしそうです。」

飯田さん:「分単位で動いています!朝は子どもを保育園に送るところから始まり、店舗に出勤して13時までは調理、その後宿泊施設(Yokohama Guesthouse HACO.TATAMI.)の掃除など。2人の子どもの迎えに行って、家に着くのは大体20時ごろになります。」

関さん:「開店時間など決まった時間はないので、企業の方とのミーティングをまず入れて、その合間に資料作りや社内の仕事を済ませるなど、忙しく過ごしています。」

 

構えず、頑張りすぎずに

井手さん:「最後に、これから起業したいと考えている方に向けて、アドバイスやエールがあれば伺いたいです。」

松尾さん:「起業と一口にいってもその形は多種多様になってきていますし、今はパソコンやスマホがあれば誰でもビジネスを始められますので、構える必要ありません。ただ、社員の雇用など責任がついてくるし、お金がなくなったら事業を続けられないので、リスクヘッジといったバランスの取り方が重要になると思います。」

松島さん:「頑張りすぎる人が多いのですが、私自身体を壊した経験からも、少し肩の力を抜いて取り組むことが大切です。そして起業するとなったら、最後に必要なのは覚悟。覚悟を持って、頑張りすぎずに楽しみましょう。」

関さん:「ゼロの状態からここまで来れたのは、たくさんの方が協力してくれたおかげで、やはり人との繋がりは大事だなと思います。どうやって繋がりを作るかというと、自分がわからないことやできないことを、どんどん外に発信したり相談していく。誰かに伝えることが最初のアクションになるかと思います。一歩踏み出すことは勇気がいることですが、必ず誰かが助けてくれるので、頑張っていただけたら嬉しいです。」

飯田さん:「ひとつアドバイスとして、固定費が少ない段階で起業にトライしてみてください。特に女性の場合は妊娠、出産、育児といった他の要因によって費用がかさみ、精神的に苦しくなることもあるので、少ない固定費のうちに事業のイメージを膨らませながらスタートすることがおすすめです。また、女性は社会や地域をよくしようと本能的に考えると思っており、女性起業家が増えていけば、社会が良くなると期待しています。」

吉原さん:「結果的に私もなんとかなっています。子どもが就職したり嬉しいこともたくさんあります。お店をやっていて実感しているのは、企業がどんどん規模を拡大していく時代から、コンパクトさを求める時代へ変わってきているのは確かだと思っています。」

 

おわりに

国際的な目標である「ジェンダー平等」の実現に向け、横浜市大同窓会が開催した今回のSDGsシンポジウム。起業を志す女性が直面し得るハードルを改めて認識する一方で、起業支援アドバイザーの井手さんやパネリストからの力強い言葉を背に、一歩を踏み出す勇気が湧いてきた方も多くいたのではないでしょうか。

ジェンダー平等は目標から文化にまで落とし込まれなければいけません。性別にかかわらず、起業をひとつの手段として誰もがチャレンジできる雰囲気が社会に行き渡るために、一人ひとりの意識改革が待たれます。

ライター紹介

2001年生。神奈川県在住。横浜市立大学国際商学部に在学。起業家人材論ゼミに所属し、起業家精神やスタートアップ・エコシステムの分野を学習している。趣味はラジオやPodcastなど音声メディアの視聴。自称「感化請負人」。ライティングの関心分野はローカル・コミュニティや環境保護活動。

facebook twitter
ニュース一覧へ戻る