2021.12.07
長期化するコロナ禍と気候変動による自然災害の日常化、そして急速に進む少子高齢化と、今、横浜市民の暮らしは、かつて経験したこともないような危機に直面しています。
この危機を乗り越えていくための一つの試みとして、横浜市はこの12月1日、YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス(横浜市磯子区、代表理事:河原勇輝)、横浜コミュニティデザイン・ラボ(横浜市中区、代表理事:杉浦裕樹/森由香)、ハーチ(東京都中央区、代表:加藤佑)と、リビングラボを通じた循環型経済(サーキュラーエコノミー)を公民連携により推進する協定を締結しました。
4者による連携協定は、横浜版の地域循環型経済ビジョン「サーキュラーエコノミーplus」に基づき、循環型経済の推進を通じて、脱炭素社会や共生社会を実現し、市民のウェルビーイングの向上に寄与することを目的としています。
21世紀になって情報技術が著しく発達する事で、時間や空間の障壁が低くなり、地球全体がフラットになりました。その気になれば、個人がいつでも、何処でも、オンライン上で、地球上の誰とでも繋がり、学び、働くことのできる時代が来たわけです。特に新型コロナウィルスのパンデミックに世界中の人々が直面したこの2年間で、人々の身体的な移動が抑制された分、オンライン会議の急速な普及に象徴されるように、インターネットによる地球全体のフラット化は、ぐっと加速しました。
一方で、深刻化する気候変動と相まって、国連が定めた、未来に向けての持続可能な社会経済開発のビジョンである「SDGs」。その考え方が、日本でも徐々に広がっていくことで、あらゆる市民が、自らの本業(生業)を通じて繋がり、社会課題の解決に参加する。すなわち、かつてアルビン・トフラーが予言した「プロシューマー」が、生産の場と生活の場を融合させながら、社会経済を再構築する。そんな時代が訪れようとしています。
このような21世紀になってからの地球規模の環境変動と社会経済のドラスティックな変化に拮抗するため、4者連携協定で唱える「サーキュラーエコノミーplus」とは、SDGsの17の目標を横浜の風土や社会経済のあり方に落とし込んだうえで、自分らしく学び、働き続ける多様な市民がそれぞれの生業や実業を通じて、持続可能な都市をつくるためのビジョンであり、横浜のリビングラボは、このビジョンを実現するために、それぞれの地域において、公民の多様な主体が、フラットかつオープンに共創するためのプラットホームとして立ち上がり、じわじわとこの横浜の地に根を張りつつあります。
一方で、横浜市と東京大学は昨年9月17日に、官民のデータを活用することで、ウィズコロナ時代の社会課題の解決や、市民目線による新しい生活様式やビジネスモデルを創発することを目指し「ウィズコロナ時代の社会課題をデータ活用と公民連携によって解決するための連携協定」を締結しました。
この連携協定に基づいて、東京大学の大澤研究室は、横浜市との連携により「データジャケット」を用いたデータにもとづくアプローチで、独自のチャンス発見方法であるデータ活用型ワークショップなどの学びと連携の場づくりを、「共創ラボ」や「おたがいハマセミナー」として繰り返し実施してきました。
また、計算科学研究に基づいて、個人が家にとじこもる”Stay Home”から人々が確かめ合いながら繋がる”Stay with Your Community”という暮らし方に移行してゆく働き方を市民に伝える取り組みも行ってきました。
その一環として、11月1日に開催された「共創ラボ」。そこでは大澤幸生先生と岸本伴恵さんとの連携によって、「横浜のDNA」に根差した市民のウェルビーイングの在り方を探るための手法であるハピネスジャケットによるワークショップが行われました。
このワークし参加者のそれぞれの発言が関係づけられ、みるみるうちに可視化され、横浜ならではの幸せの曼荼羅が描かれて行く。その至上の即興芸の根幹にはAIやビッグデータだけでは捉えきれない社会課題を掴み出し、解決に導く「野生の思考」があります。
私たちは、近代科学技術を生み出した欧米の知のあり方が、最も進んでいて、優れており、アジアやアフリカ、オーストラリアや南米の部族や民族が太古から培ってきた知や技術の体系は、未熟で野蛮なものと考えがちです。特に18世紀~20世紀前半までは、自由主義社会であろうが共産主義社会であろうが、近代科学技術に支えられた西洋キリスト教文明を至上のものとし、地球上の他の国や地域は、西洋文明に至るための発展過程にあるものだとみなす進歩史観が世界の国々の政治経済を動かし、地球上の多くの人々の共通意識でした。
このような近代科学・西洋文明至上主義に対して、1960年代の前半に異を唱えたのが、フランスの社会人類学者で、民族学者のレヴィ=ストロースです。レヴィ=ストロースは、南米ブラジルのアマゾン川流域で暮らす原住民に対する丹念なフィールドワークと膨大な文献調査によって、ヨーロッパ近代科学からすると、混沌としていて、非合理だとみられていた未開人の思考(野生の思考)が、実は極めて合理的な根拠と豊かな知の体系を持っていることを実証的に明らかにします。そしてこの未開人の「野生の思考」こそ、地球上のあらゆる部族や民族の文化・文明の根底にある普遍的な思考であり、むしろ西欧の近代科学の方が、我々人類にとって極めて限定的で特殊な思考のスタイルなのだと主張します。
西欧の近代科学は、自然と文化、理性と感性(感情)を厳しく峻別し、全てを個々の要素に分解・分類したうえで、それらを計量的に組み上げる抽象的な思考を成立させました。しかし、レヴィ=ストロースは、そのような知の在り方は、人類の長い歴史の中では極めて特異なものだと言います。むしろ人類は太古から現在まで、自然と文化、理性と感性(感情)をつなぎ合わせ、一体的なものとして捉えることで、自分たちがこの世界の中で生まれたことの意味や、身の周りにあるモノや日々起こるコトの本質を、自己及び自らが所属する共同体との関係性の中で、体系的に理解しようとしてきた。この根源的な知のモチーフこそ重要であり、これが人類を基層から動かし、世界中の部族や民族が、それぞれの地域の風土に応じて各々の文化・文明を創りあげる源となったのだとレヴィ=ストロースは説明します。
そしてレヴィ=ストロースは、この「野生の思考」に基づく創造の技術を「ブリコラージュ」と呼びます。モノを創るにあたって、あらかじめ計画を立て、設計図を描き、それに応じて必要な専門家(エンジニア等)と素材を調達し、実験室や工場で上司に管理・監督されながら、エンジニアや工員が黙々と仕事をするのが近代科学技術におけるオーソドックスな創造のあり方です。これに対して「野生の思考」における「ブリコラージュ」とは、共同体の多種多様な人々が、広場に集い、ありあわせの道具や材料を使いながら、それぞれの道具や材料の持つ多面的な価値や可能性を、和気藹々と対話しながら作業することで引き出し、組み合わせることで、自分たちの生活文化に寄り添うモノを創り出していくことを指します。
そういう意味では、私たちが進めている「共創ラボ」も「リビングラボ」もブリコラージュの場です。横浜のオープンイノベーションの基層には、「野生の思考」があり、その主たる創造の場や仕組みは横浜の風土に根差した「ブリコラージュ」です。なので、我々の創造の現場は、研究室や実験室の中にあるのではなく、晴れ渡った野の広場にこそあります。
今回の共創ラボでは、再び、東京大学の大澤幸生教授を招き、野生の思考✕サーキュラーエコノミーplusによって、私たちが直面する危機を乗り越え、市民一人、ひとりのウェルビーイングをいかに実現するかについて話し合い、考えます。
日時:2021年12月8日(水)16時00分~17時30分
場所:YouTube LIVE + Facebook LIVE
参加方法:ライブ映像はこちらのページから視聴できます。
〇YouTubeライブ
https://www.youtube.com/watch?v=AghnJBecN7g
〇Facebookライブ
https://www.facebook.com/244116322463503/posts/1882181525323633/
〇#おたがいハマ トーク(LOCAL GOOD YOKOHAMA特設サイト)
https://otagaihama.localgood.yokohama/
主催:横浜市政策局 共創推進室
共催:LOCAL GOOD YOKOHAMA(横浜コミュニティデザイン・ラボ)、Circular Yokohama(ハーチ株式会社)、YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス
〇大澤 幸生さん
東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻教授
東京大学で博士(工学、1995)取得の後、大阪大学基礎工学研究科助手、筑波大学ビジネス科学研究科助教授、東京大学情報理工学研究科特任助教授、同大学院工学系研究科システム量子工学専攻助教授、同システム創成学専攻の准教授を経て、2009年7月より同教授。知能情報学とデザイン学、認知科学の境界にあるチャンス発見学およびデータ市場設計学を自ら創始し Chance Discovery (Springer, 2003)、Innovators’ Marketplace (Springer 2017)、データ市場(近代科学社 2017)を含む編著書24冊の他、多数の雑誌論文、国際会議論文の発表および国内外で多数の招待講演を行っている。データ駆動利活用の独自手法を東京大学の他、清華大学、台湾大学、インドAmity大学などの教育・研究に国際的に導入したほか、国内でも2014年度以来、経済産業省における「データ駆動型イノベーション創出戦略協議会」「データ駆動型イノベーション創出に関する調査事業」のほか、様々な公官庁や企業が導入している。
【参考】
◎リビングラボを通じた循環型経済(サーキュラーエコノミー)を公民連携により推進する協定(横浜市記者発表資料)
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/seisaku/2021/20211201_circular.html
[EVENT REPORT] #おたがいハマ トーク vol.45:緊急特番PART-1 大澤幸生さん(東京大学大学院システム創成学専攻教授)
https://otagaihama.localgood.yokohama/topics/1756/
[EVENT REPORT] 7/1 #おたがいハマ トーク vol.46:緊急特番PART-2 大澤幸生さん(東京大学大学院システム創成学専攻教授)
https://otagaihama.localgood.yokohama/topics/1768/
[EVENT] 10/6 #おたがいハマ トーク vol.107 大澤幸生さん(東京大学)・岡崎洋子さん(横浜市政策局)
https://otagaihama.localgood.yokohama/topics/3541/
▼8/23 横浜市民のウェルビーングに向かい合う連続講座その1:横浜ハピネスモデル ~幸福創出の世界標準モデルは生み出せるか?~ #おたがいハマセミナー
https://yokohama.localgood.jp/news/38513/
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◆#おたがいハマ 参加のお誘い
Facebookグループ「#おたがいハマ コミュニティ|横浜」にご参加ください。新型コロナウイルスに関する情報や、皆さんの取り組みなどを共有していきましょう。どなたでも参加できます。コミュニティから様々な活動が始まっています。現在930人が参加しています(10/6現在)。
https://www.facebook.com/groups/829823894180583/
◆【ご協力をお願いいたします!】介護・福祉・医療の分野でマスク、防護服、消毒薬などを求めています。未使用のマスク、防護服(ビニール製レインコート等でも可)、消毒薬、プラスチックグローブ(手袋)などがありましたら、ご寄付をよろしくお願いいたします。
https://otagaihama.localgood.yokohama/donation/
◆#おたがいハマ について
▽新型コロナウイルスに向き合う産官学⺠の共創プラットフォーム#おたがいハマを横浜市として支援します(横浜市記者発表資料・2020年5月1日)
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/seisaku/2020/0501otagaihama.html
主催:横浜コミュニティデザイン・ラボ、YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス
協力・支援:横浜市
メディアパートナー:ヨコハマ経済新聞、港北経済新聞、タウンニュース、横浜STORY
LOCAL GOOD YOKOHAMAは、まちでコトをつくりたい、人とつながりたい、課題を解決したいと考えている市民のみなさんのICTプラットフォームコミュニティ。みんなが情報やコミュニケーションでつながり、人が集まることで何かがはじまる場をつくり、コミュニティや活動がこれからも続くキッカケをデザインします。まちの課題や問いに対して「自分ごと」として新たな一歩を踏み出し、まちの未来をより良くするアクションを 「LOCAL GOOD」と名づけました。 さまざまな地域課題に向き合う「ローカルグッドプレイヤー」とともに、共に考え、語り、取材をすることは、新たな視点や経験を得る貴重な体験です。取組を知り、現場でつながることは、おたがいの働く、学ぶ、暮らすを変えてゆくためのアイデアやアクションを生むためのイノベーションのヒントになります。地域のプレイヤーが悩み、チャレンジする現場に足を運び、声に耳を傾け、みなさんの得意や関心に併せた役割を見つけてください。自らを知る、変えるチャンスを提供します。誰もが参加して応援できるローカルグッドサポーターが、はじまっています。 https://yokohama.localgood.jp/about/ LOCAL GOOD YOKOHAMA 編集部へのお問い合わせやご意見、取材希望や情報提供はこちらにお願いいたします。 localgood@yokohamalab.jp