ローカルグッドニュース

「SDGs×横浜×テクノロジー」の未来体験型ワークショップで 社会イノベーションを誘発する~富士通エフサス「みなとみらいInnovation & Future Center」~

 

「SDGs×横浜×テクノロジー ワークショップ」と題して、持続可能な社会を実現する横浜市における課題解決のアイデアと、それを実現するテクノロジーについて考えるワークショップが、みなとみらい21地区にある富士通エフサスの「みなとみらいInnovation & Future Center」で、2019年から毎月開催されています。今回は、このワークショップの狙いについて、主催している富士通エフサスの岸本伴恵さんと、アイデア発想ツール「デジテク・カード」を開発した富士通の山野元樹さんに、横浜市政策局共創推進室の関口昌幸さんがお話しをうかがいました。

 

関口:まずはここ「みなとみらいInnovation & Future Center」が生まれたきっかけと、岸本さんの役割を教えて下さい。

 

岸本:この施設ができたのは、2013年6月になります。近年のITビジネスの環境変化とイノベーション人財の必要性から、自社の研修センターとフューチャーセンターを融合した新しい学びの場として「みなとみらいInnovation & Future Center(略称:みなとみらいIFC)」を開設しました。

開設から丸6年、その間、神奈川県や横浜市など自治体関係者、地元の中小企業、大学、NPO、また製造、流通、金融のお客様などさまざまなステークホルダーの方と、課題の洗い出やアイデア出しを行なうワークショップやイベントを多数開催し、フューチャーセンターとしての役割は担えてきたかなと思っています。

一方、アイデアを具体化して社会実装までもっていくイノベーションセンターの役割は、強化していく時期に来ていると感じています。横浜市がリビングラボの仕組みに関心を持たれたのと同じくらいの時期から、イノベーションセンターとしての役割の強化を意識するようになりました。これまでも、横浜市の課題の洗い出しを何度も一緒に行なってきましたが、今後はデジタルテクノロジーの分野でどんな課題解決ができるのかを考えながら、周りの企業の方々との共創で新しい価値を作り出せたらいいなと考えています。

このセンターでの私の役割は、主にファシリテーターになります。利害関係のある方々が集まって話すのはなかなか難しいものなので、対話の手助けをしたり、ときには、プロデューサーやコーディネーター、スーパーバイザーとして、参加者の方々が共創できるような方向へもっていく役割を担っています。通常業務では、このスペースをご利用いただいたお客様自身が納得する事業計画の策定や新しいビジネスモデルを作り出すプロセス・ガーデナーとしてもお手伝いしています。

 

関口:横浜市としても、これまで市が抱えるさまざまな課題に関するデータを共有させていただき、課題の抽出やアイデア出しで何度もご一緒させて頂きました。なかでも、今日の話しにもつながるのですが、小中学校の教職員向けの総合学習のプログラムづくりについて、具体的にどのような取り組みをされてきたかお聞かせください。

 

岸本:横浜市の教育委員会が全小学校へSDGsを導入するという目標を立てられたことから、学校の先生方のSDGsへの関心が高まりました。しかし、SDGsに関する授業を最先端で取り組む先生がいる一方で、まだまだSDGsをどう取り組んでいいかわからないという先生も多いと伺っていました。そこで、毎年このセンターで開催している、先生方が主体となって学びを考えていく「豊かな体験を通じた学びのフォーラム」のなかで、先生方の普段の活動がどのようにSDGsへつながっているのかを可視化するワークショップを行いました。

まずは、先生方が日ごろ行っている活動、指導要領、横浜の豊な体験を通じた子どもたちの育成目標を簡単なカードに書き出しました。そして、日ごろの活動が指導要領や豊かな体験を通じた育成目標のどれとつながっているのかを、カードを突き合わせながら確認した上で、少し視座を高めて横浜市の課題、SDGsの課題とどうつながっていくのかという視点で可視化しました。

わかりやすい例でいうと、横浜市の市花であるバラ「はまみらい」の取り組みが挙げられます。学校では理科の授業でひまわりや朝顔を子どもたちと育てることがありますが、観察や鑑賞で終ってしまうことがほとんどです。それが、先生たちが市花のバラ「はまみらい」の株を買って子どもたちと一緒に育てたところ、市花を育てている取り組みとして横浜市の広報誌で取り上げられたのです。メディアに取り上げられたことが子どもたちへの良い刺激になり、子どもたちから自発的にバラの折り紙が生まれたり、活動が広がりを見せています。授業のなかで行なわれる活動も、ほんの少し目線を変えるだけでこんなにも活発になるのだと気づかされました。

「横浜市とつながるとどうなるか」という「はまみらい」の取り組みと同じように、もう1つ視座を高めて「SDGsとつながったらどうなるだろう」と考えるときに、手作りした活動カードとSDGsのカードを照らし合わせることで、わかりやすくてアイデアが出しやすくなります。参加した先生方の反応も「これはわかりやすい!」「腹落ちした!」というものでした。

それが始まりで、その後、先生方からSDGsをもっと学びたいというお声をいただき、SDGsのカードゲームをしたり、SDGsを一緒に読んだり、プロジェクトを実際に作るところまで、活動が進んできました。

 

関口:横浜市は、教育委員会のなかに自主研修の場があって、総合学習のあり方をテーマに、教員が相互に学び合うための研修プログラムについても、さまざまな形で試みられてきました。しかし、研修という性格上、どうしても単発のイベントとして終ってしまい、継続した取組へと発展させていくことが難しかった。

それが、岸本さんに関わって頂くことで、自分たちの活動や指導要領が横浜市の課題やSDGsにどう結び付いているのかを体系的に考えられるようになり、継続的な活動としての意味付けや位置づけができるようになりました。

その成果が、例えば、住民や企業などが協働で学校で「はまみらい(横浜オリジナルの薔薇)」を育ていく活動などへとつながってきたと思います。そんな取組のなかで生まれた、今回のSDGs×デジタルワークショップについて、概要を教えていただけますでしょうか。

 

岸本:先生たちのワークショップでも利用している、イマココラボの「2030SDGs(ニイゼロサンゼロ エスディージーズ)」カードゲームを使ったワークショップは、楽しみながらSDGsを学べるとても良いツールです。できれば、もう一歩深めて、きちんとSDGsを読んで理解したうえで日常の活動に繋げてもらいたい。そして、ビジネスにおいては、もう少し踏み込んで、SDGsを実際のビジネスアイデアへ繋げていただきたいと考え、富士通が開発した「デジテク・カード」を使ったワークショップと組み合わせた3ステップのワークショップを企画しました。

SDGs基礎編となる「SESSION Ⅰ」では、リーディングファシリテーションという手法を使って、17のゴールを皆さんで読んで理解してもらいます。リーディングファシリテーションは、短時間にみんなで分担して読み込んだ内容を、お互いに説明しあって理解するという手法です。自分の言葉で理解して、シェアすると短時間に理解が進みます。それをもとに、SDGsでどんな社会が出来るのかをシュミレーションしていただきます。

次にSDGs応用編「SESSIONⅡ」では、プロジェクト作りを体験します。「2030SDGs」で既に作られているプロジェクトもあるのですが、このワークショップでは自分たちが考えるプロジェクトをカードにします。「社会課題を解決しようかな」「経済に向けた施策をしようかな」「自然環境大事だよね」など、横浜市の課題を解決する独自のプロジェクトを作ってゲームのなかに盛り込んだときに、どう社会が変わるのかを体験していただきます。バランスよくプロジェクトを進めないと、経済は発展しても自然が無くなってしまったりと不均衡が起こります。そうすると、自社だけでなく人に優しい、社会にやさしい発展を遂げないといけないと気づかされます。

 

関口:「SESSIONⅠ」と「SESSIONⅡ」がセットになって、SDGsを実現するうえでの基本姿勢である「社会、環境、経済といった目標をバランスよく達成させる」「他者とどうコミュニケーションしながら実現するか」を体験的に学ぶ。そして、「SESSIONⅢ」はテクノロジーを使った課題解決を考えてみようというワークショップになるということですね。

 

岸本:はい。「SESSIONⅡ」でも横浜市の課題を出してはいるのですが、「SESSIONⅢ」ではもう少し深掘りし、どうやってデジタルテクノロジーで解決していくのかを、「デジテク・カード」を使って体験します。課題解決のイメージやアイデアを考えて、それによって誰がハッピーになるかもきちんと考えます。そしてその課題解決が、SDGsのどの目標と重なるかを再度確認します。

 

関口:「SESSIONⅠ」と「SESSION Ⅱ」では、ざっくりとしたビジョンや目標を作り、「S Ⅲ」のデジタルワークショップは、具体的にそれをどのように取組みソリューションを作っていくのかに落とし込んでいくということですね。「デジテク・カード」がどんなものなのか、ご説明をお願いします。

 

山野:まず時代の流れとして、課題解決や新しい価値創造には、デジタルテクノロジーが前提に考えられるようになってきました。例えば、スマホで買い物をするときには指紋認証が使われているように、テクノロジーは私たちの生活の身近なところへどんどん溶け込んできています。富士通もデジタルテクノロジーで社会貢献するというミッションがあり、さまざまな方々と共創しています。小さく始めて仮説が正しいのかを検証しながらものづくりをするPoC (Proof of Concept)という手法取組んでいくなかで、3つの課題が見えてきました。

1つ目の課題は、アイデアも出るしコンセプトも立てられるけど、形にならないこと。非現実的なアイデアが出すぎると、現実的なところへの落とし込みが難しくなります。

2つ目は、ワークショップ参加者が最新技術で何ができるかわからなこと。最近ならAIなどのキーワードが出てきていますが、聞いたことはあっても、実際に何をどこまでできるのかについては、専門の人でないとわからない。何ができるかわからないと、フワッとしたアイデアにしかなりません。

3つ目が、「新しいビジネスを考えろ」とは言われているけど、何をしたらいいのかわからないということです。これらの課題を解決するツールとして「デジテク・カード」を開発しました。

これまで、未来の兆しや課題をインプットにアイデア出しをするワークショップはありましたが、テクノロジーで何ができるかという視点でまとめられたアイデア発想ツールやそれを使ったワークショップはありませんでした。そういうツールを提供することで、先ほどの3つの課題を解決できないかと思ったのです。手製のカード作りから始めて、ワークショップを重ね、アンケートでユーザーの声を集めて、何度も検証と改良を繰り返しながらカードを作成しました。

 

関口:まさにこのカード自体が、PoCで作られたということですね。企業のなかで、いろいろな方々と対話をしながら、小さく始めて実証実験をしながら本格的な製品にしていく手法は、当たり前になり始めているように感じます。オープンイノベーションを起こす、コアな手法ですよね。新しい商品やサービスを開発する手法として当たり前になりつつあるものの、なかなか成果が出ていないなかで、この「デジテク・カード」を開発されたということですね。

横浜市がリビングラボや共創ラボを作り始めたのも、町内会や自治会といった既存の主体だけでなく、企業や学校なども一緒になってPoC 的に課題解決しないといけないと感じるようになったからです。時代の流れとして、社会全体がそういう流れになってきているのかなと感じます。

 

岸本:試着したり、試乗したりということは以前からありますし、新しいアプリケーションを導入するときに、お試しでフィットギャップすることもあります。それをもう少し上位概念で、コンセプトも含めてやってみましょうというのがPoC になります。それを社会実装でやってみたいなとなったときには、リビングラボとの共創が考えられます。企業間で共創して実証実験を重ねていき、住民の方々にお試しいただける段階になったら、リビングラボを通してご意見を伺いながらブラッシュアップしていけたらと思います。

SDGsのワークショップは毎月開催されていて、かならずしも順番通りに受けていただく必要はありません。お好きなところから受けていただけます。今まで参加いただいたお客様から『もっとじっくり学びたかった』という声も多く、7月開催分から開催時間を1時間延長、参加費無料で継続開催してまいります。

 

関口:この3つのワークショップを順番通り受けなくて良いというのは、フレキシブルでいいですね。ビジョンから入ってもいいし、具体的な課題解決のための手法から入ってもいい。相互に行き来できる仕組みになっているということですね。これまで、何回か開催されてきたなかで、どんな成果が出てきていますか。

 

岸本:横浜市から頂いている課題が明確なこともあり、実現性の高い面白い着眼点のアイデアが出てきているように感じます。ただ、ビジネスにするには、もう1ひねり、2ひねりする必要がある「アイデアの種(Seeds)」が溜まってきているなという状況です。次のステップでは、これらの「アイデアの種(Seeds)」をビジネスに仕立てるワークショップを開催したいと思っています。多くの方に参加いただき、「自分たちのリビングラボでやりたい」、「私たちの会社も参加したい」と思っていただけるよう、皆さんで集ってアイデアをごりごり揉むようなワークショップを考えています。

 

関口:今後は、実装に向けて具体的にどんなチームを作っていこうかということですね。横浜市は20近くのリビングラボがありますので、それぞれのリビングラボが取組んでいる課題と集ってきたアイデアがつながりプロジェクト型で進めていけると、より一層地域課題の解決に近づけそうですね。

 

山野:集っているアイデアは、現時点ではアイデアのタネのレベルだと思っています。実用化 を進めるためには、PoC で実際に触れられて試してもらえるものでの検証を重ね、ビジネスモデルをどう作っていくかの検討も必要です。アイデアから実用化 までの間をどうやって埋めていくのかが課題になっています。

 

関口:私も何回か、ワークショップに参加させていただいていますが、さまざまな企業から集まり初めて会った人達でも、「デジテク・カード」を使うことで、短時間に非常に具体的なアイデアを出すことができていると感じます。SDGsが何なのか、横浜市の課題が何なのかを理解した上で参加できていることもポイントだと思います。対話の手法や他者とのコミュニケーションでアイデアが作れるというこのワークショップの体験は、人材育成や啓蒙として非常に重要な意味があると思います。ただ、現状のワークショップでは、毎回参加者が変わっていきますので、アイデアのタネは集りますが、企業が投資を申し出たり、地域の人たちを巻き込んで運営してみようという主体を育てるところまでは至っていません。今後は、次ぎのステップへ進み、このワークショップから、プロジェクトが立ち上がり、新たな主体が生まれ、具体的な課題解決につながっていけるといいですね。

 

岸本:富士通グループとしても、インキュンベーションやイノベーションセンターとしてしっかりとアウトプットしていこうという動きになってきています。従来の社会貢献としてのCSRではなく持続可能な社会を作るための原動力としてのCSVとして、ビジネスとして取組んでいこうという意識があります。啓蒙で終わるのではなく、皆さんに新しい価値を提供するところまで持っていきたいと思っていますし、みなとみらい21地区にいる企業の方々と共創することで、富士通1社だけではできないことにも果敢にチャレンジしていければと考えています。

 

<次回のワークショップスケジュール>

2030 SDGsカードゲーム×未来体験(SESSIONⅠ+Ⅱ)

2019年7月26日(金)14:00~17:30

2019年8月20日(火)14:00~17:30

2019年9月13日(金)14:00~17:30

 

SDGs×横浜×テクノロジー(SESSION Ⅲ)

2019年6月28日(金)15:00~17:30

2019年7月24日(水)14:00~17:30

2019年8月23日(金)14:00~17:30

2019年9月20日(金)14:00~17:30

(左)岸本伴恵さん  株式会社富士通エフサス ビジネス企画推進本部 イノベーション推進統括部 イノベーション&フューチャーセンター(IFC) BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ、(右) 山野元樹さん  富士通株式会社 サービステクノロジー本部つながるサービス技術統括部 、(中)関口昌幸さん  横浜市 政策局共創推進室共創推進課 係長

ライター紹介

LOCAL GOOD YOKOHAMAは、まちでコトをつくりたい、人とつながりたい、課題を解決したいと考えている市民のみなさんのICTプラットフォームコミュニティ。みんなが情報やコミュニケーションでつながり、人が集まることで何かがはじまる場をつくり、コミュニティや活動がこれからも続くキッカケをデザインします。まちの課題や問いに対して「自分ごと」として新たな一歩を踏み出し、まちの未来をより良くするアクションを 「LOCAL GOOD」と名づけました。 さまざまな地域課題に向き合う「ローカルグッドプレイヤー」とともに、共に考え、語り、取材をすることは、新たな視点や経験を得る貴重な体験です。取組を知り、現場でつながることは、おたがいの働く、学ぶ、暮らすを変えてゆくためのアイデアやアクションを生むためのイノベーションのヒントになります。地域のプレイヤーが悩み、チャレンジする現場に足を運び、声に耳を傾け、みなさんの得意や関心に併せた役割を見つけてください。自らを知る、変えるチャンスを提供します。誰もが参加して応援できるローカルグッドサポーターが、はじまっています。 https://yokohama.localgood.jp/about/ LOCAL GOOD YOKOHAMA 編集部へのお問い合わせやご意見、取材希望や情報提供はこちらにお願いいたします。 localgood@yokohamalab.jp 

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