2014.10.16
地域のキーパーソンから見えるまちの課題と取り組みを聞き、交流を深めるイベント「ローカルグッドカフェ」(LGC)が8月2日、開催されました。青葉区に続く第2弾の会場となったのはコミュニティカフェ「いのちの木」(横浜市都筑区仲町台1)。都筑区に暮らし、この地域をベースに課題解決に取り組む人たち約30人が集まりました。
LGCは、横浜市の地域課題の解決に取り組む人たちのインタビューや活動ニュース、横浜のオープンデータを活用した統計情報を紹介していく課題解決プラットフォームサイト「LOCAL GOOD YOKOHAMA」が主催する交流イベントです。 ウェブサイト上だけではなく、顔を合わせて話を聞き、それぞれの活動に学ぶ場として「ローカルグッドカフェ」は位置づけられています。
地域で活躍する人、地域で暮ら4人の視点から地域の課題や意義ある活動について紹介しあい、これからのつながりをつくることが目的です。 今回LGCを開催した都筑区は、平均年齢が40歳(40.11歳)と2014年現在、市内でもっとも若い区ですが、平均年齢は年々上昇しています。
会場となった「いのちの木」を運営するNPO法人「五つのパン」理事の岩永敏朗さんは「横浜で働き、暮らしている息子や娘に呼び寄せられ、地方から移り住んだ高齢者(「呼び寄せ高齢者」)が多い。中には、なじみのない町での暮らしに戸惑い、孤独感を募らせている人たちもいます」と、この地域の高齢化の特徴について話します。 今回は、岩永敏明さんのほか、横浜市会議員の草間剛さん、横浜市政策局関口昌幸さん、美しい手製本技術で知られる「美篶堂」(東京都)の上島明子さんの4名が登場しました。
NPO法人五つのパンは、2002年に前身の有限会社が展開していた精神障がい者への訪問事業からスタートしました。2004年に、有限会社の福祉的な事業や就労部門をNPO法人化しています。 試行錯誤を繰り返しているうちに、2006年の障害者自立支援法の施行によって収入が激減して光熱費が支払えず、電気・ガス、水道が止められてしまうこともあったといいます。
そんな中、コミュニティカフェを核としたまちづくりをしている「港南台タウンカフェ」(横浜市港南区港南台4)、すべて手づくりの製本を手がける「美篶堂」(みすずどう)と出会い、岩崎さんは、絵本作りとカフェを事業とする精神障がい者地域活動支援センター「マローンおばさんの部屋」設立を決意しました。
今ではこの絵本カフェに、地域の親子が集まるようになりました。 さらに、高齢者の孤立化問題が深刻になってきていることを感じた岩永さんは2009年、横浜市営地下鉄・仲町台駅そばでつながりをつくるためのコミュニティカフェ「いのちの木」の運営を開始しました。 現在、「いのちの木」では高齢者による編み物サークルを行っています。
この編み物サークルでは2014年6月から、ファッションブランド「Beyond the reef」と一緒にニットクラッチバックの製作・販売を始めました。製品はJJやCLASSY.など人気ファッション雑誌に掲載もされ、オンライン上に商品をアップする端から売れてすぐに完売するなど、若者から人気を集める商品となっています。
このように、一歩一歩、地域の課題解決に具体的な実践を積み重ねながらも「既存制度では解決できない福祉ニーズの拡大、精神障がい者や高齢者へのケアの体制、人材の不足を感じている」と岩永さんは話しています。
横浜市政策局政策課政策支援センター関口昌幸さんはオープンデータの取り組みと地域課題の関連について話をしました。関口さんは、横浜市政策局政策課で同局が刊行している「調査季報」の編集を担当しています。まるごと1冊を「オープンデータ」特集とした号は、横浜市が調査・集計したさまざまな地域のありようを伝えるデータをあつめ、市民が自由に活用できる形式で発表しています。
長年のデータの編集を通して「これからはデータをしっかり見ながら、みんなで地域課題を明確に把握・共有し、解決していく仕組みをつくる必要がある」と感じています。データの大切さの一例として関口さんが挙げたのは、都筑区が「子育て世代の街かどうか」というテーマです。 2001年の横浜市民白書には港北ニュータウンの状況がまとめられています。
この地域は転入・転出者が多く、2001年度の転入者の3割は「子育てをするのによい街」という理由で移ってきました。30代の子育て世代が多く、子どもは小学校低学年の比率が高いという特徴がありました。そのときのイメージから、現在でも都筑区は「子育て世代が多い街」と言われています。
しかし、現在のデータをみると、都筑区は20~30代の子育て世代の人口は横浜市の平均より下回っており、子育ての街とは言えない状態になっています。 関口さんは、ICT(情報コミュニケーション技術 )を活用することで、こういった地域のデータをみんなで共有できること、そして、過去のイメージにとらわれず具体的なデータをもとに地域の課題解決に取り組んでいくことの大切さを呼びかけました。
横浜市会議員の草間剛さんは、横浜市の財政が今後縮小していく中で「補助金や助成金による地域活動支援や課題への対処が難しくなっていくのではないか」と岩永さんと同じ課題意識を持っています。
また現在、都筑区選出の市会議員は4人。人口21万人、82,000世帯の地域住民の声を市政に反映していくにはとても十分な人数でないといいます。住民の声を集めるためのツールとして、ICTの可能性を感じているそうです。行政のデータを活用して政策形成に生かし、ICTを生かした住民コミュニケーションをするために、若手議員で集まってオープンデータを勉強する「かながわオープンデータ推進地方議員研究会」を立ち上げているとのことでした。
また、草間さん自身も、インターンの大学生などとともに、オープンデータを集め、発信するサイト「都筑のくまのデータ研究所 -オープンデータで考えてみた」をつくっています。
手製本の老舗「美篶堂」の上島明子さんは、NPO法人「五つのパン」とともに実施している「本づくり学校」について話がありました。2014年4月から始まったこの手製本づくりが学べる学校は、今までもいのちの木で行われていた短時間の製本体験を体系化したプログラムです。
上島さんの父である美篶堂代表取締役で、製本職人の上島松男さんが長年の経験から得た技や本づくりの文化が込められた連続ワークショップとなっています。参加者は手を動かしてものづくりに励み、オリジナルの本やステーショナリーなどを作成しています。
人とのつながりづくりを苦手としている参加者も数人いるということですが、そういう個性の人であっても、手を黙々と動かす仕事なので集中して取り組めるメリットがあります。この「本作り学校」を通して上島さんと岩永さんは「製本ワークショップの講師ができる人材を育てる」ことを目指しています。
上島さんは、ほとんどの情報がデジタルになっていくこの社会で、手を動かして直接ものを作ることが少なくなってきていると感じているそうです。「手を動かして直接ものを作る営みは、小さな成功体験の繰り返しです。人に達成感をたくさん与えてくれます。そんな手仕事でしか体験できない機会を提供したい」と語っていました。
会場にはほかにも、「傾聴」を大切にしながら地域の様々な方を支援している「NPO法人アーモンドコミュニティネットワーク」(横浜市都筑区北山田1)の本田裕美さん、病気の子供たちの居場所作りをしている「2匹のさかな文庫」の鹿毛美枝子さん、働く男女が多様なライフスタイル、ワークスタイルが選択できるよう、保護者の就労条件を一切問わないフレキシブルな保育園を運営している「育みの家フェアリーランド」(都筑区仲町台1)の菊地加奈子さん、新生児に先天性代謝異常がないか調べる「新生児マススクリーニング」に新しい検査の導入啓発活動を展開している「先天性代謝異常症の子どもを守る会」の柏木明子さん、発達障害児のためのウェブアプリ開発やLOCAL GOOD YOKOHAMAのシステムを担当しているインフォ・ラウンジ社の肥田野正輝さん、横浜市立大学の学生などが集まり、都筑区の課題や可能性、それぞれの活動について意見を交換しました。
LOCAL GOOD YOKOHAMAは、まちでコトをつくりたい、人とつながりたい、課題を解決したいと考えている市民のみなさんのICTプラットフォームコミュニティ。みんなが情報やコミュニケーションでつながり、人が集まることで何かがはじまる場をつくり、コミュニティや活動がこれからも続くキッカケをデザインします。まちの課題や問いに対して「自分ごと」として新たな一歩を踏み出し、まちの未来をより良くするアクションを 「LOCAL GOOD」と名づけました。 さまざまな地域課題に向き合う「ローカルグッドプレイヤー」とともに、共に考え、語り、取材をすることは、新たな視点や経験を得る貴重な体験です。取組を知り、現場でつながることは、おたがいの働く、学ぶ、暮らすを変えてゆくためのアイデアやアクションを生むためのイノベーションのヒントになります。地域のプレイヤーが悩み、チャレンジする現場に足を運び、声に耳を傾け、みなさんの得意や関心に併せた役割を見つけてください。自らを知る、変えるチャンスを提供します。誰もが参加して応援できるローカルグッドサポーターが、はじまっています。 https://yokohama.localgood.jp/about/ LOCAL GOOD YOKOHAMA 編集部へのお問い合わせやご意見、取材希望や情報提供はこちらにお願いいたします。 localgood@yokohamalab.jp