ローカルグッドニュース

【SDGs-SWY連携企画】SDGsは人生ー「きれいごと」で勝負する!ー川廷昌弘さん(博報堂DYホールディングス グループ広報・IR室CSRグループ推進担当部長)

 

クールビズのような発想の転換を、SDGsで起こそう!

川廷さんが、社会責任に関する活動を開始し、SDGsに出会うまでの経緯を詳しく教えてください。

川廷さん:まず、社会責任に関する活動についてお話します。私は、博報堂に入社してからテレビのドキュメンタリー番組を手がけるなど、広告業にどっぷりと浸かっていました。そんなある日、2005年に環境省のチーム・マイナス6%(※注1)のメディア・コンテンツの仕事を担当することになりました。この仕事は、地球温暖化問題を自分ごとにするムーブメントを作り出すというものです。この時に、ノーネクタイ、ノー上着で、体感温度が2度下がることに着目しクールビズが誕生したのです。しかし、初めから順風満帆にクールビズが社会に浸透した訳ではありませんでした。背景には、上司がネクタイを外していなければ自分は外せない、という日本独特のサラリーマン文化がありました。この時、小池環境大臣(当時)が卓越したプロデュース能力を存分に発揮されました。日本経済団体連合会(経団連)の奥田碩会長(当時)をはじめ各界のリーダーにクールビズ・ファッションショーに登壇依頼をされるなど、クールビズの価値を高める取組みを行いました。そして、キーとなるイベントを実施しながら、メディアが取り上げやすくなる広報展開や、多様な業界団体や百貨店などがクールビズを活用できるように広げていく流通展開まで、本当に様々な取り組みを積み重ねていきました。このようなことからクールビズは定着していきましたが、これ以降、身近な生活の中で環境や社会に配慮し価値転換に結び付く事例が出てきていないことは、大きな課題だと思います。そして、SDGsの文脈でも同じような発想の価値転換を起こすべきだと思います。

その後、国連持続可能な開発会議(リオ+20)が開催された2012年に、私は博報堂CSR部の部長に就任しました。これまで気候変動、生物多様性、森林保全、復興支援などに取り組んできましたが、「サステナビリティ」という同じキーワードを使いながらCSRと言う新たなコミュニティに参加したような感覚がありました。そこで、分野横断的にコミュニティをつなぐ傘となるようなツールが必要ではないかと考えていた時にポスト2015の議論を聞き、これは自分が欲しかった世界共通の目標ではないかと感じました。

CSR部に異動した当時、社員に対して「今あなたがやっている取組みはCSRの良い事例になる」と話すと、社会課題を考えた業務になるように取組みを行っているにも関わらず、「自分たちの取組みは、CSRではありません」という答えが返ってきました。そこで、CSRという言葉の先入観を感じて、「博報堂ソーシャルアクション」という名称で社員のCSRを整理しました。すると、2012年の時点で、およそ30の取り組みが社内で行われていました。こうして、博報堂を社会にどのように伝えていくか考えていた頃に、以前にお会いしたことがある慶應義塾大学の蟹江憲史教授がSDGsの第一人者であると聞いて会いに行きました。幸運なことに、蟹江教授も企業側のカウンターパートを探しており、とても良いタイミングで会うことができました。これをきっかけに、SDGsに関する有識者メンバーを集めたプラットフォーム「OPEN 2030 PROJECT」(※注2)を立ち上げたのです。しかし、SDGsが採択されて、ニューヨークの国連本部でSDGsのロゴがプロジェクションマッピングで投影されている光景を見たとき、「参った!ここまで思い至らなかった。」と思いました。自分は日本国内で様々な準備を進めてきましたが、世界では、企業がバックアップしてここまでやっているのか、と強い衝撃を受けました。まさに「井の中の蛙 大海を知らず」です。すでに日本におけるSDGsに関する取組みは世界に遅れをとっている。そこで、自分のやるべきことを考えた時に、国連公用語に日本語がないということに気がつきました。SDGsは世界共通のコミュニケーション・ツールであるにもかかわらず、公式の日本語訳がないために、日本においてはSDGsの様々な翻訳・解釈が生まれる可能性がありました。。そこで、国連広報センター所長の根本かおるさんに相談をして、アイコンの日本語訳を博報堂がボランティアで手掛けることになったのです。

 

❝広告会社で培った経験が、SDGsに関する活動にも活きている❞

川廷さんが、広告会社のスキルを活かして企業・生活者・社会を巻き込み、大きなムーブメントにしていこうとSDGsに取り組む理由を教えてください。

川廷さん:私は、関西支社に配属されていた頃、阪神・淡路大震災で被災し、タンスの下敷きになりました。自分は無事でしたが、近所では多くの方が命を落しました。この時「生かされた」と実感した体験が、自分の活動の根底にあります。チーム・マイナス6%についても、環境省とやり取りするなかで、徐々に自分の被災経験と仕事がつながっていきました。被災した時に、人工物は儚く壊れますが、自然は残り続けている光景を目にし、自分たちの暮らしが、いつも自然に守られていたことに気づいたのです。SDGsを初めて知った時「これは生活者として実感することがテーマだ」と感じました。だからこそ、広告会社として発信し続けたいと思えるのです。

例えば、東日本大震災の復興に携わっている南三陸の戸倉地区は、持続可能な漁・地域づくりを実現しようとしているところです。まさにSDGsを体現している地域といえるでしょう。震災前の牡蠣漁は、リスク分散のために牡蠣を多めに吊り下げて養殖し、収穫するという漁法でした。しかし、彼らは震災によって、家や養殖に使うイカダが津波で全て流され、もはや廃業かと追い込まれてしまいます。震災前に、牡蠣養殖業は湾内に養殖場を設けるため、環境に悪影響を与えることが課題だと指摘されていました。そこで、牡蠣部会の漁師が約40人集まって国際養殖認証のASC取得に向けて議論を始めました。必要以上に環境に負荷を与えないよう各家庭の経済状況に応じた量を養殖し、収穫するという取組みを始めたのです。すると日本で初めてのASC認証を取得することができたのです。そして、震災前に比べて養殖の量が1/3に減って栄養や酸素がひとつひとつの牡蠣に行きわたり、収穫するまで三年掛かった牡蠣が一年で収穫できるサイズにまで成長するようになりました。また、漁師自身も、以前は土日出勤が当たり前だったのですが、息子の野球教室に行けるようになったとか、奥さんと映画に行くようになったという人もいました。これはまさに、SDGsのゴール8「働きがいも経済成長も」、ゴール11「住み続けられるまちづくりを」ゴール12「つくる責任 つかう責任」を実現している取組みだと感じました。さらに、「ASC認証を目指すと言わなければ、あなたにも手伝ってもらえなかったでしょう。私の船に乗りたい。私の職場を見たいと言って、今や全国からわざわざ来てくれます。特にお金持ちになったわけではありませんが、私は毎日が幸せです。」と牡蠣部会長さんは言います。これこそSDGsだと目の当たりにしました。南三陸の戸倉地区の牡蠣部会の漁師たちは、一歩先んじてSDGsの達成とはどういうことを言うのかを示してくれていると思います。これはあらゆる意味で、ゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」も含まれると思います。

情報発信の文脈で言えば、多くの人に分かりやすく伝えるという広告会社での経験があったからこそ、自分の活動につながっています。今、世界中の人がSDGsに期待しています。私は、グローバル・イシューはどこかの話ではなく、地域の課題の集積だと捉えています。今後は、多様なコミュニティをつなげていきたいと思っています。そのために、みなさんのようなユースの力が必要です。2019年1月には、神奈川県で開催予定の「SDGs全国フォーラム2019」で、来夏に開催されるハイレベル政治フォーラムに向けて、「SDGs日本モデル」宣言が行われます。神奈川県SDGs推進担当顧問として、本フォーラムの総合プロデュースを行っているので、プラスチックごみの海洋投棄などの環境問題やSDGsについて、自治体や参加者一人ひとりに、分かりやすく伝えたいと思っています。

 日本で開催されるSDGs関連イベントの多くで、川廷さんが講演されています。その他にも様々なお顔をお持ちだと伺ったのですが、どのような活動をされているのでしょうか?

川廷さん:一つ目の顔は、博報堂DYホールディングスの社員です。二つ目の顔は、日本写真家協会(JPS)の会員です。写真家として自己表現をしたいという思いが強くあります。写真を撮影する時には、「美しいと思う理由は何か」「そう感じているのは誰なのか」と哲学的に突き詰めることがあって、私はこれを「俯瞰してフォーカスする」こと、つまり、全体論をしっかりと捉えて、自分の関心を絞っていくことであると考えています。会社の会議でもこのスキルが生かされていると感じることが多いです。

その他にも、SDGsの肩書きが入った名刺は、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンSDGsタスクフォースリーダー、神奈川県SDGs推進担当顧問があり、環境省SDGsステークホルダーズ・ミーティング構成員にもなっています。このほか、日本サステナブル・ラベル協会の理事や、国際森林認証FSCと国際漁業認証MSCのコミュニケーションアドバイザーの名刺もあります。自分が代表を務めているCEPAジャパンの理事仲間とSDGs for Schoolという副読本も手がけました。そのCEPAジャパンという組織は、生物多様性条約市民ネットワークが解散したのち普及啓発に取り組む仲間たちと一緒にNGOとして立ち上げました。2010年に愛知県で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で、教育とコミュニケーションに関する素案に対して、市民社会代表として提言して欲しいと言われたことが起点になっています。英語でスピーチしなければ真意が伝わらないため、英会話教室に2ヶ月通って準備しラッキーにも会議でも発言の機会を得ることができました。その甲斐あって、条約の修正決議文に自分の提言内容が反映されました。生物多様性条約の締約国会議では、政府のバックアップがなければNGO/NPOは原案に対して発言ができないのです。日本政府には開催国として手一杯だからと断られてしまいましたが、カナダ、ノルウェー、ベルギーの政府団と交渉して、運良くベルギー政府が支援してくれたお陰でなんとか無事に発言することができました。日本のNGOがCOP10の場で提言して条約の決議文を変えたのはこれだけでした。

博報堂DYグループのSDGsに関する取り組みを教えてください。

川廷さん:博報堂DYホールディングスでは、主に投資家・株主に向けて2018年夏に統合報告書を発行しました。、サステナビリティ領域に関して、より幅広いステークホルダーの皆様に対してよりわかりやすく伝えるために「みんなの新しい幸せを作ろう」というコミュニケーションブックを作成しました。「みんなの新しい幸せを作ろう」は「誰も置き去りにしない」ということですが、博報堂DYグループでは、様々な社員がソーシャルアクションに取り組んでおり、約100のプロジェクトがあります。もちろん全てSDGsに紐付けることができるのですが、その中で、より特徴的に伝えられる17の取り組みを選んでいます。博報堂DYホールディングスのウェブサイトにはこれらすべての取り組みを掲載しています。博報堂DYホールディングスのウェブサイトからダウンロードすることもできますので、ぜひご覧ください。

博報堂DYホールディングスウェブサイトより転載

 

❝SDGsは、WhatからHowの段階へ❞

ミレニアル世代へ向けたメッセージをお願いします。

川廷さん:SDGsは、あくまでもコミュニケーション・ツールだと思っています。ですが、SDGs自体が目的化してしまう危険性があります。2030アジェンダの前文にもあるように「地球と人間の繁栄のための計画」「誰も置き去りにしない」「環境・社会・経済の同時達成」など理念を理解する必要があると思います。何よりタイトルに「変革」が使われています。この国連のメッセージを受け止めて行動する必要があります。SDGsは使いやすいツールだけに、「SDGsウォッシュ」とでも言うべき事例が出てくる恐れがあります、これから2030年に向けて、どのようにSDGsの達成に資する行動をするのかという「How」の段階に移っていかないといけないと思います。しかし、SDGsを理解するという「What」の段階で満足してしまう可能性があります。そこでユースの皆さんには、自分たちの世代のために企業は何をしているのかという問いを、できれば企業の経営者に向けて投げかけてみてください。無理であれば企業の担当者でもいい。SDGsは皆さんの世代が主役となるものです。しっかりと皆さんと向き合ってくれる経営者は誰なのか、どの企業なのか。世代を超えた対話によって、課題を具体化していくことも大事です。「こんなのきれいごとだよね」と揶揄すれば、それはきれいごとで終わってしまい変革は起こりません。しかし、「きれいごとで勝負できる社会」にしないと、SDGsは実現しないと思っています。「今までは、営利を追求するために、社会や環境に対する思いを曲げてきたけど、やっぱり曲げちゃいけない」という声が聴こえてくるようになりました。気づいている企業人はとても多いと思っています。SDGsは皆さんの世代にスムーズにバトンタッチをしていくのは当然であり、よりレベルを高めて取組んでもらわなければなりません。そのようなバトンの渡し方が我々の世代の責任であり、そのためにまだまだ研鑽する必要があると考えています。そして何より私の経験を今のうちから伝えて連携を深めておく必要もあると思っていました。ですから、今回このようにみなさんと話せることを楽しみにしていました。私のどの業務より大切な時間です。

 (※注1)チーム・マイナス6%:京都議定書で定められた日本の温室効果ガス排出量を1990年に比べて6%削減する国民運動プロジェクト。CO2削減のための具体的なアクションプランを策定。

(※注2)OPEN 2030 PROJECT:2016年より活動開始。SDGsの達成を目指し、目標12「持続可能な生産と消費の確保」を中心に未来の社会を良くするために、2020年にプロジェクトの成果を国内外へ積極的に発信していくことを掲げ、取り組みを行う。

川廷 昌弘(Masahiro Kawatei)

博報堂DYホールディングス グループ広報・IR室CSRグループ推進担当部長

1986年博報堂入社。1998年から「情熱大陸」などテレビ番組の立ち上げに関わる。その後、2005年「チーム・マイナス6%」の立ち上げ直後から関わり、博報堂DYメディアパートナーズ 環境コミュニケーション部長を経て現職。2016年からグローバル・コンパクトSDGsタスクフォースリーダー。2010年開催の生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)でスピーチを行い決議の修正に成功。一般社団法人CEPAジャパン代表、公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。環境省SDGsステークホルダーズ・ミーティング構成員、神奈川県非常勤顧問(SDGs推進担当)、一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンSDGsタクスフォースリーダー等。


♢ ♢ ♢

「SDGs-SWYについて」

SDGs-SWY は、内閣府青年国際交流事業のひとつ、「世界青年の船」事業の既参加青年が中心となり、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、草の根で活動する世界中のミレニアル世代が集う場づくりを目指して、2016年2月に設立されました。

〇 活動内容

1980年以降に生まれたミレニアル世代を主な対象として、次の3点を念頭に置きながら、SDGsの達成に取り組む方々へのインタビュー記事の公開、各地域でのアイディアソンワークショップの開催といった草の根でのSDGs達成を支援する活動に取り組んでいます。

1.SDGsの達成に向けた、草の根の取り組みを支援すること

2.国際機関でのキャリア形成を目指す人たちの高め合う場をつくること

3.政府や国際機関をはじめとした社会の意思決定権者にミレニアル世代の声を届け、政策に反映するよう働きかけること

〇 私たちのミッション

SDGs-SWY のミッションは、世界中でSDGs の達成に向けて取り組むミレニアル世代の活動を後押しすることです。生き生きと楽しんで、自分たちの目指す未来と重ね合わせながら、行動に移していく人が集う場をつくっていきます。

〇 私たちの組織

SDGs-SWYは、事務局メンバーだけでなく、活動をともにつくっていく仲間とともに構成されるプラットフォーム(集いの場)です。達成したい目標や、取り組みたい活動ごとにチームがつくられ、それぞれが各国、各地域で活動し、経験を持ち寄りながら課題解決を図ります。

ライター紹介

LOCAL GOOD YOKOHAMAは、まちでコトをつくりたい、人とつながりたい、課題を解決したいと考えている市民のみなさんのICTプラットフォームコミュニティ。みんなが情報やコミュニケーションでつながり、人が集まることで何かがはじまる場をつくり、コミュニティや活動がこれからも続くキッカケをデザインします。まちの課題や問いに対して「自分ごと」として新たな一歩を踏み出し、まちの未来をより良くするアクションを 「LOCAL GOOD」と名づけました。 さまざまな地域課題に向き合う「ローカルグッドプレイヤー」とともに、共に考え、語り、取材をすることは、新たな視点や経験を得る貴重な体験です。取組を知り、現場でつながることは、おたがいの働く、学ぶ、暮らすを変えてゆくためのアイデアやアクションを生むためのイノベーションのヒントになります。地域のプレイヤーが悩み、チャレンジする現場に足を運び、声に耳を傾け、みなさんの得意や関心に併せた役割を見つけてください。自らを知る、変えるチャンスを提供します。誰もが参加して応援できるローカルグッドサポーターが、はじまっています。 https://yokohama.localgood.jp/about/ LOCAL GOOD YOKOHAMA 編集部へのお問い合わせやご意見、取材希望や情報提供はこちらにお願いいたします。 localgood@yokohamalab.jp 

ニュース一覧へ戻る