2018.09.05
8月28日、波止場会館5階多目的ホール(横浜市中区海岸通1)で「SDGsを経営戦略に実装する」というテーマのもと、行政や有識者を招いた講演会が開催されました。
この講演会は、横浜グリーン購入ネットワークによる「SDGs推進プロジェクト」の一環で、今回は第一回目のキックオフイベントとして実施されました。
最近話題のSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発のための目標)。各地でSDGsをテーマにしたセミナーが実施される中、今回は中小企業がSDGsを経営戦略に取り入れる意義や具体的な手順、さらには国、自治体での取り組みについて話され、SDGsの最先端の情報が共有される場となりました。
主催は横浜グリーン購入ネットワーク(YGPN)。グリーン購入ネットワーク(GPN)は、環境負荷の小さい製品やサービスの市場形成を促し、持続可能な社会経済の構築に寄与するため、グリーン購入活動(環境に配慮された製品の購入)を促進し、グリーン購入に関する普及啓発や情報提供、調査研究などを行っています。全国各地6か所の地域GPNと連携しながら活動しているネットワーク団体です。
今回のイベントは、「SDGs未来都市」にも選定されている神奈川県・横浜市・鎌倉市の3都市も参加し、SDGsを地域にどのように普及させていこうとしているのか、その中の企業のあり方などを念頭に、「SDGsを具体的に実践していくためには」という問いを軸にして、各方面からのレクチャーが進められました。
♢開催概要
第一部 基調講演
①「中小企業がSDGsを経営戦略に取り入れる理由」
②「地方創生に向けた自治体SDGs推進について」
第二部 SDGs未来都市の取り組み紹介
①神奈川県②横浜市③鎌倉市
第三部 「SDGs推進プロジェクト」の今後の展開について
①SDGs実装ゼミナールの開催について ほか
「地方創生に向けた自治体SDGs推進について」というテーマのもと、内閣府地方創生推進事務局参事官の遠藤健太郎さんの講演や、今年度の「SDGs未来都市」に選定された神奈川県、横浜市、鎌倉市それぞれからSDGsの取組状況や構想についてのお話がありました。
国としては、アクションプランを策定し、自治体との連携も図りながら、着実にSDGsを日本に浸透させていくための政策を練っていることが説明されました。さらに、国外発信の場で、日本における自治体SDGsモデル事業の取り組みや官民連携プラットフォームなどの事例を発表・共有していることなどが話されました。
神奈川県からは、「神奈川県のSDGsの取組」というテーマのもと、神奈川県 いのち・SDGs担当の山口健太郎さんが取り組みを紹介しました。「誰ものいのちが輝き、笑顔溢れる未来へ続く神奈川」という県の目標を掲げながら、SDGsを達成していくという明るい未来へ向けた意気込みを参加者と共有しました。
神奈川県は、都道府県では唯一「SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」の両方に選定されています。
選定された責任を抱きつつ、社会的インパクト評価をしっかりしていくことにも力を入れて、SDGsを取り入れた政策がうまく循環していく仕組み作りについても説明されました。
横浜市は、SDGsに取り組む前からの取り組みを紹介。2011年から、環境未来都市構想を掲げて緑化フェアや企業と連携したエネルギーマネジメントの取り組みなど環境に配慮したプロジェクトの推進を行なってきました。
横浜市の将来人口が2019年をピークに減少すること、気候変動により予想される自然災害など、懸念される課題がある中で、都市のブランドを最大限に生かしながらSDGsを取り入れ、都市づくりを進めていくことが説明されました。
また、「SDGs未来都市」に選定され、横浜市では「SDGsデザインセンター」の創設を決定しています。現在どのようなものにしていくのか、創り上げている途中ですが、SDGsを社会に浸透させるためのプラットフォームとして機能することが期待されています。
「集積する魅力的で多彩な施設・機能をつなぎ、豊かな『人』を育み、あらゆる世代が活躍する、ともに成長し続ける『まち』の実現を目指します」と、横浜市の目指すまちづくりのビジョンが共有されました。
鎌倉市は「持続可能な都市経営『SDGs未来都市かまくら』の創造~『世界に誇れる持続可能なまち』を目指す古都鎌倉の新たな挑戦!~」というテーマで、歴史ある町として歩んできた軌跡や環境に対する市民活動、SDGsの取り組みなどが紹介されました。
「SDGs未来都市」選定自治体の鎌倉市の取り組みとして、
①SDGsに伴う総合計画を改訂、②古民家などの地域資本を活用したプロジェクト、③観光地という町の特色を生かした、SDGsに関する取り組みの国外発信などを紹介。
総合計画の改訂では、現行計画をすべてSDGsの視点から再点検。職員一人ひとりにSDGsの理解を広げ「ジブンゴト化」させる研修を実施。EBPM(Evidence-Based Policy Making)も導入しつつ、計画策定時に市民・企業・NPOなど多様なステークホルダーと意見交換をしながら「共に創り実現する体制の構築」を進めていると説明されました。
リビングラボという、生活の場を「lab」として地域の課題やニーズを発掘する取り組みも紹介。市民を巻き込みながら、SDGs目標の達成に向けた地域・社会・経済のプラスの循環を目指していると紹介されました。
「将来に、そして次代を担う子どもたちにツケを残さない持続可能な都市経営を目指し、『SDGs未来都市かまくら』の推進に取組みます」という松尾崇市長の言葉で締めくくりました。
定員100名の会場は満席となり、参加者はメモを取りながら熱心に講演者の話に耳を傾けていたのが印象的でした。
基調講演は「中小企業がSDGsを経営戦略に取り入れる理由」というテーマのもと、田瀬和夫さん(SDGsパートナーズ有限会社代表取締役)によるお話でした。
田瀬さんは国連フォーラム共同代表でもあります。国境を越えてSDGsを組み立ててきた側の視点も交えながらのお話となりました。
‟地域に根付いているからこその中小企業”という切り口から「中小企業にしかできないイノベーションがある」と説明。
また、全国の中小企業の53%が創業理念を定めていることを挙げ、約半数が「企業理念を設定せずに経営している」と紹介。そこに、SDGsを取り入れて考える意味があることを主張しました。
「10年後の自社の理想の姿から、今すべきことを逆算していけば、社内の体制と職員の採用、ブランディングなど直近の3年で何をするべきかが見えてきます」と話します。
SDGsを取り入れている大手各社の具体的な例として、三井物産・日本航空・日本郵便・東芝を挙げて紹介。4社の事例に共通するSDGsへの取り組みをSTEP1からSTEP5までのプロセスとしてまとめ、社内における現状整理とそれに基づくSDGsの具体的な落とし込み方、実行に至るまでをわかりやすく事例紹介しました。
—お話のまとめとして用いた「ムーンショット」というワードは、参加者の頭に鮮烈に残ったのではないでしょうか。
ムーンショットとは、アメリカ第35代大統領のジョン・F・ケネディがアポロ計画を推進していた際に、
「我が国は目標の達成に全力を傾ける。1960年代が終わる前に、月面に人類を着陸させ、無事に地球に帰還させるという目標である」と発言したことが由来になっています。
次第にムーンショット(月へのロケットの打ち上げ)は
「困難または莫大な費用がかかるが、実現すれば大きなインパクトが期待できるもの」
という意味に、今では
「実現によって大きなインパクトがもたらされる、壮大な目標・挑戦のこと」
となり、シリコンバレーから広まったビジネス用語として注目されています。
つまり、2030年までの‟世界共通”の目標として、ムーンショット的に設定されたのが、SDGsと言えます。
目標を定め、定めたゴールの達成に必要なイノベーションを定義する。
「そうすると、現状の延長線上にある発展が期待できます」と話します。
また、国連世界食糧計画(WFP)の「学校給食支援」という、学校給食を世界60カ国以上1640万人(2017年現在)の子どもたちに直接提供するプロジェクトを例として、1つのSDGs目標を実践することによる他への影響についてお話されました。
学校で給食が出ると、子どもたちが学校へ行く動機につながります。それが、勉強することにつながり、子どもたちの将来にもつながることになります。「学校給食」という一つの「点」が、周辺の様々なことに波及し、いい影響を及ぼす。田瀬さんはこのことを「てこの点」と表現されていました。
SDGsの目標一つ一つは、一つずつ個々に達成していかなければならない目標ではなく、一つに注力することで、他にも影響があるという意味で「つながっている」と言えます。
だからこそ、SDGsの目標を見据えつつ、各セクターがそれぞれの得意分野を活かしながら目の前のことに取り組み、連携する中で、社会が少しずつ変化していくのかもしれません。
会の最後に、主催の横浜グリーン購入ネットワーク事務局長の戸川孝則さんは「SDGsを実装している企業の明確な定義や決まりはまだありません。出てくるのを待っていたら、出遅れてしまいます。」と話し、企業の社会的使命を定義するための共同勉強会「SDGs実装ゼミナール」を全6回で開催することを説明。企業の積極的な参加を求めました。
同じく横浜グリーン購入ネットワーク副会長の大川哲郎さんは「本日はこのように関心を持ってくださる方が大勢来てくださり嬉しいです。ご講演下さった皆様とご参加下さった皆様に、心より感謝申し上げます。」と感謝を伝え、「『実装』とは、すぐに活かせるように組み込むということです。地域で連携しながら、本質的な部分を見極めつつSDGsの実装を進めていければ」と話しました。
行政や地方自治体、企業がSDGsとどのように向き合っているのかの現状が紹介された今回のイベント。
「SDGsをどのように政策に、まちづくりに、自社に結び付ければいいのか」を考えることが、必然的に内部の現状整理、目的の明確化・見直しにつながっていることが伺えました。
行政や企業、市民などさまざまなセクターがSDGsを推進する先の未来に、どのような社会が待っているのか—
誰にも予言することはできませんが、SDGsというツールを手に取りながら、社会がもっとよくなるための連携をするため、皆が手を取り合いながら‟スタートライン”に立とうとしていることが伺えるイベントとなりました。
「SDGs実装ゼミナール」は10月から定期的(月1回)に開催予定です。
参考:
LOCAL GOOD YOKOHAMAは、まちでコトをつくりたい、人とつながりたい、課題を解決したいと考えている市民のみなさんのICTプラットフォームコミュニティ。みんなが情報やコミュニケーションでつながり、人が集まることで何かがはじまる場をつくり、コミュニティや活動がこれからも続くキッカケをデザインします。まちの課題や問いに対して「自分ごと」として新たな一歩を踏み出し、まちの未来をより良くするアクションを 「LOCAL GOOD」と名づけました。 さまざまな地域課題に向き合う「ローカルグッドプレイヤー」とともに、共に考え、語り、取材をすることは、新たな視点や経験を得る貴重な体験です。取組を知り、現場でつながることは、おたがいの働く、学ぶ、暮らすを変えてゆくためのアイデアやアクションを生むためのイノベーションのヒントになります。地域のプレイヤーが悩み、チャレンジする現場に足を運び、声に耳を傾け、みなさんの得意や関心に併せた役割を見つけてください。自らを知る、変えるチャンスを提供します。誰もが参加して応援できるローカルグッドサポーターが、はじまっています。 https://yokohama.localgood.jp/about/ LOCAL GOOD YOKOHAMA 編集部へのお問い合わせやご意見、取材希望や情報提供はこちらにお願いいたします。 localgood@yokohamalab.jp