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大胆な提案で生糸貿易の産業遺産保存を

1910年(明治43年)に完成し、横浜と日本の近代の発展に寄与した生糸貿易の歴史を今に伝える「旧三井物産株式会社横浜支店倉庫」(横浜市中区日本大通14)が、現所有者である不動産会社「ケン・コーポレーション」(東京都港区、佐藤繁社長)によって解体される計画が浮上している問題で、8月5日夜、横浜市開港記念会館(横浜市中区本町1)で緊急シンポジウムが開かれた。

 識者から、明治時代から唯一残る歴史的な生糸保管庫について、これまでの経過報告や保存のための提案がなされ、集まった約90人の参加者は最後まで熱心に耳を傾けた。

 シンポジウムに登壇したのは、関東学院大学教授の水沼淑子さん、横浜国立大学大学院准教授の大野敏さん、建築史家の堀勇良さん、横浜市立大学教授鈴木伸治さん、横浜国立大学名誉教授吉田鋼市さんの5人。

 水沼さんによると、ケン・コーポレーションによる倉庫解体計画が明らかになったのは、6月13日の横浜市文化財保護審議会。

 1980年代、三井物産の子会社である「物産不動産」所有時から、学会や行政が保存を要望してきたが、「国指定文化財」(文化財保護法)、「認定歴史的建造物」(横浜市歴史を生かしたまちづくり要綱)のいずれについても「所有者の同意を得られず、無指定のままきてしまった。それがぎりぎりまで、解体計画をつかめなかったことにつながっている」と説明。さらに、6月末の段階で同社では「倉庫解体は機関決定済み。8月中にも解体」という方針を市などに示したことを明らかにした。

 水沼さん同様、市文化財保護審議会委員でもある大野さんは内部視察時に撮影した写真を用いて、レンガ・コンクリート・木が使われた「混合造」について詳細に説明。

 さらに、元・文化庁主任文化財調査官で、建築史家の堀勇良さんは「富岡製糸場と絹産業遺産群」(群馬県)が2014年6月に世界文化遺産に登録決定したことに触れ「この倉庫は、関東大震災前、商社主体で生糸が取引されていたことがわかる唯一の建物。群馬から横浜に至る絹織物のネットワーク自体が、世界遺産としてとらえられる時代が来るかもしれないのに、横浜に当時そのままの建物が1つもないということでいいのか」と疑問を投げかけた。

 都市デザインの歴史をひもとく立場から、企業側に「保存したメリット」のある提案を示す必要性に言及したのは横浜市立大学教授の鈴木伸治さん。

 横浜市独自の「歴史を生かしたまちづくり要綱」(1988年策定)が企画された1982年ごろ、当時横浜市の都市デザイン室長で、のちに参与となった故・北沢猛さんがこの要綱づくりに心をくだいた背景に「当時、保存要請が出ていたこの物産の倉庫の存在もあった」とする。

 さらに、台北市(台湾)などアジア諸都市では、ファザードやレプリカ「復元」ではなく「オリジナルな歴史建造物を残す」方針が基本であることに触れ「使われていない容積率を別の土地で使えるようにしたり、市が土地交換をしたり『建物を残す』ということを第1にして、企業にとってメリットがあるアイデアを示すなど、新しい方向性で提案をする必要がある」と強調。

 鈴木さんは「日本大通は、横浜を代表する都市の骨格。そしてこの倉庫保存はまちづくりの『ラストピース』をどうするかという問題」という認識を示した。

 主催したヨコハマヘリテイジ事務局長でコーディネーターの米山淳一さんは「時間はないが、できることはやっていく。これに終わらず、意見・提案を発信していく機会を作っていきたい」と話している。

ライター紹介

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