ローカルグッドニュース

学官連携で、横浜の「緑化意識」向上と市民交流を企画 〜みんなの麦畑プロジェクトと全国都市緑化フェアについて聞く〜

運河パークに開設された「みんなで作る麦畑」

2017年3月25日から6月4日までの72日間にわたり横浜市としては初となる「全国都市緑化フェア」が開催されました。「歴史と未来の横浜、花と緑の物語」をテーマに、中区に設けた「みなとガーデン」(合計23ヘクタール)と旭区に設けた「里山ガーデン」(約20ヘクタール)を作り、横浜市によると600万人と、予想以上の人が訪れました。この影響を受け、横浜市は、9月22日から 10月22日の31日間、「里山ガーデン秋の大花壇」を公開しました。

今回は、春に行われた緑化フェアの運営に携わった横浜市環境創造局の赤井洋之さんに、行政側からみた都市緑化フェアの総括と、横浜市立大学と実施した「学官連携」についてお話を聞きました。

◎これまでの経緯

横浜市は今まで、みどりアップ計画と緑地の保全に努めてきました。

みどりアップ計画とは、都市化で減少した横浜の緑を(緑豊かな横浜を次世代に)引き継ぐために、緑の減少を止め、新たな緑を創出しようとする活動です。また、現在その計画に基づいて市内で42事業が動いています。

緑地の保全については、後述しますが、緑化を目的に、みどり税を財源とする事業を展開してきました。その取り組みは実際に樹林地面積拡大、山林減少面積減少という成果を生み出しています。

これらの成果を広く全国に知ってもらおうと横浜市では、2015年、初の全国都市緑化フェア開催に向けて動き出しました。予算は直近の2016・2017年度合わせて総額14億円となっています。

会場整備を担当していた赤井さんは横浜市立大学との官学連携で、麦を使ったプロジェクトを企画しました。この連携プロジェクトの内容を模索するなかで、赤井さんが注目したのが「麦」でした。

麦を選んだ理由について赤井さんは「緑化フェア会場を、市民の交流拠点とするたにはどうしたらよいか、というのが重要なテーマでした。麦には『見る・作る・食べる』など、さまざまな切り口があり、人を巻き込める可能性が高い植物だと気づきました」と話します。

横浜市には、麦を専門的に研究する横浜市立大学木原生物学研究所(戸塚区舞岡町641-12)があります。

麦畑プロジェクトでは、木原研で栽培されている麦22種類を、みなとみらい地区の運河パーク(中区新港2丁目1-2)に設けた畑に植え替えるという企画を実施することになりました。

横浜市立大学としても、この「みんなで作る麦畑」プロジェクトを地域貢献事業の一環として位置付け、横浜市立大学の坂智広教授を中心に、学生たちが参加しました。

このプロジェクトでは「麦を味わう」という目標を実現するために、木原生物学研究所で育てた舞岡産の麦「ミカモゴールデン」を使ったビール「KORNMUTTER」の生産も同時並行して進められました。

 

横浜市立大学の木原生物学研究所で栽培した大麦を使用したクラフトビール「KORNMUTTER(コルンムッター)麦畑の精霊」

横浜市立大学の木原生物学研究所で栽培した大麦を使用したクラフトビール「KORNMUTTER(コルンムッター)麦畑の精霊」

「みんなで作る麦畑プロジェクト」は、2017年5月3日から5月5日までのゴールデンウィークの3日間で実施しました。横浜ワールドポーターズ前の運河パークで麦わらベッド体験、青空教室などのイベントを実施したほか、横浜赤レンガ倉庫の2階で、横浜市大の学生たちがファシリテーターとなって小学生以上対象にした麦についてのワークショップを開きました。

これは身近な食べ物である麦について詳しく知ってもらう目的で開催したもので、参加者は特に大麦と小麦の違い、グルテンの不思議について興味を持ってくれたようでした。5月末にも急遽イベントを開催しました。

大学の専門的な研究成果を生かし、学生たちのエネルギーを活用して植物の価値を伝えることができた今回の「学・官連携」ですが、植物という「生き物」を扱ったため、予想しなかった大変なこともありました。

観光地でも公共空間に、暫定的に畑を設けるとあって、麦の栽培中に防鳥・防虫用ネットが使えず、一度植えた麦が鳩にすべて食べられてしまうなど想定外のアクシデントがありました。

こうした出来事を1つ1つ、役所と大学、異なる文化で動いているメンバーが何度も話し合いをしてプロジェクトを進めていったそうです。

横浜市の調べでは、72 ⽇間の期間中に来場者数が、600万⼈に達したとのこと。

アンケート3109人のうち約96%の人がこのフェアを「大変良かった・良かった」と感じていて、約93%の人がこのフェアで「花と緑に対しての関心が深まった」と答えています。

調査では市外県内在住者は416人、県外在住者は718人だったとわかっています。横浜市民だけでなく、市外・県外に対するアピールに役立ったとようです。

http://www.city.yokohama.jp/ne/news/press/201708/images/phpfHVXmq.pdf

◎地域の課題

横浜は都心臨海部から河川沿いに延伸した鉄道とともに住宅開発が進み、丘陵地では大規模で計画的な住宅開発が進みました。

都市化とともに緑は減少し、横浜市緑の基本計画でこの減少を食い止めるよう努めてきましたが、1980年(昭和55年)に緑被率(航空写真から300m2以上のまとまりのある緑を目視判読し、市域面積に占める割合を算定するもの)が40.0%であったのが2004年(平成16年)には31.0%へ減少してしまいました。

http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/etc/jyorei/keikaku/midori-up/images/midoriup-draft-2-2.pdf

特に、郊外部の港南区・戸塚区・栄区は40%ほどの緑がなくなりました。近年、大規模開発は減少し、斜面地利用によって緑の減少のスピードは低下していますが、樹林地、農地の減少は続いていて、市街化地域における緑の減少は顕著となっています。

緑を守るために、みどりアップ計画で明確的な方向性を定めるとともに、住宅建設の際に規定を設けたり、高層ビル等の建築時に緑のオープンスペースを確保させたりと、さまざまな制度を設けて対応しているそうです。

◎これからの事業

都市緑化フェアのような大きなイベントは、整備費用もかなりかかるため「同じ水準で続けていくのは難しいです」としながらも、「緑化活動を一過性でなく、続けていっていくべきだと思います。フェアの風景を思い出していただき、『あの時きれいだったな、いつかやりたいな、花や緑を大切にしよう』という意識改革が続いてほしいです」と赤井さんは話しています。

【取材後記】

私自身もこの麦の活動に参加していましたが、たくさんの事を知ることができました。同時に同年代の学生が一生懸命頑張っているところに刺激を受けました。麦のプロジェクトを先導的に行っていたのは、同じ大学1年生の二人の女子でした。一緒に活動をしたメンバーも、かつて私が理系だった時にあったことのある人も多くいて、大学生活を意義あるものにしようと決意したきっかけになりました。

今回の都市緑化フェアでたくさんの方の緑化に対する意識が向上すればいいなと私も強く思っております。今回のような大きなフェアは、続けていくのはおそらく難しいでしょうが、フェアで培った意識を忘れないでほしいなと思います。諸外国を見ると、ものすごいお金をかけなくても緑を維持して、緑で地域を活性化させているところもあります。横浜市はみどりアップ計画と良い挑戦をしているので、一市民としてその計画が横浜の良い未来に役立つことを願っています。

【記事執筆・中島美紅】

横浜市立大学1年生。神奈川県出身。国際都市学系に所属しまちづくりや地域問題解決について勉強している。 趣味は音楽鑑賞で、特技は地図を読むことと早起き。 将来の夢はソフト面でもハード面でも誰もが暮らしやすいまちを作ること。地方創生にも携わりたいと思っている。 在学中に日本一周して、自らの知識を蓄えたいと考えている。

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