2014.05.27
横浜市の郊外は、東西南北を問わず「東京のベッドタウン」という位置づけで、1960年代から大規模な宅地開発・団地造成などが行われ、働き盛りだった「団塊世代」の暮らしの場として機能してきました。港南区日限山・丸山台地域もそうした住宅地の一つです。今、団塊世代が現役を引退し、まちは成熟の時を迎えています。小さな商店が閉店し、幼稚園が廃園になるなど、生活の音が少しずつ消えていく出来事が続いています。そんな静かな住宅地の一軒家を「地域の人による地域の支え合いの場」である「さわやか港南」(横浜市港南区日限山1)は活動拠点としています。介護から子育て支援、さまざまな楽しいイベントまで年間約4000時間の活動を地域で展開するこの「スーパーな任意団体」の理事長、川辺裕子さんに地域の課題、活動の理念やこれからの活動についてうかがいました。
1978年に日限山に引っ越してきた川辺さん。「さわやか港南」の活動が始まるきっかけは、1995年(平成7年)1月17日に兵庫県南部を中心に発生した「阪神・淡路大震災」でした。大震災の被害と救助の過程を報道で知った川辺さんは、隣近所の助け合いの必要性を痛感。子どもが通っていた幼稚園で一緒だった友人・知人たちと「災害時に助け合いは、日常の助け合いが大切」という思いでグループを結成しました。
「災害」という非日常的なことを考えるだけでは活動は続かないと、自治会主催のヘルパー養成講座を受講し、2級ヘルパーの資格を取得し、生活に深く関わる「介護」というキーワードも、活動に組み入れることにしました。「防災は、万が一、のこと。それに比べて介護は自分たちにとって切実な日常のこと」と川辺さんは話します。
2001年、「地域住民自身の手による地域の支え合い」を理念として任意団体「さわやか港南」が活動を開始。以来、高齢者や障害を持つ子ども・大人をはじめとして、サポートが必要な人に、地域の人が手をさしのべる活動(有償サービス)を展開しています。
現在、主な事業は「有償サービス(在宅支援・子育て支援など)」「地域の居場所」「よろず相談所」「市民活動の情報発信拠点(港南区民活動支援センターブランチ)」「まちづくり講座」の5つ。
法人化をしていない「さわやか港南」は、地域に住む人たちが会員として登録し、「会員同士の助け合い」という形でサービスを提供しています。団体設立の前年(2000年)に導入された介護保険を活用し、法人化したうえでの介護事業所として活動を展開することも可能でしたが、あえて川辺さんたちは法人化の道を選びませんでした。
その理由は「地域って逃げることできないでしょう?一緒になってみんなで参加してつくるのが地域。利益を追求することが第一義にあると、時間がかかる人、コミュニケーションが取りにくくて扱いにくい人は対応しなくてもよいとなってしまいます。けれど、わたしたちは基本、断ることはありません。それは利益を第一義にするのではなく、住民同士の助け合いを理念にしているからです」と、明快です。
会員の篤志で一軒家が借りられることになり拠点を移設。2008年には横浜市が市民によるまちづくり拠点整備に助成する「まち普請事業」に採用され、車いす用エレベーターと相談室を設置するなど、より多くの住民が利用できる場として育っています。
支援サービスは、10年、15年と継続している会員が多いことが特徴です。「娘の私よりも、母はさわやか港南のヘルパーさんを頼りにしていたし、ヘルパーさんも母を理解してくれました」と利用者が亡くなった際、ご遺族が言葉をかけてくれたこともあったそうです。
最近は在宅支援サービスだけでなく、障害児・者の送り迎え、囲碁や郷土史講座、防災ワークショップなど高齢者や子どもたちの学びの場づくり、中学生を巻き込んだまちづくりイベントなども展開し、「地域の居場所」として機能しています。
港南区の高齢化率は24.1%(2013年)。52817人が高齢者で、この時点では横浜市内で4番目に高齢化が進んだ区になっています。2015年には58,508人、高齢化率は26.7%と予想されていて、「人口の4分の1が高齢者」になる地域です。
「地域の課題」について川辺さんに質問した際、「それよりも…」と、口にしたのは国の介護福祉政策の大きな変更でした。「要介護を必要とする人のケアを、地域が担わなければいけない時代がいよいよ来ますよ」と話す川辺さんが心配しているのが「介護予防・日常生活支援総合事業」(以下、総合事業)のこと。
この事業の実施によって、比較的軽度とされていた「要支援者(軽度の要介護者)」に対する「通所」「訪問」の2つのサービスが、国の介護保険から市町村が実施する総合事業に移行することになります。
移行時期は2017年。市町村が、地域の多様な資源を生かし、コーディネートしてさまざまな予防・支援のサービスを「開発」しながら提供していくことが求められているほか、総合事業の遂行を通して、地域にコミュニティビジネスを創出することも求められています。
川辺さんは「この短い間に、そのような整備が本当にできるのでしょうか。危機意識を持つ人は少ない。けれども認知症の兆候がある人の進行を食い止めるには、要支援の段階からの関わりがとても重要です。サービスの空白ができれば、家族にも負担がかかってしまいます。だれが、そうしたお年寄りを見守り、支えていくのかについての議論が進んでいないのがとても心配です」。
この大きな課題のほかに、さわやか港南の活動を通じて、川辺さんが考える地域の課題として挙げるのは
①まちづくりの後継者の確保
②地域の居場所である「拠点」の将来
③中間的な就労の場の拡大
の3点です。
①について、「さわやか港南」では少しずつ30代、40代の人たちの参加も見られるようですが、支え合いを持続していくにはもっと多くの人たちに関わってもらいたいのはいうまでもありません。
ただし「2013年度港南区区民意識調査」で「地域活動の参加経験・参加意向・充実すべき活動 」について調べたところ
① 参加経験(または参加中)は
「 自治会、町内会、子供会、シルバークラブなどの役員活動」が30.7%で最も多く、
② 参加意向(または継続意向)は 「身近な道路・公園・川などの清掃・ 美化活動」(21.2% )、「子育てサークル、高齢者サークル 、スポーツ、趣味などのサークル活動」(20.9%)が多くなっています。
③ 充実すべき活動は、「 地域の交通安全や防災・防犯などの活動」が40.6%で最も多くなっています。
また、充実すべき活動と参加意向を比較すると、「地域の交通安全や防災・防犯などの活動」は、40.6% の方が充実すべきと考えているのに対して、17.3%となっており、23.3ポイントの差があります。「近所の高齢者や障害者の見守りや介助」についても同様に、22.4%の方が充実すべきとしながらも参加意向は9.1%と、13.3ポイントの差があります。
という結果が出ています。
「充実を求めること」と「参加すること」の間にあるギャップ。川辺さんは、まちづくりの担い手を増やしていくきっかけづくりとして、ヘルパー講座や歴史講座など学びの機会を提供していきたいと話しています。
②の地域の居場所である「拠点」の将来
については、現在の一軒家がいつまで同じ条件で借りられるかわからず、不安をは常にあるそうです。「介護予防・日常生活支援総合事業」を地域で担うことになれば、なおさら「誰でも気軽に来られる居場所」である「さわやか港南」は、困った人が最初に来る相談場所になることが予想されます。「人と人をつなげていくときに、リアルな拠点はとても大切です。災害時にも情報拠点になります」と、川辺さんは改めてその重要性を訴えています。
③の中間的な就労の場の拡大
「地域の助け合い」といっても、ヘルパーなどの専門家がスキルをもって動く以上、まったくに無料という訳ではありません。「有償ボランティア」という、営利企業よりはずっと安いけれども無料ではないモデルで、関わる人が疲弊しない仕組みが求められます。「このあたりがうまく設計できると、発達障害などをかかえた青少年に仕事の経験をしてもらったり、ひっこみ事案だけれども事務作業ができるお母さんに週に数時間働いてもらったり、小さな仕事をしてもらえるようになります。もっともっと整備していきたいと思っています」と川辺さんは話しています。
川辺さんは、「さわやか港南」のような「助け合い」の理念をもった仕組みを「もっと広げていかなければ高齢社会は支えられない」と考えています。まちから、生活の音が消え、だんだんと限界集落的に枯れていくことが止められないとしても「地区の社会福祉協議会にはない、細やかで機動的なつながりづくりをやっていきたい」と話しています。
15年前に活動を始めた時からわたしたちは「できる人ができるときにできることを」という思いでやってきました。最初にも言いましたが「地域って逃げることできない」場所だと思います。
一緒になって、みんなで参加してつくるのが地域。だからわたしたちはどんなひとであろうと、断ることはしたくない。同じ地域に住む方たちの尊厳を守るためのサポートをしながら、みとりまで住み続けられる仕組みを考え、実践していきたいと思っています。
LOCAL GOOD YOKOHAMAは、まちでコトをつくりたい、人とつながりたい、課題を解決したいと考えている市民のみなさんのICTプラットフォームコミュニティ。みんなが情報やコミュニケーションでつながり、人が集まることで何かがはじまる場をつくり、コミュニティや活動がこれからも続くキッカケをデザインします。まちの課題や問いに対して「自分ごと」として新たな一歩を踏み出し、まちの未来をより良くするアクションを 「LOCAL GOOD」と名づけました。 さまざまな地域課題に向き合う「ローカルグッドプレイヤー」とともに、共に考え、語り、取材をすることは、新たな視点や経験を得る貴重な体験です。取組を知り、現場でつながることは、おたがいの働く、学ぶ、暮らすを変えてゆくためのアイデアやアクションを生むためのイノベーションのヒントになります。地域のプレイヤーが悩み、チャレンジする現場に足を運び、声に耳を傾け、みなさんの得意や関心に併せた役割を見つけてください。自らを知る、変えるチャンスを提供します。誰もが参加して応援できるローカルグッドサポーターが、はじまっています。 https://yokohama.localgood.jp/about/ LOCAL GOOD YOKOHAMA 編集部へのお問い合わせやご意見、取材希望や情報提供はこちらにお願いいたします。 localgood@yokohamalab.jp