2014.12.08
1994年の行政区再編成で誕生し、2014年の今年でちょうど区制20周年を迎えた青葉区は、高度経済成長期に宅地開発が進み、東急田園都市線の開通をきっかけに、急激に人口が増加した郊外のベットタウンです。「丘の横浜」と呼ばれる通り丘陵が多く、区の中央を流れる鶴見川に沿って田園風景が広がる自然豊かな地域です。 そんな青葉区のたまプラーザ駅近くに、2014年3月地域密着型の起業支援センター「まちなかbizあおば」(横浜市青葉区美しが丘1)がオープンしました。運営を担っているNPO法人 「協同労働協会OICHI」 理事長の坂佐井雅一さんに、なぜ地域密着型の起業支援センターを開設したのか、どのような課題があるのか聞きました。
2008年のリーマンショック後の景気後退以降、大企業のリストラや業界再編など日本を取り巻く経済環境は厳しい状況が続いています。 長年企業に勤めている人の中にも「老後に年金や退職金だけで生活していけるのか」など人生設計に不安を覚えている人は少なくないのではないでしょうか。
坂佐井さんも30代後半の時に「会社の雇用だけに頼ることに不安を感じ、本業以外に収入を得る手段を作り、定年退職後もビジネスを続けていく必要性を強く感じた」といいます。そして、起業セミナーで知り合った友人2人と共にビジネスプランを練ってオーディオブックの販売事業を立ち上げます。
単独での起業ではなく3人がそれぞれの特徴を活かしたビジネスプランによる「協同起業」でした。 このオーディオブックの販売が成功した経験から「協働起業」を多くの人と進めればもっと可能性が広がると考え、2008年11月、交流会・起業相談会・ワークショップなどを通じて起業を支援する任意団体「OICHI(オイチ)」の活動を開始します。
主に都内で活動を行い30代から40代の会社員や起業家を中心に会員を増やし、2011年にはNPO法人「協同労働協会OICHI」として法人化しました。 坂佐井さんは「会社の雇用だけに頼らない生き方が必要だと感じた人が、年齢に関係なくそれに気がついた時点で、みんなで協同して生涯現役で働ける環境を作っていこうというのがOICHIの活動の趣旨だ」といいます。
そして2014年3月、地域密着型の起業支援センター「まちなかbizあおば」をたまプラーザ駅近くの商店街の中にオープンし6月から正式に会員募集を始めました。 坂佐井さんが「まちなかbizあおば」を始めたきっかけは主に2つあったそうです。
1つは、自宅近くにあった公園が突然閉鎖されてしまったことでした。それまで、坂佐井さんは、子ども達が利用していた公園がどのような管理体制にあるのかまったく知りませんでした。閉鎖の理由を調べるうちに、行政から委託を受けていた自治会が高齢化などの理由から委託を続けることが難しくなったことが原因にあることが分かってきました。
最初は突然の閉鎖に憤りを覚えたものの、原因が分かってくると、このような地域の課題を利用者である自分が知らなかったことにショックを受けたそうです。
もう1つは、2012年に横浜型地域貢献企業(*1)の認定企業交流会で行なわれた「横浜の課題解決ダイアログ」に担当として参加した際に、税収の減少から行政のリソースが限られてくる中で、子育てや女性活用、防災、環境、経済など多くの地域課題は、行政だけでなく市民や企業が主体となって解決していくことが求められていることを知ったことでした。
2つのきっかけから、今後の地域課題を解決していく際に小回りがきくのは、地域密着型の起業家ではないかと考え始めました。そして、そういう起業家を支援する拠点として「まちなかbizあおば」をスタートしました。
2014年7月に発表された青葉区の統計データ指標「2014なるほどあおば データで見る青葉区」(*2)によると、青葉区の人口・面積はともに市内第2位を占め、特に年少人口(0~ 14歳)は市内で最も多く、生産年齢人口(15~ 64歳)も市内で2番目となっており、平均年齢は42.3歳で、市内で2番目に若い区です。
一方で、女性の平均寿命は88歳で市内1位。男性の平均寿命も81.9歳で市内2位と長寿で、多様な世代が一緒に暮らす住宅地域であることが分ります。
また、夜間(常住)人口100人あたりの昼間人口の割合である昼夜間人口比率が77.2%と市内で一番低く、昼間は通勤・通学で区外に出かけている人が多いという特徴があります。通勤・通学先のうち東京都のしめる割合も42%と高く、横浜市の平均値24.8%を大きく上回っています。
青葉区が誕生した1994年の人口は24万人強でしたが、2007年には30万人に達し、現在にいたるまで少しずつ増加しており、新しい住人が地域に入ってきている状況が緩やかに続いています。ただし、自治会への加入率は75.3%と市内では下から数えて5番目と決して高い数字ではありません。
昼間区外に通勤している会社員が仕事場近くで過ごす時間が多い分、地域の活動や行政が抱える地域課題に触れる機会が少ない状況は、坂佐井さんの話した公園閉鎖の問題からも想像できます。
また、若い世代が多く、人口も緩やかに増えている青葉区では、新しい住人に地域活動を知ってもらうことも課題になっている状況もうかがえます。
坂佐井さんは、公園閉鎖の問題が起こった際に、もっと地域に目を向ける必要があると考え、2012年から地元交流会「あざみのほろ酔い交流会」を企画しています。最初はOICHIメンバーやパパ友に声がけをしましたが、会を重ねるうちに商店街の会長、保育園の園長、トラックの運転手、学生からシニアまで多様な参加者が集う会になりました。
緩やかな交流会の中で地域課題やビジネスに関する話題を重ねていくことで、地域に根ざした経済活動を行っている人々と、市職員や議員など行政との間につながりがほとんどないことや、起業しようとする人々がビジネススキルを学ぶ機会が多くないことなど課題点が見えてきました。
そこで、OICHIの活動の中で広がってきた行政やビジネスにおける専門家の人脈を、ここにつなげることで地域経済活性化に活かせるのではないかと考えました。 坂佐井さんは「今まで行政が自治会に委託してきたサービスの中には、実はビジネスで解決できることがあると考えています」と話します。
そのためにも、地域課題を知ってもらう機会を継続的に提供し、地域と起業家を結びつけていく場所が重要です。それが「まちなかbizあおば」なのです。
「まちなかbizあおば」は、会社住所を持てるバーチャルオフィス、貸会議室機能のほか、会員限定の交流会を開催したり、専門家を紹介するサービスを提供したりしています。
「地域課題解決ディスカッション」を毎月開催し、地域の市職員や県議会議員がファシリテーターになり、地域の課題について参加者が一緒に考えるディスカッションを重ねています。 「今はまだ、参加者の方に地域課題について知ってもらう時期なので、討論まで至ってないのが現状です。
でも、小さくても良いから毎月対話を続けていくことが重要だと思っています」と坂佐井さん。 6月に会員募集を始めた「まちなかbizあおば」には、起業を目指す人だけでなく、既に事業を運営しているものの青葉区に新たな拠点を持ちたい人、もっと地域に根ざしたビジネスを行ないたいと思う人も合わせ、既に30人ほどの会員が集まっています。
走り始めた「まちなかbizあおば」の事業について坂佐井さんは「これから、会員の人たちと一緒に成果を作っていかなければならない、やりがいも大変さも両方あります」と話しています。
成果を作り上げていく実践として、2015年1月10日には第4回OICHIビジネスアワード選考会が、さくらWORKS<関内>(中区相生町3)で開催されます。
第1部は、NPO法人「横浜スタンダード推進協議会」理事長の江森克治さんの講演。第2部は、1年間OICHIで活動してきた4組の会員が、お土産プロジェクト事業・就労支援事業・3Dプリンターでモノ作り事業・理容業のビジネスプランを発表し、アワードを決定します。
第3部では、新しいつながりを作る交流会が予定されていて「マッチングしたい・一緒にやってみたい・応援したい・出資協力したい」という人の参加を募っています。
坂佐井さんは「志の高い事業の創造をみんなで応援しようというアワードを、設立以来毎年開催してきました。ぜひ、会場に来て応援していただきたい」と話しています。 参加費は12月20日までの申込みの場合一般4,000円、OICHI会員3000円。それ以降は一般4,500円、OICHI会員3,500円。申込みはOICHIウェブサイトから。
「地域でビジネスをしている人たちと、市職員や議員など行政の人たちや、ビジネスの専門家とのつながりを作っていくことで地域経済を立て直したいと考えています。そのための環境を作り、会員同士の信頼関係を築いていくという小さな一歩から、輪を広げて、青葉区の地域課題の解決につなげていきたいと思っています」。
(*1)横浜型地域貢献企業 地域を意識した経営を行うとともに、社会的事業に取り組んでいる企業等を、一定の基準の下に「横浜型地域貢献企業」として認定し、その成長・発展を支援する制度です。 http://www.idec.or.jp/keiei/csr/
(*2) 2014なるほどあおば データで見る青葉区 http://www.city.yokohama.lg.jp/aoba/upimg/20140722somunaru2014all.pdf
LOCAL GOOD YOKOHAMAは、まちでコトをつくりたい、人とつながりたい、課題を解決したいと考えている市民のみなさんのICTプラットフォームコミュニティ。みんなが情報やコミュニケーションでつながり、人が集まることで何かがはじまる場をつくり、コミュニティや活動がこれからも続くキッカケをデザインします。まちの課題や問いに対して「自分ごと」として新たな一歩を踏み出し、まちの未来をより良くするアクションを 「LOCAL GOOD」と名づけました。 さまざまな地域課題に向き合う「ローカルグッドプレイヤー」とともに、共に考え、語り、取材をすることは、新たな視点や経験を得る貴重な体験です。取組を知り、現場でつながることは、おたがいの働く、学ぶ、暮らすを変えてゆくためのアイデアやアクションを生むためのイノベーションのヒントになります。地域のプレイヤーが悩み、チャレンジする現場に足を運び、声に耳を傾け、みなさんの得意や関心に併せた役割を見つけてください。自らを知る、変えるチャンスを提供します。誰もが参加して応援できるローカルグッドサポーターが、はじまっています。 https://yokohama.localgood.jp/about/ LOCAL GOOD YOKOHAMA 編集部へのお問い合わせやご意見、取材希望や情報提供はこちらにお願いいたします。 localgood@yokohamalab.jp