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シンポジウム「すべての人のための 文化施設であるために」第2部 後半

 9月6日、神奈川県民ホール大ホール(神奈川県横浜市中区山下町 3-1)で劇場運営マネージメント講座「これからのインクルーシブ社会と公立文化施設」第2回として、
 シンポジウム「すべての人のための 文化施設であるために」が開催されました。

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平成28年4月に障害者差別解消法が施行され、公立文化施設はバリアフリー対応が必要となりました。この神奈川県民ホールでは、この課題に対して出来ることを考え実践していくために「これからのインクルーシブ社会と公立文化施設」という講座シリーズを実施しています。

第2回である今回は、神奈川県民ホールで全国大会を行った4つの障害関連団体代表者を招いたシンポジウムが開催されました。保安上の理由などから、参加は一部の方のみに限られていましたが、当日の記録を動画と文章にて公開します。  

この記事の前の内容は下記リンク先に掲載しています。

シンポジウム「すべての人のための 文化施設であるために」第1部

シンポジウム「すべての人のための 文化施設であるために」第2部 前半

 

尾上氏:  

 今日の私の講演のサブタイトルに「合理的配慮と建設的対話」と入れましたが、どのようにすれば建設的対話が出来るかということで、まずは神奈川県民ホールを使ってみての話を聞くことができればと思います。

 それに対して、駒井氏より後で伝えますということを説明していただいて、そして最後に県民ホールだけではなくて、今日来ている皆さんも、ホールを使う時にこんなものがあればいいのに、という建設的対話を成り立たせるためには、どのようにしたらいいかというヒントを登壇者の皆さんと一緒にしていただければと思います。

 前半は「実際に県民ホールを使ってみて」ということで議論を深めていただければと思います。始めの説明に対しての、補足や説明などあればお願いします。

 

パネルディスカッション

動画リンク:第2部 パネルディスカッション

▽NPO法人EDGE利用時の対応

藤堂氏:

 県民ホールを使ってみての感想は先程お話したのですが、私たちは歩くことができ、何が不便かというと、分かってもらえないことが不便なのではないかと思います。

 それこそ手帳を取得できるわけではなく、見て分かるわけではない、耳が聞こえないことと似ているという面もあり、見て分からないということで、誤解を受けやすいことも問題なのではないかと思います。

 アンケートをとっていただいて、その結果がどうなったかが興味があります。 普段から不便なことが当たり前になっていると思いますので、工夫するということを私達は覚えています。

   先程、依田さんが仰っていたように、それで育った人たちは工夫する力を持っています。しかし今、合理的配慮や特別支援教育・特別な教材が増えてきてしまうと、無かった時にどうするのか、ということが若い人たちに課せられた次の課題なのだと感じています。

 

 県民ホールを使っての話は、先程随分話し、エレベーター内の表示や入口の表示が分かりにくいということは、随分改善されているという話も伺いました。非常時の対応というものも、簡単に私たちはどうしてほしい、と言うものを持っていないのです。

   災害時における発達障害への配慮方法のマニュアルがあります。しかし、発達障害というものはスペクトラムであり、私のように何不自由なく生きているように見える人から、大変重篤で、場が変わることや音に対して、何か起きているということは分かっても、何が起きているのか、どうしたらいいのかが分からない人達はいます。

 本番の全国大会の時に何も起きなかったからいいのですが、何かが起きた時にどうしたか、ということを先ほどのお話を聞きながら考えていたところではあります。

 

   自分たちでも新しいコンセプトで、社会的モデルそのものなのです。私たちが障害を持っているというよりも、文字が読めなくても文字がない社会ならば、問題にならないわけです。そのような世界が今でも多くあるわけです。それでは、何かあったときにその社会モデルの障壁というものが何なのか、私たちが提示していかなければならないと思います。

  尾上氏:

 ありがとうございます。先程アンケートの結果に関して仰っていましたが、駒井さんのスライドの中でアンケートが2種類出ていました。最初に提出されて、フォーマットが変わったとのことです。

  駒井氏:

 その通りです。藤堂さんは当日お忙しかったため、違うスタッフの方にチェックしていただきました。指摘前のアンケートで合格と言われたことは、フォントだけでした。指摘前のアンケートのどこが答える気を無くし、全く答えることができないアンケートなのか分かりますでしょうか。

 私はその様なことが分からなかったため、作成してしまったのですが、修正後のアンケートでは、書体は丸ゴシックに近い角の丸文字、明朝体など装飾性の高い文字は干渉してしまうということを学びました。

 行間はとても広く、一行空けです。見た目は質問は四角く囲む、文字として「キュッ」とした文字は目に入りやすいということを伺いました。 藤堂さんにお伺いしたいのですが、私が藤堂さんの勉強会に参加した時に、ディスレクシアがどのように文字が見えるかを動画で見る機会がありました。

 文字が広がってしまう方や、5行が1行に「ぎゅっ」と見える方など、様々な症状であるため答えも1つではないのですが、四角く囲みをすることで見えやすく「これが質問です」「これがメッセージです」ということが分かるようになると伺いました。

   設問は、主語や目的語を省かないということを学びました。具体的に内容を聞くことが必要であり、 「何が悪かったか」ということは漠然としていて答えづらく、何を聞いているかが分からなくなってしまうそうです。

 「不安なことは何ですか?」という、人をマイナスに陥れるような質問は絶対にいけないそうです。ついつい「県民ホールに来る前に不安だったことは何ですか?」と、聞きたかったのですが「不安だったこと」「不満だったこと」というマイナスの聞き方をしてしまうのですが、それはアンケートとして非常によくない質問だとご指摘いただきました。

   あとは何のためにアンケートをするのか明確にすることです。特に障害を持つ人は、ある方の言葉によると「調査されたり、先生に聞かれたりという経験があり、自分の言ったことが何に使われるかを疑うことがある」とのことでした。

 その為「県民ホールをよくしたいため、あなたの声を聞かせてください」という想いが伝わる文章にしてくださいということを聞きました。

藤堂氏:

 ありがとうございます。比べてみると、とても分かりやすくなっていると思います。初めの丸ゴシックまでは行っていただきました。その後にもう少し改良の余地がありました。日本語だと、主語・述語・目的語がはっきりしていないです。

 私たちが、どうして英語だと分かりやすいのかなと思うのですが、いつも「I」や「you」など誰に対して何を言っているかがはっきりしているからだと思います。それも1つや単数なのか複数なのかということもはっきりしています。

 私は帰国子女であるため、いつも始めに「わたくしは」と言うのですが、その様なものが分かるということはとても安心感につながります。  

 具体的に、ということも大事であり、それは特別支援教育でも知的障害のお子さんにも短くはっきりと具体的に、最後のポジティブな言葉で、不安というべきか設問自体というべきか、特別支援教育の目標を作る時も「~しない」とか「~させない」ではなく、具体的に何をすればいいかを伝えてほしい、というのがあります。

 「走るな」と言われても「じゃあ飛べばいいのか」と思う人もいます。「歩く」などにしてほしい、ということや、「うるさい!」ではなく「このぐらいの声で話してください」なら分かるということです。

 このようなことがありますので、事務局スタッフは的確なことを伝えたのかと思います。  

尾上氏:

 通常のアンケート作りではなく、本当にこのような形のやりとりをしなければいけない、丁寧にレイアウトから設問の仕方まで作り上げていくというプロセスが大事なのだと2人の話を聞いていて思いました。

 

 

▽神奈川県手をつなぐ育成会対応時

尾上氏:

 続いて、依田さんにはさきほど社会モデルを中心にお話しいただいたので、県民ホールを使っての感想をお話しいただければと思います。特に先程の話を聞きますと、大会当日だけではなくて、リハーサルの時から準備があったのだと言うことが垣間見えます。

依田氏:  

 親自身も気付かない部分でもあり、リハーサルを同じようにやらなければ本人も戸惑ってしまうということがあります。 「サルサガムテープ」という知的障害者のロックバンドがあるのですが、当日演奏していただきました。衣装も派手で、皆ノリノリでした。

 私達も時間が無い中で、リハーサルを詰めてもらおうと思ったのですが、サルサガムテープの支援者代表のかしわ哲さんという方からの強力な申し出で「同じようにやらなければダメなんだ、途中を省いてもらっては困る」とのことでした。

 私達親としても「大会を行わなければ」「時間内に納めなければ」ということばかりが先に立って、忘れてしまっていました。 その様なわけで、会場を使う時間を早める手続きをし、ほぼ同じようなスケジュールでリハーサルをしていただいた経緯があります。

 知的障害や自閉症などがいますが、障害といっても目に見えるものはダウン症です。自閉症というものは見かけが普通と同じで、ただし大きくなってくると行動に特徴がある人たちもいますから、分かると言えば分かるのですが、その様な人たちがいます。

 リハーサルの問題はそのようなわけで解決しました。つまり同じような条件でやらなければいけないのです。

 

   それとはちょっと違う形でトイレに関しての話をします。トイレに関しては、介助者の異性が入ることがあります。母親が息子・男の子を介助に連れていくことがあります。小さいうちは良いのですが、大きくなって母親より背が高くなってくると、なかなかためらいがあります。 母親と息子が入る際にためらうわけです。そのため、車椅子マークがトイレにあることと同じように介助者が一緒に入ることができるようなマークがあると良いかなと思いました。そうするとためらわずに、出入りの際に周囲に気を使わずに入ることが出来るのです。

   親は、子供にべったりついている場合が多いため、本当に困っているようなことは、当日は大会で皆が盛り上がっているせいもあってか、なかなか気づくことが出来なかったです。

 ホールではなく全体として言う事ができることは、思いついたことをピックアップしてみましたが、この会場についてはあまりありませんでした。

尾上氏:

 トイレというものは、もちろんヘルパーさんと一緒に来られている方や同性介助の方もいますが、夫婦や親子など家族介助の方はどこに行けばいいのか、という問題があります。

依田氏:

 そもそも、その為のトイレがないため、普通のトイレに、お母さんと大きくなった息子がぎゅうぎゅうになって入ることになります。広めのトイレが必要で、車椅子用トイレを使用しますが、車椅子ではないにも関わらず、異性の息子と母親が入るため「入っていいのだろうか?」と思います。

 車椅子マークと同時に「介助者が入りますマーク」があると、車椅子ではなくても、介助が必要な異性同士だと分かります。ここの会場というより、ホール全体で解決しなければいけない問題であり、母親と息子だけで解決して、しのいでいた問題でした。これからは、堂々と入れるようなトイレが色々なところに増えていくかと思います。

尾上氏:

 トイレに関して、駒井さんが行われたことを教えていただけますか?

駒井氏:

 依田さんの大会の時に、トイレを増やすことは出来なかったため、スタッフがそのようなことを理解して、異性のトイレに介助者が入ることをスタッフが学びました。依田さんの大会の参加者同士であれば、事情を知っているため、他の方に遠慮するようなことはないかと思うのですが、今回は会場スタッフがきちんと学び「介助が必要な方はどちらか異性がトイレに入ることもある」ということを徹底しました。

藤堂氏:

 最近は車椅子用トイレではなく「誰でもトイレ」になっているのですが「誰でも入れますよ」というマークはいまだに車椅子のままであり、車椅子のイメージを与えるため、本来は様々な人が入ることが出来るトイレであるにも関わらず、私たちは使えないのではないかという問題が起きています。ホール限定ではなく、すべてのところで問題です。

尾上氏:

 誰でもトイレや多機能トイレはありますが、元々車椅子トイレに様々な機能を付加したイメージがあり、そのためにシンボルマークが車椅子です。  ベビーカーやおむつなどのこども連れの方、オストメイトなどのシンボルマークはあるものの、家族介助や異性介助の人も使えるというシンボールマークがないという話でした。

依田氏:

 そのようなマークがあることが私共の団体の希望です。予算や環境もあるとは思いますが。

尾上氏:

 マークや文章の意味が分かるように国レベルでもシンボルマークを作る必要があります。 ピクトの絵やサインなどのようなものがあるとよいです。

依田氏:

 マークが上にあると見づらいです、県民ホールはわりとそのようになっています。細かいことで言ってもなのですが、普通の人は目線を上に向けて歩かないのです。

 

▽神奈川県肢体不自由児者父母の会連合会対応時

尾上氏:

 それでは、石橋さんお願いいたします。

石橋氏:

 私どもは、車椅子利用者が多く大会を開催する際にアクセス問題があります。「日本大通り駅を使うように」という案内のみをしました。案内誘導をする人的補充が出来ないと分かっていたため、元町中華街駅には行かないようにして日本大通りから来てもらいました。  

 運悪く、日本大通り駅の、横浜情報文化センターの外壁工事が入り、来場予定者から「大丈夫でしょうか?迂回したほうが良いのではないでしょうか?」と連絡が来ましたが、迂回をすると、またその人手が必要になると「誰が、どのように、どこに案内するのか」となります。

 現地を見ると、通路が90センチあるのです。先程尾上さんが車椅子の通る通路を80センチと仰っていましたが、道交法で作業用通路を70センチ確保するようになっているため、互いに譲り合えば、地下から上がってきて、右に曲がって横断歩道を渡る、という方法が行きやすいと案内して修正しませんでした。

 

 一番困ったことは、小ホールです。私たちは1日目、大ホール・小ホール・大会議室・小会議室、全てを使いました。

 小ホールは何とか行く事も出来ますが、当日は要約筆記を入れたのです。これは神奈川県が手話言語条例作成後の大会だったため、こちらとしても何らかを考えなければならないと考えたためでもあります。

 小ホールに要約筆記を入れると、車椅子の方にとってホールの移動が難しくなると分かりました。 小ホールは、音楽を鑑賞する場所であるため、それを会議に使うということが難しいのだと後で分かりました。

 その為、椅子を外す手段をとりました。そこは労力を使って外して対応できましたが、事前に会議参加者の予約をとった際に、車椅子利用者が予想よりはるかに多かったです。30台程だと思っていたところ、神奈川県を除いても60台でした。

 一番どこへ案内をしなければいけないかということで、日本大通り駅に連絡して、全国から来るため、羽田空港から横浜駅で地下鉄に乗り換えると考え、JR東日本横浜支店へ連絡し、いつ来るかの時間は不明な状態でお願いしました。

 他にもみなとみらい線か湘南ライナーを使えば、埼玉・栃木・群馬からも入って来ることができるため、このルートへの事前説明を行いました。 参加者が多いと想定するのであれば、前の産業貿易センターの場所借りをしたほうがいいのかなと、感じました。

 

   私共の場合は、トイレの問題と言うよりもオムツ交換する場所が必要です。これは、小会議室をパーテーションで区切ってオムツ交換をしました。これから、それぞれの館でトイレを大きくしてほしいという時に、それぞれの地域やまちづくり条例で、介護用ベッドを置くという設置基準などが出ていると思います。

 是非とも介護用ベッドは、小児用ベッドではなく、大人用ベッドにしてほしいです。高齢の方でも変わりありません。ベッドに上がってオムツ交換をするということは車椅子生活をされている方でも同じですから、トイレの改修をぬかりなくしてほしいです。

 

   それと授乳室の問題があります。 県民ホール施設内に1人用個室がありますが、大ホール内にはありません。

 地方のホールでは授乳しながら、お父さんお母さんが過ごせる家族ブースが4,5つあります。設備改修の予定があれば、そのようなことも考えていただければと思います。

 

 緊急時の通報については、6月に川崎で障害者のお祭りを行ったのですが、6月の第3日曜日と決めて開催予定でした。開催する際の緊急時・地震の際の対応は行政が決めるのではなく、実行委員会側で意思統一をして決定し「このように行うため、あとは行政文書でやってください」と、それを行政に伝えました。

 そのため、行政で決めるよりも「私たちは、このように対応します」と言ってお祭りを開催しまして、全国大会の時もそのように実行いたしました。

 

 もう1つ、どこの会場も場貸しであるため、機材に関してはそこの管理者が関わるわけですから、場貸しの場合には、その操作も含めての契約にしていただきたいと思います。

 「この操作は、石橋さんのほうでやってくださるのですよね」と言われると「え?」と思いながらも「ハイ頑張ります」と言わざるを得ないです。

   その他、階段昇降機として素晴らしいものを導入していただきました。もしもの際は人力や、家庭用のホームエレベーターをレンタルしようかとも思いました。

昇降機のお金の出どころの話を聞くと、これは問題があるなと思いますので、行政にもしっかりしてもらうよう言わなければならないと思いました。

尾上氏:  ありがとうございました。駒井さん、よろしくお願いします。

      

駒井氏:

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 只今のお話で出ていた、車椅子の段差解消機はこの大ホール隣についています。

 フェイスブックでも、動画でご案内いたしまして、手をつなぐ育成会全国大会の時にで初めて使っていただいて、非常に喜んで楽しんでアトラクションの様に利用いただきました。車椅子出演者は5~6名いたのですが、「じゃあ次は僕の番です」と楽しんで使っていただきました。

 この機械は高級品なのですが、石橋さんの大会に来ていたおじいさまが「うちの息子の時にこの機械があったらな」と仰っていました。「どうしてですか?」と聞くと、昇降の機械にお子さんを載せた際に、こっそり「僕は荷物じゃない」と聞いたとのことでした。

尾上氏:

 ここに導入された機械は家具のようなものです、よくあるものは荷物を上げるようなおしゃれ感覚もないものです。「僕は荷物じゃない」と言われた方の気持ちがよく分かります。

駒井氏:

 Facebookで動画を紹介する際に「お名前を出してもいいですか?」と聞いただけで、着替えて専用のラップも作っていただきまして、髪の毛も緑色にして、動画でラップを歌いながら演技をしてくださったのです。 これが私の中で一番良いプレゼントで、初めは「段差解消をしなければ」と思って切羽詰まった思いでやっていたのですが「こんな機械があればこれを解消できるのでは?探してみよう」と探し、この機械は日本製ではないため中々カタログには無かったのですが、自在に可変する様なものはないか探し始めて、見つけたものです。

 そのため荒唐無稽なことを考えることが良いことにつながった1つの例だと思います。

石橋氏:

 この昇降機の良いところは人を呼ばずに、自分でできるということです。階段昇降機のほとんどは、家族と一緒であっても施設の方を呼ばなければいけないものです。自分で操作できることは良いことです。

駒井氏:

 ありがとうございます。それは選ぶときにも非常に大きなポイントでした。皆大体ホールに入ると、楽屋で出番待ちする時に、本当はロビーに行きたいと思う時に、手間をかけることが嫌で、楽屋にこもってしまうそうです、昇降機があると、自由にロビーや山下公園に行ったりすることが出来て、すごく自由を得たそうです。

尾上氏:

 本当に様々な人が全国大会でホールを使う際に、昇降機は肢体不自由者父母の会連合会の大会が最初ではなく、手をつなぐ育成会でも使うことができるなど、合理的配慮というものは共有できるのだなと思いました。

駒井氏:

 石橋さんの大会では、エレベーターの問題が県民ホールで一番大きな問題でした。 60台・70台の車椅子の方が、大ホール・小ホールがある会場からケアルーム、おむつ替えのルームへ移動する際に、6階の小会議室に設置していただきました。

 2階や小ホールから移動する際に、上下運動が休憩時間などの短期間に大量に発生します。

 エレベーターの台数を増やすことが出来ればいいのですが、それは出来ないため、業務用エレベーターなどを使っていただきました。小ホールは荷物用の搬入エレベーターがあるのですが、それは荷物搬入用であるため何度も確認していただき「本当にこれでよろしいですか?」と確認し「これで良いです」とお答えを頂いたため、使っていただきました。  

 最後は石橋さんの大会にて借りられていたたのですが、当初は2日間のうち1日は6階にケアルームを設置しない予定だったのですが、他団体へ6階を貸し出さないことで、エレベーター稼働を少しでも減らす、という対応を行いました。

 輸送力を増やすということにはもちろん少ないですが、業務での職員利用の制限を行いました。業務用で使う際は事前に申し出ていただき、調整する形式で行う2日間でした。

尾上氏:

 バリアフリーというと、どうしても物理的なものが思い浮かび、設備は次の工事まで何も出来ないな、と思いがちなのですが、そのような運用によって工夫していました。

 部屋をオムツ用トイレにして様々な人が使えるようにしています、ということが今の話からありました。 最後に河原さん、お願いいたします。  

 

▽神奈川県聴覚障害者連盟対応時

河原氏:

 先程の続きではないですが、このホールを使った際にびっくりしたことがあります。今までも他のホールを大会などで使うと、聴覚障害者は物理的なバリアはあまり感じないです。

 部屋を借りることができた場合、あとは自分たちで使います。ここを予約する時に「何か必要なことがありますか?」と問い合わせいただき、びっくりしました。今までそのようなことはなかったのです。  

話を進める中で、いくつかお願いしました。

 1つは先程お話がありました、ベルを見て分かるように、照明の点滅にすることです。

 2つ目は災害時の放送を客席にいる聞こえない人に伝えるために、会場前方にPowerPointで文字情報を出してもらうことです。

 電子電光掲示板があれば、それでお知らせする方法ができればいいのですが、ここには整備されていないため、PowerPointで対応しました。1つの合理的配慮だと思っています。

   ロビーなどで職員やスタッフに聞くときに聴覚障害者はなかなかコミュニケーションがとりづらいため「トイレ・喫煙所はどこですか?」と聞くことがなかなか難しいです。

 その場合、手話が出来ればいいですが、言語であるためすぐに覚えて身につかないのです、逆に筆談やメモでの会話・コミュニケーションをする方法をお願いしました。

 文章を書いているだけでは分かりづらいため、トイレの場所・喫煙所を絵や図で持っていただき、それを指してもらう方法もお願いしました。そのおかげでスムーズに大会を開催することが出来ました。

 

   一番大切なことは「当事者に相談・報告」ということだと思います。普通、行政の場合は「行政で勝手に進めておいて、途中で聞く。また進めて、最後に聞く、終わり。」ということが多いと思います。そのやり方に不満を持っている当事者は多いと思います。

 手話言語条例を一緒に進めていますが、県の行政が一方的に進んでおり、ほとんど相談もない現状があります。

 他のところも同じようなことがあるかもしれませんが、きちんと当事者に報告・相談して一緒に進んでいく。 それが理想だと思います。皆さんも是非、障害者が使うことになった場合、最初からいろいろ当事者と相談して進めてもらいたいと思います。

 障害者の大会ではなくても、普段のイベントの時でも聴覚障害者や他の障害を持っている方が参加する場合があると思います。すぐに対応できるように、体制を常に整えていただけると大変うれしく思います。

 尾上氏:

 河原さんからは、聴覚障害者の大会で「何か必要なことはありますか」と初めて聞かれて、嬉しかったという話でした。

駒井氏:

 自分で考える時には、指摘をしていただこうとのことで連絡を取りました。 画面に表示している緊急地震速報の例として、様々なパターンがあります。火事や避難開始など様々なパターンを作成し膨大な量となりました。

 自分で資料を見ながら作ったのですが、同じ内容を2つの文章表現で記載しています。いわゆる災害時の「やさしい日本語」を入れました。本当に「やさしい日本語」と言うと、様々な方向けになり難しいですが、河原さんの大会ではこの様にしました。

 気象庁で参考になるものがありましたので、それを元に作成しました。河原さんの事務所の方にメールで送り、添削をしていただき、指導を受けながら作成したものです。

 

   あと、手話の知識を身につけました。手話利用者が2割程度という知識も身に付けました。河原さんの大会は、手話の大会とのことで、手話でコミュニケーションをとることに特化しました。

 恐らく、みなさんいらっしゃる方が、会場にお越しの方やスタッフなどが、手話であいさつすることは全く想定されていなくて、恐らくコミュニケーションをどうとろうかと不安になるのではないかと思っていました。

 会話をすることは出来ないため、まずスタッフは挨拶と、ホール特有の表現である「まもなく始まります、どうぞお入りください」というベルにあたる手話や「ありがとうございます。」「自己紹介」など、基本的なものを覚えました。

   こちらも河原さんが形作られた推進計画の言語の中ですが、まず「私たちはあなたたちと スタッフとして、コミュニケーションが出来る体制は整っています」ということを伝えて、その後は、筆談でのコミュニケーションを行いました。私達もたどたどしい手話でしたが、皆さんが笑顔で返していただいたことが嬉しい体験でした。

  尾上氏:

 ありがとうございました。先程、河原さんがここが大事だと話していました「全ての段階で当事者に相談・報告ということ」を可能な限り行っていたという話がありました。この後は質疑応答を行います。

 

質疑応答・閉会

動画リンク:第2部 質疑応答・閉会

▽質問①

質問者;

 500人規模、車椅子50台の障害者大会を開こうとしていますが、仮設トイレを設置しようとしています。今回は何台設置していましたか?

石橋氏:

 この大ホールには2か所の車椅子対応トイレがあり、使いやすいのは6階のトイレです。しかし、30台の車椅子が一斉にトイレに行くことはあり得ないため、それはお互いに譲り合い、ここのエレベーターは1台につき3台入り、そのエレベーターが2機あります。それと小さな荷物用エレベーターが1機あり、合計3機使いました。6階トイレは改修してとても使いやすくなっています。

駒井氏:

 県民ホールには全部で8か所の車椅子対応トイレがあります。石橋さんの大会の時に、対象としたのは6か所でした。2か所は地下なので対象としませんでした。

 実際にそんなに混雑はなかったのですが、通常は6階にスタッフを置かないですが、車椅子トイレがいっぱいになった場合にスタッフが案内できるように、県民ホールスタッフを増員しました。

 利用者の方に6階のトイレが混雑していた場合、それを6階のスタッフに伝えてもらい、2階のスタッフにトランシーバーで連絡することを行いました。 うまく移動手段を使用して、配分するということを行いました。60台のうち、おむつ交換の方もいらっしゃったため、特にトラブルなく進んだ印象でした。

尾上氏:

 話の中で大事だと思ったことは、この会場にトイレは何個あるのか、様々な階に分散している為、混んでいる時にどのようにしたらスムーズに案内出来るかということです。

 1つは、業務用エレベーター稼働や、今回行ったかは分からないですが、この階と車椅子トイレのない他の階は停止せずに移動させること、これも他のお客様との兼ね合いもあるため、貸切りの際には、エレベーターの停止階を必要な階だけにするなどでも、使い勝手が違ってきます。今まで様々な大会を行ってきての経験です。

 

▽質問②

質問者:

  大変貴重なお話をありがとうございました。石橋さんのお話であったように、貸館(かしかん)的な対応というものは、県民ホールがということではなくて、様々なところで、非常におざなりになってしまうかと思われます。

 今回の取り組みは、駒井さんをはじめとして、県民ホール側のご尽力があったと思うのですが、やはりその組織として、力を入れた対応をしないといけないことが多かったと思うのです。

 駒井さんのお話の中であった、対応と導入のプロセスを組織として進めるうえで、どのような苦労があったか、その取り組みをもう少し知りたいです。また各団体の人達がそれをどう受け止めていたかを知りたいです。

尾上氏:

 それでは、駒井さんと各団体の方に聞くことができればと思います。

  駒井氏:

 この会場の中に私の上司や偉い方たちが多くいるため話しづらいですね(笑い)、県の方もいらっしゃるためなかなか難しいです(笑い)。

 組織として動くことは、なかなか最初の2年前には難しいことだと思いました。お金も大きく動きます、それはいわゆる貸館の中の一つの業務だということで、私が所属している課が、貸館の利用担当ということで「貸館利用の要望の1つ」だということで、とらえられてしまうこともあります。

 組織として、館として動かすために、ということは非常に私が戦略的に頑張ったことではあります。

  それで、例を出し「このようなことがあると、こんなことになる」と会議のたびに話します。当事者意識を、組織内で問題意識を持ってもらう人を1人でも2人でも増やしていくということが内部ではすごく大事なことでした。

 私はたまたま会議に出る場があり、恵まれていたため、小さなリリースを出すことや、現場でスタッフに対して「このような時には、このような対応をしよう」と伝えることなどを行いました。現場を盛り上げていくということも1つのやり方でした。

 

   解決に関しては、アスクルで商品を頼めば済む程度か、県の方と何度も協議することであることなど、それは大なり小なり同じなのですが、頭の中で①・②・③・④と、対応・導入のプロセスを繰り返して、どんな大きなことも小さなこともこれで、という形を徹底してやっていきました。組織で一緒に動いていこうと思いました。  

尾上氏:

 それでは1人1分になってしまうとは思いますが、利用団体の方から一言お聞きできればと思います。

 藤堂氏:

 本当に、コミュニケーションを繋げながら、建設的なことをどのようにしたら、工夫を凝らしながら、限られたリソースの中で何が出来るかを、お互いに胸襟を開いて最初から「それは出来ない」ではなくて、考えるのが大事なんです。

 私達の団体だけかなと思っていたところ、他の団体とも緊密に当事者の話を聞いて行っていたのだなと思いました。40年という歴史あるホールであるため、合理的配慮を行っていくということはとても大変だろうなと思いましたが、良かったです。

依田氏:

 知的障害者というものが、見た目で分かりやすい人と分かりにくい人がいるということで、河原さんの話であったように、私達もこのようなホールを借りた際に必要な配慮について尋ねてもらったことはとても新鮮でした。

 私たちが言う前に、「こういうことがあるんじゃないですか?」と想像していただいて、いくらかの問題点などのポイントをピックアップしていただいたことが凄く安心感になりました。

 そのため、他のホールの方でもそうなのですが、まず知的障害者やどんな方でもですが、まず特徴を知っていただく、それを知ったうえで、どのようなことが必要かを考える時に当事者の意見を聞くという、聞きながら行うということの方が効率が良く、無駄がないです。これからの様々な人に共通することだなと思います。

石橋氏:

 貸館ということですが、ホール利用にあたって、プロに貸す場合と私達のような素人に貸す場合で専門用語は全く分かりませんから、対応を2通りお持ちになってもらったほうがいいのではないかと思います。調べる時間があれば調べてみますが、その場だと大概イエスしか言えないのですから。県民ホールを使った上で良かったことは、職員の方が情報を共有しており、どなたにお電話しても「駒井さんがいないからお答えできません」ということは1回もありませんでした。それは助かりました。ありがとうございました。

河原氏:

 言いたいことは皆さんに言っていただいたので、他の事をお話しします。

 今まで、私たちは貸館をするとき、話が出来なかったのです。例えば、聞こえる人達は文化や芸術を楽しんでいますが、私達はなかなか楽しむことができないです。どのようにしたら障害を持っている私たちが楽しめるか、大会のみなさん・ホールの皆さんと一緒に工夫して、皆さんが楽しめるものにしていただければいいと思います。それが私からのお願いです、よろしくお願いします。

尾上氏:

  時間となりました。改めて、今日皆さんのお話を聞いて、この県民ホールを借りて「何か必要なことはありませんか?」と聞かれたという、それこそ駒井さんが言っていたように、組織全体として、取り組みをされていた結果だと思います。

 建設的対話と言うと、大ごとのように聞こえがちですが「何か必要なことはありませんか?」ということを問いかけることから建設的対話が始まるのだということを改めて感じさせられたシンポジウムでした。たくさんの豊かな内容でした。

 今日限られた時間の中で、すごく示唆に富んだ経験と、県民ホールとしてなかなか外から見たら見えない、どのようなことを行ってきたかをお話しいただきました。皆さんに感謝を伝えて、シンポジウムを終わりたいと思います。ありがとうございました。

永井健一氏:

 神奈川県民ホール副館長の永井と申します。尾上先生、パネリストの皆様、通訳していただいた皆様、スタッフの皆様、ありがとうございました。今回のシンポジウムは神奈川県民ホールの「これからのインクルーシブ社会と公立文化施設」として、お話いたしました。本日の内容を、今後の運営等々にぜひヒントにしていただければ幸いでございます。

 

以上