2016.09.15
横浜市のほぼ中央に位置する保土ケ谷区。現在の天王町から旧東海道に沿って帷子町・瀬戸ヶ谷町までのエリアに東海道の宿場「保土ケ谷宿」はありました。
この保土ケ谷宿は、1601年に江戸幕府の伝馬朱印状によって指定されたことが始まりとされています。 以来、複数の街道が交差する保土ケ谷区は、人やモノ、そして情報の行き交う結節点として賑わってきました。横浜港開港前から賑わっていた交通の要所は現在でも、その歴史を基盤として、さまざまな市民活動が行われています。
「ほどがや 人・まち・文化振興会」(以下「人・まち」)は、この市民活動同士が協働するネットワーク組織です。加盟団体は約30。旧東海道の歴史・まち歩き・まちづくり・地産地消の推進・⼦育て⽀援・⾼齢者⽀援など、多様なジャンルの団体が「歴史まちかど賑わい部会」「朝市街道部会」「多世代交流部会」の3部会に分かれて活動しています。
今回は「人・まち」役員で、「かたびら・スペース・しばた。」を運営する柴田裕一さん、「よこはま洋館付き住宅を考える会」の事務局長で建築家の兼弘彰さんに、保土ケ谷区の市民活動の現状、市民活動を続けるための秘訣までお聞きしました。
(聞き手=保土ケ谷宿場まつり実行委員会・田野口大樹さん)
「人・まち」は「まちを想う人を増やす。保土ケ谷を想う人を増やす」をビジョンに掲げてさまざまな活動を展開しています。保土ケ谷区内のさまざまな市民活動や企業・専門活動をリンクし、誰もが自由に参加できる「まちづくりの共同体」です。
2006年、「保土ケ谷浴場」(横浜市保土ヶ谷区天王町1)の廃業し、昔の交流拠点であった銭湯の空間を残すために企画をつくり、各団体や区役所を巻き込んでいったのが「人・まち」結成のきっかけです。
このときコアになった団体に「保土ケ谷まちづくり工房」がありました。保土ケ谷まちづくり工房は区が主体で立ち上げ、市職員や商店街関係者、コンサルタントも入り、一時は大いに盛り上がって活動をしました。
保土ケ谷まちづくり工房はその後活動が停止してしまいましたが、その時活動していたメンバーを中心に区民主導型のまちづくりを進めていこうと「人・まち」が構想されました。
区は2009年に「歴史まちなみ基本構想」を作成しました。行政やコンサルタントが絵を描いたとしても、実際には地域に担い手が共感し、動かなければ実行できません。区民の自発性を大切に、活動の負担を調整しながら、継続性があるプロジェクトにしていく必要があります。
「人・まち」は、ゆるやかなネットワーク型で、地域や時代の要請にマッチしたプロジェクトを立ち上げながら、「まちを想う人を増やす。保土ケ谷を想う人を増やす」という目的を実現するために、「横浜市市民協働条例」の枠組みを使った「保土ケ谷の文化を生かした・まち・人 旧東海道のにぎわいづくり事業」(2013年〜2015年)などを実施しながら、対等なパートナーとしてまちづくりに関わっています。
こうしたビジョンに共感した参加団体が連携して展開しているプロジェクトをいくつか紹介します。どのプロジェクトも地元住民に「保土ケ谷の魅力を知ってもらいたい」という思いで企画しています。
2003年、江戸時代〜昭和20年にかけて存在した「神戸(ごうど)市」を、現代に復活させました。 毎月第1日曜日の午前、保土ケ谷駅西口商店街にある明治19年創業・創業130年余りの北川製粉所(保土ケ谷区帷子町2)の中庭で、朝市を開催しています。
歴史を大切にしながらも、保土ケ谷の「いま」の魅力を伝えることを心がけています。 保土ケ谷は意外に思われるかもしれませんが、農家が頑張っています。 取れたて野菜や名産のジャガイモでつくる「ほどじゃが焼酎」などが人気で、特に新鮮な野菜はすぐに売り切れてしまいます。
また、2011年に一般社団法人横浜市商店街総連合会が主催した「ガチでうまい横浜の商店街コロッケNo.1決定戦!=通称・ガチコロ」で銀賞を取った見上商店(保土ケ谷区霞台)の「コロッケ」、東海道沿いの老舗5店でつくる「保土ケ谷宿名物会」加盟店の寿司やせんべい・蕎麦など、地元でしか手に入らない「おいしいもの」をワンストップで買うことができます。
また、子どもが遊べるスペースを設置したり、駄菓子を売ったりしているので家族連れでも楽しみながら、保土ケ谷の良さを気軽に知ってもらうことができるのも「ごうどいち」の魅力です。
毎週火曜日には旧街道沿いの店舗で保土ケ谷産の露地野菜を販売しています。 保土ケ谷区には約100戸の農家があります。四季折々、新鮮な野菜が取れることを新しい住民のみなさんにも知ってもらおうと始めました。
採れたて野菜を販売しているので「鮮度が良くておいしい」と評判です。農家にも協力してもらい、生産者と消費者が交流できる場として運営しています。
さらに、保土ケ谷の地場野菜を3種類以上使った「ほどがや弁当」を、2016年2月に発表、4月から団体向けに予約販売を始めました。食を通じて、人を地域につなぐ試みの一環です。
「ほどがや弁当」は、横浜市第1号となる、市と協定を結び、協働で実施する「市民協働事業」の一環として開発されました。地産地消(食から伝える保土ケ谷の魅力)をテーマに掲げ、区内の農家やお弁当屋さんなど事業に携わる地域の方々とともに、保土ケ谷産の旬の野菜を活かしたメニューについて、熱心に議論・検討を重ねて、開発されました。
保土ケ谷区には旧東海道保土ヶ谷宿をはじめとする、平安時代から現代までの歴史資産が残っています。このような歴史資産は地域にとって非常に大切なものであるとともに、歴史を生かしたまちづくりを進めていくためにも欠かせないものです。「保土ケ谷オープンヘリテイジ」は区内の歴史的で魅力のある建物を公開し、自由に巡って地域の歴史や風土、文化を身近に感じることが出来るイベントです。「よこはま洋館付き住宅を考える会」メンバーなどを中心に、お寺や洋館など、戦前から残る街中の歴史的建造物を歩いて巡ります。保土ケ谷区内には14カ所が点在しています。港北区でも同様のイベントが行われていますが、保土ケ谷区では区民主導で始めました。
http://www.hodogaya-links.com/map/hodoHrtg/
区民から寄贈された保土ケ谷の風景写真などが約100枚あり、さまざまなイベントで展示しています。昭和時代のものが多いのですが、保土ケ谷の今と昔の変化がはっきりわかります。
展示の最中に、昔の写真に写っている本人が現れたり、親族が名乗り出てきたりして、その場で「保土ケ谷の語り部」になって当時のことを話してくださることも珍しくありません。暮らしているまちの変化を直に高齢者の方たちから聞くことで、保土ケ谷の子どもたちの中に地域に対する関心が育ってほしいと願っています。
横浜市立岩崎小学校(保土ケ谷区岩崎町22)とともに、保土ケ谷を知るための「まちゼミ」を企画・実践しています。
同小学校の6年生それぞれが、自分で街歩きをして地元の方にお話を聞きます。さらに、自分たちでプレゼンテーションを作り、町内会長や区長の前で発表をします。長さ8メートルの巨大な観光ガイドマップを作ったという年もありました。
地元出身の先生も少なく、親世代も教える機会が少ないので、保土ケ谷区の歴史的遺産を伝えることができる人材がいないので、「人・まち」がサポートして次世代のまちづくりの担い手を育てようと、「まちゼミ」を始めました。
子どもたちが地元の人に歴史を聞き、資料をつくる。その過程で、次世代の保土ケ谷のまちづくりの担い手を育てようという企画です。また、保土ケ谷区は転出が多い区なのですね。転出していく子どもたちに「自分のふるさとは保土ケ谷だ」という思いをもってほしいと願っています。
この「まちゼミ」は3年間続けてきましたが、小学校側では「今後も続けたい」という意向があるようです。
ここまでに挙げた活動は、どれも「街道沿い」がキーワードです。
保土ケ谷区は多くの街道が交差する場所です。旧東海道や旧八王子道、旧相州道があり、武蔵国と相模国をつないでいました。現代だと保土ケ谷バイパスや横浜横須賀道路、横浜新道ですが、昔から保土ケ谷にはそのような道が通り、人々が往来していたのです。
「街道」は保土ケ谷区のアイデンティティです。歴史的にも商業的にも中心軸である街道を大事にして守ることで、今・現在の保土ケ谷の「街道」も魅力的なものになる、地域のシンボルになっていくと思っています。
こうした共通認識のもと、いろいろなテーマで動いている市民団体同士が多様に連携しながら、街道を元気にする。そのために「人・まち」は活動をしています。市民活動は時に、自団体のテーマだけに閉じた活動になってしまうことがあります。
もちろん、テーマを深く掘り下げることは大切ですが、一方で多くの人に参加してもらわないとまちを変える「広がり」が出てきません。
そこで、まちづくりに関わる団体同士の接点を増やし、リンクさせるという点を運営上、心がけています。 新しい人や団体が参加し「これをやりたい」という思いを伝える。その思いに既存団体や活動が共感し、新しい企画の芽が立ち上がってくると面白い具合になっていきます。そんな動きをつくるために「人・まち」があります。
市民活動を続ける秘訣は「ほどほど」だと思います。 トップを狙わない。100点でなくてもいい。「いいかげん=良い加減でいい」と思います。いい街、魅力的な街にするためにできることを、できる範囲でやるのです。
全部の団体が全部100点をとる必要はありません。また、市民活動は立ち上がりとそれ以降で波があります。そのなかで形が変わってもいいので、やめずに続いていくことが大切だと考えています。
ほどがや 人・まち・文化振興会
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