エリアリポート

【イベントレポート】haishop cafeで「感覚カフェ」が開催。感覚が満たされる新たな食事体験

毎日の生活に欠かすことのできない「食事」。みなさんそれぞれの食事の楽しみ方、向き合い方を持っていることでしょう。5月21日と22日、株式会社Innovation Designがみなとみらいで運営するhaishop cafeで開催したイベント「感覚カフェ-自分の食の楽しみ方を見つける- by KITCHEN MANE(以下感覚カフェ)」が演出したのは、その名の通り感覚を凝らして食事を楽しむ機会の提供です。

同社が運営するレストラン「KITCHEN MANE」の総料理長が新型コロナウイルス感染症に感染したことから発案されたこちらのイベントを取材しに、足を運びました。初めての満足感と新しい食事体験を得た様子をレポートします。

 

中神料理長「感覚があることの喜びを」

 

企画発案者でありKITCHEN MANE総料理長の中神則幸さんは、今年2月に新型コロナウイルス感染症に罹患、発症後5日目ほどからいくつかの感覚が機能しなくなったそうです。

「町から支給されたカレーを食べた時に、味覚と嗅覚がなくなっていることに気がつきました。何かドロっとした液体を食べているということはわかるのですが…以降何を食べても全く美味しくないので、食欲すら湧かなくなりましたね。」

プロフェッショナルの料理人が味覚や嗅覚を失うことは、まさに致命的とも言えます。中神さん自身、「今までの料理の経験が全て失われてしまうのではないか、必要ないと思われてしまうのではないか、絶望と不安に苛まれた時間でした」と当時の思いを振り返ります。

感染したことで、多くの苦悩を抱えた中神さんを支えたのは、家族や上司、病院の看護師など、周りからの応援の声でした。彼らの献身的なサポートと治療の専念を経て、現在は感覚も回復されました。

一時的に感覚を失った実体験をもとに発案した「感覚カフェ」を通して、中神さんは「感覚があることの喜びを素直に感じ取り、新たな1日を踏み出す勇気にしていただきたい」と参加者に呼びかけました。

 

五感を刺激する感覚カフェ全4コース

総料理長からのあいさつに続き、いよいよ感覚カフェがスタート。とその前に、進行の方から参加者へ3つのルールが提示されました。そのルールを以下に紹介します。

 

 ①率直に感じたことをシェアする

 ②それに対して聞いている人は否定せず素直に受け取る

 ③値段は自分で決める

 

食事を体験するときに感じた思いや発見は、その場で率直に共有し、それを他の参加者はひとつの感想として肯定する、対話を促すのが①と②のルールです。

そしてもっともユニークなルールが、③。体験の価値を主体的に考えることを目的としている本イベントでは、全ての料理が提供された後に各自で「これぐらいの価値だった」と感じた額をお店に支払うシステムとなっています。(支払額は材料費を除いた全額を、福祉活動応援キャンペーンに寄付するとのことです)

いったいどんな料理が出てくるのか検討もつかないでいると、春らしさを感じさせる色合いのプレートが運ばれてきました。

 

1品目:桜塩、マルドン、きび砂糖、アーモンド

 

黒く平らなお皿の上に乗せられた「桜塩、マルドン、きび砂糖、アーモンド」です。

この料理では、「嗅覚」が食事に与える影響力を実感します。進行者の指示に従い、鼻をつまみながらアーモンドを口にすると、いつも何気なく感じていた鼻を抜ける香ばしい香りが感じられません。また、本来は甘いきび砂糖も、嗅覚を遮断すると「ザラザラした粉状の何か」であることはわかるものの、味を特定するのはなかなかに困難でした。

一方、いかにも塩のような見た目をしているマルドンは、鼻をつまんでも塩味が感じられます。これについて中神さんは、「【塩っぽいからしょっぱいだろうな】といった別の感覚によって錯覚しているため、塩気を感じるのではないか」と話します。なるほど確かに一度バイアスを除いてもう1口食べると、先ほどより塩味が薄まったような感覚を得ました。

嗅覚に意識を向けることで、実は鼻と口は強く連関しているとわかる1品目でした。

 

2品目:紫海農園の春キャベツ、もろみ味噌と九州しょうゆ

 

2品目に運ばれてきたのは、「紫海農園の春キャベツ、もろみ味噌と九州しょうゆ」。春キャベツの食感をダイレクトに感じられる料理です。他の野菜などは一切使用せず、食材を短時間で焼いたキャベツソテーのみの一品で、キャベツ本来の弾力すら感じるシャキシャキ食感、そしてフワッと広がる優しい甘さが感じられました。

栄養素が豊富に含まれているのもキャベツの魅力で、中でも葉酸は味覚の機能アップに効果があるとのこと。中神さん自身も療養中に食べていたと話します。

 

3品目:トマトと帆立貝のポン酢ゼリーサラダ

 

続いて「視覚」で楽しむ3品目。色鮮やかで可愛らしく盛り付けられた「トマトと帆立貝のポン酢ゼリーサラダ」です。赤と緑、2種類のトマトに真っ白な帆立貝、そしてサラダの頂点に添えられた山菜「コゴミ」が可憐さを演出しています。

見た目の華やかさと対照的に味付けはシンプルで、ゼリー状に固められたポン酢のつるんとした喉越しがたまりません。また、食べ合わせの妙と言うのでしょうか。トマトと帆立貝の相性が非常に良く、パクパクと口に運んでしまいました。

ちなみに、中神さんによるとトマトのリコピンや帆立貝のB12は味覚や嗅覚の機能アップに効果があると言われており、一緒に摂取するとより効果が期待できるとのことです。

 

4品目:合馬産竹の子3種

 

最後に提供されたメインディッシュ、「合馬産竹の子3種」は、3通りの調理がなされた竹の子の食感を楽しむ料理です。火の通し方で味や食感が変わることは科学的にも証明されているそうで、焼き竹の子のシャキシャキした歯ごたえと香ばしい春の香り、揚げ竹の子は柔らかさが増し口どけも優しく、煮物は昆布の出汁が中までしみこんで違った味わいを楽しめました。

異なる調理をした同じ食材を食べ比べてみることで、食材そのものが私たちの感覚にもたらす本来の特徴、そして人の手が加わることで顔を出す新たな一面を体感できたといえます。

 

感想発表会。率直な思いに耳を傾ける

あらゆる感覚を尖らせに尖らせ、全メニューを堪能したイベントの最後に、参加者全員が今日1日で得た思いを共有する感想発表会が開かれました。

 

「味覚以外の感覚を意識して集中してみたら、初めてその食材を食べてるかのような幸福感を得られました」と語る方や、「感覚があることは当たり前ではなく幸せなこと。それを内省する機会にもなったし、皆さんと気づきをシェアしながら食事できたのが楽しかったです。」と振り返り、率直な感想、素直に肯定という当初のルールで包まれた和やかな雰囲気に浸る参加者がいらっしゃいました。

 

おわりに

筆者は普段、栄養バランスや味覚以外の感覚には無頓着で、ただお腹いっぱいになれば良し、という食生活を過ごしてきました。より美味しいものを、よりお腹の中に入れる。そんな従来の食事体験を変革しようと発起するきっかけとなったのが、今回の「感覚カフェ」です。

お腹よりも、味覚や視覚、嗅覚といった感覚が満たされる、私にとって全く新しい食事体験は、今後の料理に対する向き合い方に深みを与え、また食事を楽しむ選択肢を大きく広げてくれるものでした。

「感覚カフェ」は、6月25日(土)、26日(日)に同じくhaishop cafeで第2回の開催を予定しています。企画発案者の中神さんは、6月のイベントは夏のイメージを料理に盛り込みたいと話します。

「このイベントが、食材を楽しむ、そして食材で楽しむきっかけになれば嬉しいです。第2回はとうもろこしを使った料理も考案中ですので、興味のある方はぜひご参加ください。」

ライター紹介

2001年生。神奈川県在住。横浜市立大学国際商学部に在学。起業家人材論ゼミに所属し、起業家精神やスタートアップ・エコシステムの分野を学習している。趣味はラジオやPodcastなど音声メディアの視聴。自称「感化請負人」。ライティングの関心分野はローカル・コミュニティや環境保護活動。

facebook twitter
人/団体一覧へ戻る