2010年の国勢調査の結果を見ると、2005年から2010年までの5年間で、市民生活のあり様や社会の構造がドラスチックに変化したことが、数字によって、くっきりと浮かび上がる形になっている。
横浜市の人口は、まだ減り始めてはいない。しかし、都市として抱え始めている課題は、例えば、生産年齢人口の減少や世帯の縮小(家族機能のスリム化)、空き家・空き店舗の増加など超高齢・人口減少社会の課題そのものだ。
ここでは、まず、取組むべき超高齢・人口減少社会の課題とは、一体、何かと言う事を、今一度、確認してみよう。
人口減少社会に臨む私たちが取り組まなければならない最初の重要な課題は、成長・拡大期に形成された郊外の大規模住宅団地において急速に進みつつある人口減少にどのように対応するかということである。
近年、本市から東京23区への人口流出が目立っている。(下グラフ参照、クリックで拡大できます。)
この原因を考えると、デフレ経済の進展によって、都心エリアの家賃や住宅購入費用が下落し続けていることが大きいが、見逃せないのは、市民の居住選択の志向性が、近年、大きく変化していることである。
市民意識調査で、市民に居住地選択で重視する項目を聞くと、「交通通勤などの便利さ」や「買い物の便利さ」など利便性を重視する市民が過去の調査と比較して大幅に増えている。逆に「周辺の静かさ」や「緑や自然のオープンスペースの豊かさ」を重視する市民は、減る傾向にある。(下グラフ参照、クリックで拡大できます。)
すなわち、交通が不便な「郊外の庭付き戸建て」に住むよりは、職場がある、または職場まで時間がかからず、買い物なども便利な都心部のマンションなどに住もうという志向性を持つ市民が、如実に増えているということである。
その事を裏付けるように市域内の人口動態を見ても、東京に地理的・時間的に近い北東部エリア(鶴見川流域にある区)は、まだ増え続けているが、南西部エリアの区の多くは、人口減少傾向にある。(下図参照、クリックで拡大できます。)
中でも南西部エリアの駅からバス圏にある大規模住宅団地の人口減少は深刻である。いわゆる「まだら模様の人口減少社会」が不気味に拡大しつつあるのだ(注1)
(注1)たとえ隣接する地域であっても、駅からの距離や地形などの要因によって人口動態や構造が異なる大都市ならではの人口減少社会のあり方を示す言葉として、2006年頃から市民生活白書等で使用している表現。
戸建や中高層を問わず、このような人口減少が急速に進む大規模住宅団地では、若者が流出し、高齢世帯が取り残されているケースが多い。そのため居住環境が老朽化しても建て替えや維持修繕が出来ず、必然的に住宅団地の中に空き家や空き室が増えて行くと共に、近隣の商店街は空洞化し、スーパーは撤退する。そのうえ、山坂の多い横浜の郊外で、最寄駅までのバス路線が縮小すれば、買い物難民どころが、日々の生活そのものが成り立たなくり、さらなる人口減少が進むという負のスパイラルに陥る可能性が高い。
かつての成長・拡大期は、郊外部の人口増にあわせて、下水道や公園、生活道路、学校、地域施設など大量の社会資本を迅速に整備したように、今度は、急速な人口減少に対応すべく、住宅や商店、生活利便施設など郊外の住宅地のリノベーションを包括的に進めていくことが必要になる。この「若年人口の市内への呼び戻しと郊外住宅地の包括的なリノベーション」こそ、超・高齢化・人口減少社会に対応する第1の課題である。
超高齢・人口減少社会における第2の課題は、生産年齢人口が減少する、すなわち働き手が少なくなるにも関わらず、失業者が増大し続けるという社会的ミスマッチをどのように解消するかということである。
横浜市の生産年齢人口は、比率では2000年から、実数では05年から減少し続けている。(下グラフ参照、クリックで拡大できます。)
一方で高齢化率は、95年以降鋭角的に上昇を続け、95年の国勢調査では、11.0%だった高齢化率が2010年の国勢調査では、20%を超えるようになっている。
このように人口構造の高齢化が進む中で、都市としての活力を維持発展させ、地域経済を活性化していく事を考えるならば、女性や高齢者も含めて、働く意欲のある市民であれば、誰もが働くことのできる社会環境を創出していく必要がある。実際に、近年の社会的動向をみても、女性の労働力率が上がると共に、M字曲線の底が浅くなり、共働き世帯が増えるなど結婚しても働き続ける女性が増えている。(下グラフ参照、クリックで拡大できます。)
またかつてであれば60歳で定年を迎えて、リタイアしていた被雇用者層が、高齢化しても働き続ける傾向が強まっていることが、2010年国勢調査の結果から浮かび上がってきている。(下グラフ参照、クリックで拡大できます。)
ところが、市内の完全失業率の推移を見ると、全体の失業率が95年以降、上昇し続けている事がわかる。(右グラフ参照、クリックで拡大できます。)すなわち、「生産年齢人口が減少し続けているにも関わらず、働きたくても、働けない市民が増えている」という皮肉な結果になっているのである。
特に生産年齢人口の中核に居るべき30歳代~40歳代において、無業者の数が増え、比率も上昇し続けているのは、深刻である。(左下グラフ参照、クリックで拡大できます。)
この世代は、いわゆる就職氷河期世代にあたるわけだが、新卒市場が最優先される日本社会においては、景気の変動などの影響で、学卒期に就職ができないとその後の人生において、正規に就労することが困難になるということを物語っている(右グラフ参照、クリックで拡大できます。)。また、グローバル化の影響で産業構造や雇用形態が変化したため、この世代に失業と結びつきやすい非正規就労層が多く存在するなどが考えられる。
また、30歳代から40歳代の無業層の中には、本人や家族には自覚が無いが、なんらかの疾病や障害を抱えていたり、長期に自宅にひきこもっているなど就労困難な層が、かなりの比率で存在することが、国の調査や就労支援機関の取組の中で報告されている(注2)。従って、このように困難を抱えるがゆえに、働きたくても働くことのできない市民に対しては、職業を紹介・斡旋すればそれで事が足りるということではなく、本人に寄り添う形での総合的な生活相談や社会参加のための居場所づくり、就労セミナーや職業体験・職業訓練など多様で、きめ細かな支援を、教育、医療・福祉、雇用・就労に関連する各機関が連携し、包括的に展開することが求められている。
いずれにしろ、このような就労困難層を含む失業者の増大と生活保護費など本市の公的扶助費の増加(左グラフ参照、クリックで拡大できます。)とは、相関関係にあることが考えられ、財政上の理由からも、就労困難層に対する自立支援については、喫緊に対応していく必要があるといえよう。生産年齢人口が減少し続ける社会においては、働く意欲があるにもかかわらず、働くことのできない市民に対して、就労自立に向けた包括的な支援を行い、それによって社会経済を活性化していくことが必要になる。これが超高齢化・人口減少社会に第2の課題である。
(注2)就労に困難を抱える30代の若者の実態については、厚生労働省の「ニートの状態にある若年者の実態及び支援策に関する調査研究」(平成19年6月)によって、我が国としては、初めて明らかにされたが、こうした状況が、40歳代の無業の市民にも共通することが、本市のパーソナルサポートサービスモデル事業の報告などから理解することができる。
超高齢・人口減少社会における第3の課題は、増加し続ける単独世帯に対する新たな社会的セーフティネットをどのように形成するかということである。
2010年国勢調査の結果を見ると、単身世帯が大きく増加して50万世帯以上となり、33.8%と「夫婦と子どもの世帯」を超えて、最も多い世帯類型となった。(グラフ参照、クリックで拡大できます。)
高齢者の単独世帯が増加していることについては、高齢者の孤独死や孤立死の問題が、近年、社会問題として認識されてきているので、多くの市民が理解するところだろう。しかし、同時に私たちが着目しなければならないのは、本来であれば家族形成期にあたる30歳代、40歳代、50歳代の単身者が増加していることである。(注3)
このような近年における家族形成期における単身世帯の増加は、本市の成長・拡大期の社会的セーフティネットの見直しを抜本的に迫るものであると言える。
本市の成長・拡大期の標準的な家族のあり方は、郊外の住宅地に典型的に見られる小規模核家族(夫婦二人に子ども二人)である。小規模核家族においては、家事や子育て、介護などの家庭内サービスを専業主婦としての女性が担い、男性が終身雇用制と年功序列の賃金体系を前提とした「企業福祉」に守られながら生活費を稼ぐという性役割分担によって、家庭内のセーフティネットが形成されていた。これは、1960年代以前の日本社会における「大家族(血縁)と地域共同体(地縁)の相互扶助」によって形成されていた第1のセーフティネットが解体していく中で、形成された第2のセーフティネットともいえる。そして、それまでの地域共同体が担ってきた、住民の相談事やトラブルの解決、街づくりなどの多くの部分は、この時期に肥大化した自治体が、肩代わりしてきたとも言える。 (注4)
このように、成長・拡大期に「核家族と企業福祉と行政サービス」のトライアングルによって新たな社会的セーフティネットが形成されたからこそ、市民が極端な生活不安や困窮状態に陥ることなく、社会の安定が保たれてきたのではないか。
(注3)この背景にあるのが男女とも未婚率の中長期的な上昇だ。例えば1980年の時点で、本市において、30~34歳の女性の未婚率は10%、男性では27%だったが、2010年国勢調査を見ると、女性で34.6%、男性で48.7%となっている。また生涯未婚率でみても男性で21.9%、女性で11.1となっている。すなわち、50歳の時点で男性では、5人に1人が、女性でも10人に1人が未婚だということである。
(注4)本市における成長・拡大期の自治体行政の肥大化と地域共同体の解体の関係については、調査季報150号「横浜のコミュニティ行政と市民活動の軌跡」に詳しい。
ところが、90年代後半以降の世帯の急増によって、男女の性役割分担を前提とした標準的家族のあり方が変質すると共に、非正規雇用の拡大や失業者の構造的な増大などにより企業福祉もまた縮小しつつある。さらに人口減少による将来の税収減が確実視される中で、行政サービスもこれまでのように拡大することは困難であろう。すなわち、この10年余りの期間は、第2の社会的セーフティネットの解体期にあたり、それにあわせて不安や心配事を抱える市民が急増したのも、決して、偶然ではないだろう(注5)。
超高齢・人口減少・単身急増社会の課題として、貧困層の拡大、介護需要の増大、地域社会からの孤立などが挙げられており、拡大し続ける市民の生活不安を解消するためには、核家族と企業と行政とで形成した「第2の社会的セーフティネット」に替わる新たなセーフティネット、すなわち単独世帯が家族形態のマジョリティとなる時代に適応できる「第3の社会的セーフティネット」を形づくること。これが、人口減少社会に臨む横浜の第3の課題である。
(注5)本市の市民意識調査では、生活の「心配ごとや困っていることのない」人は平成8年には51.1%であたったが、平成24年の調査では11.9%となり、過去最低を記録している。
超高齢・人口減少社会に臨む3つの課題―「住宅団地の包括的リノベーション」や「就労に困難を抱える市民に対する包括的自立支援」、「第3のセーフティネットの形成」-に対しては、行政だけで取り組み、解決できるものではない。NPO法人や企業など民間の主体との連携が不可欠である。特に地域における住民相互のつながりや様々な自主的な活動、すなわち「コミュニティ活動」の存在を抜きにしては、解決することが困難な課題なのである。
地域社会での住民の主体的な街づくりの取組がなければ、郊外の住宅団地の老朽劣化する生活施設を更新し、持続可能なものにしていくことは、難しい。また、ひきこもりやニートの若者など働くことに困難を抱える市民の自立を促す仕組みづくりも、独り暮らしであっても安心して生きていける社会的セーフティネットの形成も、地域での住民による活動に期待するところが大きいはずである。
すなわち超高齢・人口減少社会に臨む3つの課題を解決するためには、コミュニティ活動の活性化が、不可欠なのである。
「LOCAL GOOD YOKOHAMA」は横浜のコミュニティ活動を「コミュニティ経済」という新しい概念によって活性化するために立ち上がったプラットフォームである。
▽参考
◆ヨコハマ経済新聞
◆LOCAL GOOD YOKOHAMA
◆おたがいハマ
◆新型コロナウイルスに向き合う産官学⺠の共創プラットフォーム#おたがいハマを横浜市として支援します(記者発表)