ローカルグッドニュース

神奈川県民ホールがインクルーシブな公共施設運営をテーマにシンポジウム開催

神奈川県民ホールの現場職員が進めた障害当事者との対話のプロセス

今年(2016年)4月の「障害者差別解消法」実施や2020年の東京パラリンピック開催などを受け、公立文化施設を「あらゆる人」に使ってもらうためにできることを考えようと、神奈川県民ホール(横浜市中区山下町3、折原守館長)が9月6日、同ホールに障害者団体やイベント企画会社を招き、シンポジウム「すべての人のための文化施設であるために」を開催した。

7月に相模原市で発生した「県立やまゆり園」入居者殺傷事件を受け、今回は参加者の安全を考えて招待制での開催となったが、当事者・施設・イベンターの3者が一堂に集まって「建設的対話」の重要性について共有する第一歩となった。

 

同シンポジウムは、神奈川県民ホール施設運営課で現場対応をしている駒井由理子さん、松尾洋介さんが企画した。

今回のシンポを企画した神奈川県民ホールの駒井由理子さん

今回のシンポを企画した神奈川県民ホールの駒井由理子さん

同ホールでは、2016年6月から8月にかけ「アジア太平洋ディスレクシア・フェスティバル&シンポジウム 2016」「第3回全国手をつなぐ育成会連合会全国大会神奈川大会」「第49回全国肢体不自由児者父母の会連合会全国大会 第 53 回関東甲信越肢体不自由児者父母の会連合会神奈川大会」「第 49 回 全国手話通訳問題研究集会」が立て続けに開催され、読み書き困難・知的/身体/聴覚障害など、特別なニーズを持つ当事者・介助者ら総計5000人余りが施設を使ったという。

 

駒井さんらは、この夏のイベントを実施するため各団体と2年ほど前から関わってきた。

その過程に障害者差別解消法の施行があり「公共施設としてできるだけ、さまざまなニーズを持つ利用者に快適に使ってもらいたい」という姿勢で、調整に臨んできた。

 

今回のシンポでは、そうしたプロセスで得た気づきをより多くの一般イベント主催者や他の公共施設関係者にも共有し、将来的に「すべての人のための文化施設」を目指すために企画した。

認定NPO法人DPIインターナショナル尾上浩二さんが「障害者差別解消法〜合理的配慮と建設的対話」について基調講演した。

認定NPO法人DPIインターナショナル尾上浩二さん

第1部では、認定NPO法人「DPI(障害者インターナショナル)日本会議」副議長の尾上浩二さんが「障害者差別解消法〜合理的配慮と建設的対話」と題し、基調講演した。自身も脳性まひによる下肢障害などがある尾上さんは、障害の種別を越えた当事者の声を伝え、政策を提案している立場から同法設立の背景や意義についてわかりやすく説明した。

第2部では、県民ホールを使った当事者の立場から4団体の代表と駒井さんを交えたパネルディスカッションが行われた。団体は、それぞれの障害の視点から「なにが障壁とな ったか」を指摘 、それに対する県民ホールの対応や合意を見出す対話プロセスのあり方について報告した。

まず最初に「アジア太平洋ディスレクシア・フェスティバル&シンポジウム 2016」を主催したNPO法人エッジ会長の藤堂栄子さんは、ディスレクシアという特性から、情報サインのわかりにくさ等について指摘。また、外国人参加者が食べられるハラル食について「レストランメニューにあったが、説明がなかった」など、きめ細かい情報提供について提案した。

NPO法人EDGE代表 藤堂栄子さん

NPO法人EDGE代表 藤堂栄子さん

続いて「第3回全国手をつなぐ育成会連合会全国大会神奈川大会」のホスト役として取り仕切った神奈川県手をつなぐ育成会会長の依田雍子さんは、成人となった異性の子どもを介護する苦労について言及し、ユニバーサルトイレの表示の充実などについて理解を求めた。

3番目に登壇した神奈川県肢体不自由児者父母の会連合会会長の石橋吉章さんは「説明で専門用語を使われると不安。また、イベントを実施する際に当日の運営補助スタッフをお願いできると、より安心する」と、よりいっそうわかりやすい対応や踏み込んだサービスを要望していた。

4番目にプレゼンテーションした神奈川県聴覚障害者連盟理事長の河原雅浩さんは手話通訳を交えての発表となった。きこえない人たちへの避難誘導やコミュニケーションについて、やりとり重ねた例を挙げながら「筆談などできることから取り入れてくれた」などと県民ホールの対応について評価していた。

神奈川県手をつなぐ育成会会長・依田雍子さん

神奈川県手をつなぐ育成会会長・依田雍子さん

開催2年前から各団体とやりとりをしてきた県民ホールの駒井さんは、築40年にもなるホールを快適に使ってもらうために、ホールスタッフの協力を得たり、お金のかかる改修を組織に理解してもらうために、大小さまざまな提案をしてきた。

 

そのプロセスは①問題点抽出②解決策の検討③案の絞込み ④導入 (⑤導入できず→代替案作成)の4段階。最初の問題発見はもちろん、すべてのフェイズで当事者団体に相談し、フィードバックを受けることを繰り返したという。

「小さな改善でもリリースを出して広く知ってもらったり、当日対応する現場スタッフに当事者の声を伝えて盛り上げたりする努力はしました。公共施設として、どうしたら特別なニーズを持つ方々に、芸術を楽しんだり、学びを深めたりする機会を提供できるようになるかを考えながら進めてきました」と駒井さんは話す。

県肢体不自由児者父母の会連合会会長の石橋さんは「準備期間中の私たちの問い合わせに対し、県民ホールスタッフのどなたが電話に出られても『駒井さんがいなくてわかりません』ということが1回もありませんでした。大きなイベント開催に臨み、不慣れなわたしたちにとって、それはとてもありがたいことでした」と評価した。

神奈川県聴覚障害者連盟 理事長 河原雅浩さん

神奈川県聴覚障害者連盟 理事長 河原雅浩さん

今回のシンポの参加者は約90人。やや少ないがこれには理由がある。

今年(2016年)2月から、今回のシンポジウムを準備してきた駒井さんら県民ホールスタッフが、今回招待制という形をとったためだ。それは、この7月に発生した県立やまゆり園の事件直後、予定されていた障害者団体のイベントについて、県民ホールに「開会時間や終了時間を執拗に尋ねる電話があった」ことが理由だった。

明確な脅迫や業務妨害的な言葉はなかったものの、乱暴な口調や目的をあきらかにしない「見えない相手」とのやりとりから「参加者をわずかでもリスクにさらしてはならない」(県民ホール・松尾さん)と、今回は招待制での開催を決めた。

パネルディスカッション進行を務めたDPI日本会議の尾上さんは「障害者差別解消法では、合理的配慮とともに重要なアクションとして、当事者との『建設的対話』が挙げられる。県民ホールという施設側から当事者に対して『何か必要なことはないですか?』という問いかけを始めたことが、当事者である私たちにとって新鮮な経験だった。障害の有無に関わらず、すべての人が生活を楽しむために、わたし当たち当事者も施設やイベント主催者とともに、対話を重ね、取り組みを広げていきたい」と話している。

神奈川県肢体不自由児者父母の会連合会 会長 石橋吉章さん

神奈川県肢体不自由児者父母の会連合会 会長 石橋吉章さん

今回のイベントについての問い合わせは神奈川県民ホールまで。 email: seminar@kanagawa-af.org ※LOCAL GOOD YOKOHAMAではシンポジウムの詳報を後日掲載予定です。

ライター紹介

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