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「大ガッコソン!~常識を覆せ、わたしの考えるみらいの大学~」開催レポート

みなとみらいInnovation & Future Center(横浜市西区みなとみらい2)にて、2月18日、19日、「大ガッコソン!~常識を覆せ、わたしの考えるみらいの大学~」(以下、大ガッコソン)が開催されました。イベントには、大学生・大学院生など学生約30名と富士通の社員など社会人約25名が参加。1日目にゲストスピーカーによる話や個人・グループでのワーク、2日目は学生と社会人がチームを組んだ成果物の作成と発表が行われ、“2030年”の未来の大学や、学びのあり方が検討されました。当日のイベントレポートをお送りします。

イベントを主催したのは、富士通(東京都港区)が2012年4月から始めた、社会の変化から”あした”につながるビジネスや暮らしのヒントを見つけるインターネットメディア「あしたのコミュニティーラボ」。多様なプレイヤーが交わるプラットフォームの創出を目指して、豊かな社会を実現・探求するための情報発信をインターネットサイトを通し行っているほか、さまざまな事柄をテーマにアイデアソンやハッカソンを開催しています。

今回のイベントを主催したあしたのコミュニティーラボの武田英裕さん

今回のイベントを主催したあしたのコミュニティーラボの武田英裕さん

今回の大ガッコソンは、学生と社会人が一緒にこれからの未来を考えるオープンイノベーションプロジェクト「あしたラボUNIVERSITY」の活動の一環として、横浜会場と神戸会場の2カ所で同時に行われました。各会場で最優秀賞、優秀賞を獲得した合計4チームは、3月7日に富士通ソリューションスクエア(東京都大田区)で行われた最終プレゼンテーションに望みました。

 

●「大ガッコソン」の目的テーマは「常識を覆せ、わたしの考えるみらいの大学」  

大ガッコソン1日目の冒頭では、富士通あしたのコミュニティーラボの武田英裕さんや、ファシリテーターを務める川口紗弥香さんがイベントの趣旨を参加者に共有しました。

今回のイベントでファシリテーターを務めた川口さん。

今回のイベントでファシリテーターを務めた川口さん。

今回のイベントは、「常識を覆せ、わたしの考えるみらいの大学」というテーマのもと、自分と大学の関係を考えなおしたり、学びの新たな形を作ることがその目的です。川口さんは、「未来の世の中はどうなっていて、自分の生活や学びはどう変化しているか、また未来の大学はどんな関係性のもとでどんなことが起こっているのか。自分のアイデアや、課題を解決することで誰が喜ぶかを大事に考えてほしい」と話しました。

2日間の最終的なゴールは、技術的な実現性に捉われず、“2030年”の未来の大学のコンセプトと、それを体現するプロトタイプ、そしてそのために必要なデータをチームで検討し、発表することです。その評価基準となる「未来の読み・書き・そろばん」として、①未来を洞察する力=未来の社会や大学の置かれている変化を独自の着眼点で課題設定する力、②未来を表現する力=具体的に未来の大学の姿を具体的に描いて人に伝える力、③未来を数字やデータで捉える力=①、②の根拠となる数字とデータを明らかにする力、以上の3つが示されました。

●これからの社会や学びのあり方に関する3人のゲストスピーカーのお話  

1日目午前中の「キーノート」の時間には、これからの社会や学びのあり方について、3人のゲストスピーカーが登壇しました。キーノートとは、「視野を広げるために、インプットの話を色々な人から聞く」というものであり、当日は「グラフィックレコーディング」と呼ばれる、イラストや図を用いて話の内容を視覚的にわかりやすい形で書き記す手法により、話の内容が記録されていきました。

グラフィックレコーディングによって記録されたキーノートのお話

グラフィックレコーディングによって記録されたキーノートのお話

①大阪大学・柏崎礼生さんのお話―“破壊的”イノベーションと物事の見方

キーノートのトップバッターは大阪大学の柏崎礼生さん。柏崎さんは、今後の教育において重要なのは、これまでのような先生中心の教育ではなく、「生徒中心の教育」であると話しました。「アメリカのハワード・ガードナーによって示された多重知能理論に即すると、人間には色んな分野にまたがり8つの知能が存在する、そうしたことから考えれば、人によって”書いて学ぶ”、”聞いて学ぶ”、”歌って学ぶ”など色々な学び方があっておかしくない。今後は様々な人たちの個性や能力を伸ばしていくための、それぞれの人に合った学習方法が求められる」と言います。

そうした教育において重要となってくるのがコンピューターです。柏崎さんは、近年の教育をめぐる研究成果や将来推計についても紹介しました。例えば『イノベーションのジレンマ』などの著作が有名な、アメリカのクレイトン・クリステンセンによる『教育破壊的イノベーション』では、2018年にはコンピューターベースの生徒中心の学習がアメリカの中等学校が提供する全履修課程の50パーセントを占めるようになるだろうと予想されています。また、オーストラリアのopencolleges.eduでインフォグラフィックを用いて示されている現在の世界の教育の現状として、今日91%の先生がコンピュータを使っていること、5人に3人の生徒が電子版の教科書を使っていること、43%の先生が授業にゲーム的な要素を入れており、ゲームを使った方が平均点が91.5%上がったという調査があること、そして29パーセントの先生が授業でSNSを利用していること(大学に限ればその割合はさらに高くなる)が話に上がりました。

これからの大学教育のあり方について、軽快かつ力強い口調で話す柏崎さん

これからの大学教育のあり方について、軽快かつ力強い口調で話す柏崎さん

柏崎さんはお話の最後に、特に重要なこととして、2つの点を示しました。1つ目は「自分が面白いと思うこと」を行うこと、それが先に触れた「破壊的イノベーション」なのではないかということです。破壊的イノベーションのわかりやすい例が、スティーブ・ジョブズの作ったiPhoneです。iPhoneはパソコンを持ちインターネットに接続するという既存概念を結果的に壊したが、ジョブズは純粋に「自分が面白いと思うもの、美しいと思うもの」を作ろうとしただけなのではないか、そしてそうしたことこそが破壊的イノベーションなのではないかと柏崎さんは指摘します。

また、2つ目に、自身が所属する大阪大学のモットー「地域に生き、世界に延び」という言葉が、順番を変えれば「地域に世界に生き延びろ」という言葉に変わること、かつてのAppleの「モノの見方を変えよう」というキャッチフレーズから、物事の見方をちょっと変えれば、それぞれの人にとっての世界の見え方やあり方も変わっていくのだということが重要な視点だと話していました。

②リディラバ・安部敏樹さんのお話―社会課題の捉え方とアプローチの方法

社会は変化しているのにこれまでと同じ考え方や手法を用いていてはダメだという問題意識から、「バカバカしいことが好きな人」という意味を持つリディラバを立ち上げた安部敏樹さん。リディラバは社会課題の現場に行くプラットフォームを提供する事業を行っており、具体的には過疎地域、妊娠・出産など200前後のテーマについて、社会課題の現場に行くためのスタディツアーを実施しています。

自身の事業や社会課題の捉え方について話す安部さん

自身の事業や社会課題の捉え方について話す安部さん

安部さんは社会課題に対する捉え方について話をしました。「社会課題は当事者じゃない人がどう関わるかが大事。当事者だけじゃ解決できない」と話し、社会問題が解決されない原因として3つの壁が存在することを指摘します。1つ目が、みんな自分に関係のない問題には興味を持たないという「興味関心の壁」。2つ目が、必要な情報が可視化されていないという「情報の壁」。そして3つ目が、社会課題への関与の方法がわからないという「現場の壁」です。これらの壁を取り払い、社会課題にもっと多くの人がアクセス出来るようにしたいと考えたことが、社会課題の現場に行くスタディーツアーの事業を立ち上げ、またのちに「ジャーナリズムも必要だ」ということになり、メディアを作ったというストーリーを話していました。

これからの教育や学びに必要な要素について、安部さんは「今後重要なのは問題を解く力よりも、問題設定を行う力である、また大学のあり方については、まずはどういう社会があり、社会としてどういう人材を作りたいか、そしてそれらに合わせてどういう大学があるべきかを構想するべきだ」と述べ、話を締めくくりました。

③富士通研究所原田博一さんのお話―「間を職場にする仕事」とは?その具体的な活動と想い

最後に登壇したのは富士通研究所の原田博一さん。原田さんは自身の仕事を「コンテキスト・アクティベーション」だと称しました。この言葉は原田さんの造語で「地域や企業や組織にある過去の文脈を集め、その活かし方を考えることを意味すると話しました。 当初は開発職だった原田さんは、「もっとお客様の近くでものづくりをしたい」との想いから、様々なつながる活動をしています。

「間を職場にする」ご自身の具体的な活動についてご紹介してくださった原田さん

「間を職場にする」ご自身の具体的な活動についてご紹介してくださった原田さん

京都の小学校で行っているのは、小学校の総合学習の時間に地域を取材し、その内容を子どもたちが地域の未来をこう考えているという「子どもたちからの手紙」として、卒業式で町長さんに送る活動。

また、地域の世代を超えたコミュニケーションを高めるという目的で、イギリスのNPOが開発したヒストリーピンという手法に基づき、地域の古い写真をお年寄りからたくさん集めてきてWEBサイトに登録し昔の話をしてもらう写真収集活動。ただの聞き取りに終わらないよう街歩きの活動も組み合わせています。

企業と地方をつないで地方を活性化するための活動として行っているのは、アクティブ・ワーキング。企業の社員には地方のコワーキングスペースで通常業務を行いつつ、受け入れを行っている各市町村が企画するオプションナルツアーに参加。企業の社員はそれぞれの興味や都合に応じてそうしたツアーに参加します。社員のメンタルケア、企業の新規事業開発などに寄与していると話します。

原田さんはこうしたプロジェクトを束ねるために、多様な組織を連携させ、そこから社会的課題を解決するようなイノベーションを生み出すことを目指す「.orgアライアンス」の活動にも従事しています。この活動では様々な企業や組織がそれぞれの事情や都合を考慮したうえで、お互いのリソースを利用できるようなエコシステムを実現することを企図しています。

原田さんは最後に、こうしたご自身の仕事を「必ずしも先頭でイニシアティブをとるようなものではなく、色んな企業や地域の関係性を作り、色んな人の話を聞きながら間に立つもの」だと結論づけた上で、「これからは社会の仕組みが変化するのを待ってはだめ。こらからは社会を変化させようとしている人に関わって変化を加速させることが大事」といったことや、自身にとっての「学び」については、「関わる力を増やすことで生きる選択肢を増やすこと」だと話しました。

●チーム毎の成果物の発表と審査

 キーノートのお話のあとには、午後から個人やグループでのワークが行われ、2日目は全12チームに分かれて成果物が作成され、午後はそれらの成果物に対する審査が行われました。

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1日目の午後に行われたワークの様子

 2日目の成果物の発表の時間には、全12チームがプレゼンテーション3分+審査員からの質問3分という持ち時間で、順番に成果物について発表。その発表においては、演劇風に発表をするチームがあったほか、あえてパワーポイントを使わず模造紙に絵を描いて発表を行うチームや、「音」のみの発表により聴いている人たちの想像力を喚起することを企図するチームなど、発表の方法にも各チーム様々な趣向をこらしていました。

発表の後はいよいよ審査の時間です。審査においては、会場からの投票による会場賞と、審査員からの評価による優秀賞、最優秀賞がそれぞれ選出されました。

会場賞と優秀賞に選ばれた「ハッシュタグロッキー」

会場賞と優秀賞に選ばれた「ハッシュタグロッキー」

まず会場賞と優秀賞に選ばれたのは、「教育とは洗脳である」というインパクトのあるテーマで発表を行ったハッシュタグロッキーです。「学生の皆さん今ほんとうにやりたいことが見つかっていますか?」、「社会人の皆さん今ほんとうにやりたいことを仕事にしていますか?」という語りかけで発表を始め、日本では約70%の学生がやりたいことが見つかっておらず、社会人の約95%が働くことを楽しんでいないという現状を示した上で、学生の「やりたいこと」を3つ提案する装置を利用して、すべての学生がやりたいことを見つけられるようになる教育のあり方を提案しました。チームの皆さんが楽しい雰囲気で発表を行っているのも好印象でした。

また、栄えある最優秀賞にはバーチャル空間での体験型学習をテーマにした「チーム眼鏡っ子」が選ばれました。チーム眼鏡っ子の発表は、聴いている人が目を閉じ、「音」を用いた発表により、聴いている人の想像を喚起するような形で行われました。そうした体験型学習の例として、「平行四辺形ルーム」と呼ばれる教室での、戦国時代やナイアガラの滝、そして火星などのバーチャル空間での体験型授業が示されました。DSC_0799チームの皆さんが非常に巧みに、また感情豊かにバーチャル空間での授業を受けている様子を演じていたことも高評価を受けたポイントとなったのではないでしょうか。審査員をつとめたリディラバの安部さんは、チーム眼鏡っ子に対し、「技術的ノウハウが裏付けとしてあればさらに面白くなる。本戦でぜひ優勝を取ってきてほしい」とコメントしました。

 ハッシュタグロッキーと、チーム眼鏡っ子の2チームは、神戸会場で最優秀賞、優秀賞を獲得した2チームとともに、3月7日に富士通ソリューションスクエア(東京都大田区)で行われた最終プレゼンテーションに進みました。

 ●2日間のイベントを終えて

最後は、参加者と運営メンバーで記念写真

最後は、参加者と運営メンバーで記念写真

未来に向けた熱い議論がなされた2日間のイベントを終え、1日目のキーノートに登壇し、2日目の審査も担当したリディラバの安部さんからは「今回のイベントで知識をつけることの重要性や、知識があるからこそ「自由」な発想ができることがわかったと思います。また、本質的な価値は何かをつきつめて考える力もぜひつけていってほしい」と話しました。また同じく大阪大学の柏崎さんは「今回のガッコソンの経験を、皆さんが今後の活動にどう還元していくかが重要だと思います」と述べました。

そして、あしたのコミュニティーラボの武田さんは、「初日にも言ったように、今回のイベントの目的は、未来の社会に向けた社会課題解決のための学生と社会人の新しい関係性を作ることです。そのためには問いを生み出し、領域をまたいでいくことが重要で、もし同じ会社や組織にいないとしても、想いを持った人たちが何らかの形でつながり続けて欲しい。そんな想いで我々はやっています」と話し、2日間のイベントを締めくくりました。

 

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