ローカルグッドニュース

インタビュー:「横浜型リビングラボ」~コミュニティ&ビジネスをキーワードとする地域課題解決の枠組みづくり~

ローカルグッドのニュースでも度々紹介している「リビングラボ」の活動は、住民や企業、自治体、大学などさまざまな人びとが協働し、暮らしを豊かにするためのサービスやモノを生み出したり、より良いものにしていく共創的な活動です。横浜市内でも、数年前から複数の「リビングラボ」が立ち上がり、介護や教育などさまざまなテーマをもった活動が行なわれています。活発になってきた横浜市内の「リビングラボ」の活動について、どのような特徴があるのか、自治体としてどのように関わっているのか、横浜市政策局共創推進室共創推進課の関口昌幸さんに伺いました。

ローカルグッド編集部(以下、編集部):まずは、関口さんの現在のお仕事について教えて下さい。

関口昌幸さん(以下、関口):私が所属する政策局共創推進室共創推進課は、民間企業や大学などいろいろな方々と一緒に、具体的な公民連携のプロジェクトを推進している部署です。民間企業からの公民連携の相談・提案窓口である「共創フロント」を開設し、市役所各部署との橋渡し役を担っています。

共創推進課に異動する前は、同じ政策局の政策支援センターに所属していました。政策支援センターは、横浜市が施策や事業を実施する際の礎となる市民生活のニーズや課題を、意識調査の実施や社会統計データの収集により、把握・分析するために設けられた組織です。その調査分析結果は、市役所内の各部署と共有すると共に、外部に対してもインターネットを通じて公開しています。また、調査季報や市民生活白書の編集・発行を通じて、市職員や市民、専門家などと討論や交流を行い、社会経済の変化に応じた新しい政策コンセプトを課題提起していく役割も担っています。

 

地域に根ざして課題解決していく新しい仕組み「リビングラボ」に注目

関口:私が政策支援センターにいた2012年~2017年頃、行政のデータを活用した課題解決の取組である「オープンデータ」や「オープンガバナンス」の流れのなかで横浜市は「OPEN YOKOHAMA(オープン横浜)」をうたい、多様な公民の主体が対話のなかでデータを活用し課題解決に至るまでの枠組みや仕組みづくりを模索していました。その流れのなかで、地域に根ざす形で課題解決していく新しい仕組みとして、「リビングラボ」に注目し検討を始めました。

編集部:地域課題解決の新しい仕組み作りが必要になってきた理由はどこにあるのでしょうか。

関口:一つには、時代と共に家族の形が変り、地域活動の担い手が不足してきていることが挙げられます。東京のベットタウンとして人口が急増した1960~90年代の横浜市は、全国的にみても市民の地域活動がとても盛んな都市でした。人口ピラミッドの中核となる団塊世代が20代後半~50代前半だったころのことです。当時、「ニューファミリー」と呼ばれた横浜郊外の一般的な核家族世帯では、一家の大黒柱である男性が東京に働きに出ていて地域に関心があまり払われなかった一方で、専業主婦の女性たちが、子育てなどを通して地域の活動に広く関わり、地域課題解決の担い手となっていました。仕事に忙しかった男性も55~60歳で定年を迎えると時間的な余裕が生まれ、それから地域活動に参加するというパターンが多く見られました。要するに、市民活動の担い手は、30~40代の女性と60代以上の男性が多くを占めていたというのが、この時代の特徴でした。

それが、2000年代に入ると家族の形が変り始めます。未婚化・晩婚化が急速に進み、共働き世帯も増える中で、30~40代の女性にもフルタイムで働く人が増え、55~60歳だった定年が65歳へ引き上げられことで、それまで市民活動やボランティアの担い手だった人の数が減少してきたのです。新たな担い手がみつからないため、町内会・自治会などの地域団体では、30~40代のころから活動に関わってきた女性たちが、70代、80代になっても引き続き活動の中核を担い続けているという例が少なくありません。

横浜市でも、これから人口減少と高齢化がドラスティックに進んでいきます。未来に向けて地域社会が持続可能であるためには、今後は20~40代のビジネスパーソンにも地域課題解決のための活動に参加してもらう必要があります。それには、仕事を通して地域活動へ参加してもらえる仕組みが必要です。そこで注目したのが民間企業を含めた多様な主体が課題解決に取り組む枠組みとしての「リビングラボ」でした。

そこで、共創推進室では、リビングラボの横浜なりの展開を考えるために、横浜で活躍する地元の中小企業を主体にしたフューチャーセッションを開催するなど、ビジネスの手法を使った課題解決ができないかを考えてもらう場を設けるようにしました。そうした対話の場から、生まれてきたのが横浜型のリビングラボなのです。

 

地域貢献企業のほか多様な主体による協働プラットフォーム「横浜型リビングラボ」

編集部:横浜型のリビングラボは、どのような特徴があるのでしょうか。

関口:横浜市は、「地域生業(なりわい)企業」と呼んでいる地元の中小企業をはじめ、NPO、町内会自治会、大学など多様な主体が協働し、ビジネスによって課題解決するためのプラットフォームを「横浜型リビングラボ」と定義しています。

地域生業企業は、地域に根ざして地域の経済を循環させる役割を担っています。課題解決につながる事業が横浜で生まれ、地域経済が活性化し雇用が増えれば、20世紀後半に主流だった「仕事は東京、暮らしは横浜」という生活から、職住が接近して時間的な余裕をもった生活を実現する好循環が生まれます。地域の課題解決をしながら良い仕事ができ、生業で収入を経て生活が充実する仕組みが「横浜型リビングラボ」の目指すところなのです。

編集部:横浜市には、「横浜型地域貢献企業支援事業」と呼ばれる制度があります。この制度は10年以上の歴史があり、2020年1月1日現在、認定されている企業数は475社になっています。これらの企業は、地域を意識した経営を行うとともに、地域貢献の視点をもって社会的事業に取り組んでいて、地域と共に成長発展することを目指されていると思います。地域生業企業の発展は、こういった横浜型地域貢献企業支援事業で認定されている企業の活躍があればこそと思うのですが、いかがでしょうか。

関口:まさに、その通りです。横浜型地域貢献企業として認定されている地元企業の活躍は、横浜型リビングラボにとって重要な存在です。横浜で活動しているリビングラボには、横浜型地域貢献企業が多く関わって頂いています。例えば、戸塚リビングラボの株式会社横浜セイビ、井土ヶ谷リビングラボ、杉田リビングラボの株式会社太陽住建、都筑リビングラボの株式会社スリーハイなどの名前が挙げられます。

横浜型地域貢献企業は、経営にCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の考え方を取り入れている企業ですが、リビングラボは、CSRのもつ本業を通じた社会課題解決という側面に注目してさまざまな取組を試行できるプラットフォームであるともいえます。例えば、「空き家対策をどうすればビジネスにできるか」であったり、「障害者が生き生きと働くことのできる環境を創り、それを企業の収益向上に結びつけるためにはどうすれば良いか」など、企業からすれば自社のビジネスモデルをリビングラボの活動を通じて、磨き上げることができます。これは横浜の地域経済活性化という観点からみても、意味があることではないかと思っています。

編集部:地域がかかえる課題を、住民のリアルな声を汲み取りながら、地域生業企業のビジネスで解決していく方法を模索する場が「横浜型リビングラボ」だということですね。横浜市では、リビングラボの活動を市内の全部の区で展開していくなど数値目標はるのでしょうか。

関口:数値目標はあません。リビングラボという仕組みは、地区センターのような市民利用施設ではないので、開設数や利用人数などを目標設定すべきものではないと考えています。そもそもリビングラボを展開するにあたって、実行する民間団体に行政から補助金などの公金は一切、支出されていません。
また、リビングラボは、参加している主体の人々が課題だと思っていることを解決することが目的なので、解決するソリューションのアウトプットができたら、解散してもいいものだと思っています。リビングラボは、プロジェクトベースで、関心をもつ主体が集って課題解決に関わることができる実験場なのです。横浜市としては、ソリューションが出来上るまでを可視化することで、ほかの地域でもやってみたいという人たちへ横展開したり、場合によっては政策や事業へ取り入れていくことが、役割だと思っています。
これまでの行政では、課題解決を担ってくれる人や企業への人的・金銭的な支援をしながら協働で課題を解決していくという手法が採られていました。しかし、自治体のリソースが限られているなかで、少子高齢化や環境問題など今後増えてくると思われる課題解決に取り組む主体を増やしていくには、民間の中間支援組織が、さまざまな民間企業を繋ぎながらリビングラボの活動を支援する仕組みが重要になってくると考えています。

横浜では2019年に一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィスが立ち上がり、民間によるリビングラボの活動を支援する仕組み作りも本格的に始まりました。共創推進課では、YOKOHAMAリビングラボサポートオフィスやLOCAL GOOD YOKOHAMAと連携しながら、今後も横浜型リビングラボの活動の広がりをサポートしていきたいと思っています。

▽編集部より

tvk 特別番組【“未来都市”横浜のコラボレーション #2】(神奈川ビジネスUp To Date × 横浜市共創推進室)『横浜型リビングラボの可能性』のYouTube動画が公開されています。

ライター紹介

LOCAL GOOD YOKOHAMAは、まちでコトをつくりたい、人とつながりたい、課題を解決したいと考えている市民のみなさんのICTプラットフォームコミュニティ。みんなが情報やコミュニケーションでつながり、人が集まることで何かがはじまる場をつくり、コミュニティや活動がこれからも続くキッカケをデザインします。まちの課題や問いに対して「自分ごと」として新たな一歩を踏み出し、まちの未来をより良くするアクションを 「LOCAL GOOD」と名づけました。 さまざまな地域課題に向き合う「ローカルグッドプレイヤー」とともに、共に考え、語り、取材をすることは、新たな視点や経験を得る貴重な体験です。取組を知り、現場でつながることは、おたがいの働く、学ぶ、暮らすを変えてゆくためのアイデアやアクションを生むためのイノベーションのヒントになります。地域のプレイヤーが悩み、チャレンジする現場に足を運び、声に耳を傾け、みなさんの得意や関心に併せた役割を見つけてください。自らを知る、変えるチャンスを提供します。誰もが参加して応援できるローカルグッドサポーターが、はじまっています。 https://yokohama.localgood.jp/about/ LOCAL GOOD YOKOHAMA 編集部へのお問い合わせやご意見、取材希望や情報提供はこちらにお願いいたします。 localgood@yokohamalab.jp 

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