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【インタビュー】自立援助ホームを知っていますか?(2)義務教育終了と同時に福祉の制度の狭間で困惑する青少年のいま

 社会的擁護という言葉のリアリティー 
ー 義務教育終了と同時に福祉の制度の狭間で困惑する青少年のいま ー

 

2019年10月8.9日みなとみらいで全国自立援助ホームの全国大会(神奈川・横浜大会)が開催される。社会的養護という概念が広がりつつあるなか、自立援助ホームの存在や活動は知られていないのが現状だ。

神奈川県内の自立援助ホームの実情を取材した。

社会福祉法人川崎愛児園自立援助ホーム 大志は、2009年に開設、男女6名定員のホームだ。虐待の増加とともに高齢児の利用が増え、多様なニーズが高まる中で多機関との連携を図りながら多様性を認めていくホームを目指している。

大宮:どんな方が、利用しているのでしょうか?

須藤(大志ホーム長):自立援助ホームを利用している若者には様々な背景があり、児童養護施設を退所・非行行動で弁護士を通して来る者・虐待を受けて児童相談所に保護されて来る青少年、等々です。3年程前までは学生は稀で、正社員やアルバイトをして、貯金が貯まったらホームを出て自立していくケースが通常でした。

大宮:最近の利用者のライフスタイルに変化があるのですか?

須藤:そうです。近年では法改正や新制度の導入もあり通学する利用者も増えてきています。定時制や通信制高校をはじめ、全日制高校・大学や専門学校へ通う方もいます。生活スタイルは様々ですが、利用者全員がホーム利用料3万円を支払います。児童養護施設であれば子ども自身が利用料を払うことはないのですが…。利用料には食費、光熱費、生活用品が含まれています。とはいえ学校に通いながら利用料、携帯代、交際費などと自立に向けての費用を稼ぐのは簡単なことではありません。

大宮:そうですね。一人暮らしのスタートには最低30万は必要でしょうか?家賃にもよりますが、家電・家具を揃えるなどの多少の余裕を考えるともう少し必要な気がしますがいかがですか?

須藤:就職支度費や大学進学等自立生活支度費などの公的支援もありますが、10万円貯まってすぐに出て行ってしまう子もいれば、本当に切り詰めて200万円以上貯めてから出る子もいて本当に様々です。出ていく前に「身の丈」を意識させることが重要だと感じます。

 

大宮:ホームでは、具体的にどのようにに生活しているのでしょうか?

須藤:利用者には、基本的に個室が用意され、貴重品の管理も自分でしますが、印鑑や貯金用の通帳は職員が管理するホームが多いです。それは確実に自立のための貯蓄を確保するためです。たくさん稼ぐと、使うのが楽しみになってしまう人もいますので難しいです。
また、個々には様々な生活スタイルですが、ホームでバーベキューをしたり、一緒にスポーツをしたり、和気あいあいと生活しています。利用者にとってホームは学校や仕事、バイトの疲れを癒す家なのです。利用者にとって居心地の良い空間、帰ってきたいと思う場所であり続けたいと思っています。

大宮:具体的な生活の様子を知ることができました。ありがとうございました。

 

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引き続き、株式会社ネクストワールドが運営する自立援助ホームNEXT(横浜市泉区) 関茂樹代表に、自立援助ホームの役割や課題についてお話をうかがった。

大宮:ここまで自立援助ホームの利用者の青少年の背景や生活についてお聞きしたので、課題についてお話しをお願いします。

:まずは、社会的養護の対象となっている児童の数と、また自立援助ホームの対象となる青少年がどのぐらいいるかについて示したいと思います。
「虐待や親との死別など、様々な理由から家庭で生活ができない子どもは、国内で約46000人存在します。この数字は、児童相談所の行政機関が関わっている児童の合計です。児童相談所の支援が行き届いていない青少年の存在を考慮すると、おそらく前述した人数の倍以上はいるのではないかと考えられています。

 

 

 

 

 

 

 

大宮:なるほど、児童相談所の支援が行き届かない児童もかなり存在するのですね。

 

関:そうです。自立援助ホームは、児童養護施設の退所後児童の受け皿として法整備された経緯がありますが、近年は児童養護施設を経由せず、家庭から直接自立援助ホームへ入居する児童が増加しています。そのような傾向にある背景には、虐待や家庭不調和などの問題が孕んでいます。厳しく不安定な環境下で生活を送ることを余儀なくされた児童の存在は、今後も減少に転じる気配は見られません。

 

関:次の虐待に関するデータを見てください。
『自立援助ホームの厳しい養育環境』平成25年2月調査
①厚生労働省の児童養自立援助ホーム入居者376名のうち、家庭からの入居者は177名(47.1%)で、児童福祉施設等からの入居者は135名(35.9%)、単身生活からの入居者は24名(6.4%)となっている。
②入居者の27.4%が両親ともいないまたは不明で、65.7%が被虐待体験が
あるという厳しい養育環境で生活してきている。

(平成 27 年 4 月 17 日厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知)

 

大宮:虐待と聞くと、小さな子どもというイメージが湧くのですが…。比較的年齢が高い自立援助ホームの入居者が虐待と関係が深いのは知りませんでした。

関:もう少し自立援助ホームについて触れたいと思います。自立援助ホームに入居する青少年は、近い将来自立するために、就労をして自立するための貯蓄を増やしていくことが基本です。就労は、単にお金を稼ぐためだけの目的ではなく、就労を通じて社会の仕組みやマナーを知る、人との関わりの大切さを知る、そして社会の一員であるというと帰属意識を得ることができます。自立援助ホームの入居児童は、自分に自信が持てない、自己肯定感が低いといった児童も少なくないため、就労体験を重ねることで、自信の獲得や自己肯定感を高めることにもつながります。ゆえに自立援助ホームは、入居児童と就労を基本とした生活設計を共に考え、未就労児には就労につなげる。就労後には就労を継続させるために就労支援がより重要となります。

大宮:そうですね。継続しなければ経済的な自立とはなりませんから。

:先程の虐待の話とも重なりますが、自立援助ホームへの入居児者は、虐待・ネグレクトの影響で中途退学や高校に通えていないことも珍しくありません。基礎的な学力が身についていなかったり、中卒者も少なくないため、そのようなハンディキャップを持っている児童の就労支援は、なかなか一筋縄ではいきません。しかし忘れてはならないのは、彼らもなりたくてそのような状況になった訳ではないことです。本来無条件に自分の味方であるべく親からの愛情を享受できなかったこと、不本意な境遇を受け入れざるを得なかったこと、それが後の生活にも長らく影響を及ぼすことは、彼らとの関わりの中から身をもって教えられました。

大宮:厳しいですね…。

:厳しい環境下で生き抜いてきた彼らを支えるのは、日頃彼らの身近にいる私たち自立援助ホームの人間だけではありません。児童相談所はもとより、職場の人だったり、学校関係者だったり、地域の人だったり。社会を担う一人一人が彼らの存在に目を向け、支え、育む。社会全体で子どもを育む。だからこそ「社会的養育」と言われているのですね。

大宮:本当にそうですね。社会的養育という言葉の責任は重いですね。
さて、話は変わりまして、自立援助ホームの卒業?退所には、何かルールがあるのですか?

:入居できる期間は特に決まっていません。制度の中での対応年齢は基本的に20歳まで、大学・専門学校等への就学者は22歳まで利用することが可能です。入居児童の中には、発達の課題があったり、知的な障害や持病を抱えていたりする児童もいるので、前述したように就労するのも一苦労ですし、なんとか就労を継続し、貯金が貯まり、やがてホームを出て一人暮らしすることができても、困難な壁にあたるケースのほうが多かったりします。支援の枠組みから離れた途端、自身で金銭管理ができずに散財してしまったり、誘惑に負けて仕事に行かなくなったり、生活の乱れに起因する人間関係トラブルなど、さまざまです。

大宮:そうなんですね。

:しかも、残酷なことに、彼らには戻れる家や援助してくれる家族がいない。だからこそ自立援助ホ-ムは、彼らの心の拠り処となり、ホーム退居後もそれぞれの青少年と関わり続けることが求められます。すなわち、自立援助ホームは入居中の青少年のみならず、退居後のサポートが同様に重要な役割となっているのです。

大宮:その人の人生にかかわる、大変重要なお仕事ですね。
退所した後のサポートに対する経済的な裏づけはあるのですか?

:その点が大きな問題です。退居後支援は自立援助ホームの大きな役割として期待されているのですが、現在は退居後支援に関する予算付や人件費のなどの経済的な後ろ盾がありません。今後はそのような部分も制度としてしっかり整備されるべきだと思いますが、これまで自立援助ホーム創成期の先人方は、退居後支援も情熱を持って手弁当で行ってきているので、我々もそのような心構えを継承しながら、手厚く質の高い退居後支援を実践できるよう、行政(制度)にも働きかけをしていく必要があると思っています。

:さいごに私の考える自立援助ホームの存在意義ですが… 人は誰しも一人では生きていけない。だからこそ困難な状況に陥ったり何かの壁に突き当たった時に、自立援助ホームで過ごした青少年にとって心の拠り処となる「存在」であり続けること。それを肝に銘じながら、ホームを退居した若者たちともこれからも関わっていきたいと思います。

大宮:関さんの熱い思いをお聴きできて感謝です。

多くの方に、自立援助ホームを知っていただきたいですね。


神奈川県で自立援助ホームを運営するホーム長。
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取材で浮かび上がったのは、複雑に絡まる福祉の関係の橋渡し役になっている自立援助ホームの存在だ。現在は行政で社会的擁護の対応広がりつつあるが、未だ制度整備の準備段階であり、社会に出る出発口に居る本当に必要である青少年へのアウトリーチには及ばないのが現状のようだ。

その中で退所後の問題は、職場での人間関係悪化や経済的悪化など自己解決できない事態になってから連絡してくる場合が多いという。経済困窮者支援・障害者福祉・医療・司法警察関係などなどへの手続きの橋渡しを行っているのが、自立援助ホームなのである。
また、退所後のアフターケアは、児童福祉法の第2種である自立援助ホームの役割だとするなら、かなりの過重負荷であるように思える。その点も、今後の全国大会に注目したい。
<社会的養護>
社会的養護とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことです。社会的養護は、「子どもの最善の利益のために」と「社会全体で子どもを育む」を理念として行われています。
注)これまで対象児童は18歳だが、自立援助ホームでは20歳までを対象とし、また就学する者には22歳まで、退所後のアフターケアの社会的ニーズなどを踏まえて支援が期待されている。

 

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▽「自立援助ホーム」を知っていますか?(1) 自立援助ホーム全国大会が横浜で開催
https://yokohama.localgood.jp/news/32394/

▽自立援助ホームを知っていますか?(2) 義務教育終了と同時に福祉の制度の狭間で困惑する青少年のいま
https://yokohama.localgood.jp/news/32658/

▽自立援助ホームを知っていますか?(3)若者を支える社会への変革をめざして
https://yokohama.localgood.jp/news/32784/

ライター紹介

LOCAL GOOD YOKOHAMAは、まちでコトをつくりたい、人とつながりたい、課題を解決したいと考えている市民のみなさんのICTプラットフォームコミュニティ。みんなが情報やコミュニケーションでつながり、人が集まることで何かがはじまる場をつくり、コミュニティや活動がこれからも続くキッカケをデザインします。まちの課題や問いに対して「自分ごと」として新たな一歩を踏み出し、まちの未来をより良くするアクションを 「LOCAL GOOD」と名づけました。 さまざまな地域課題に向き合う「ローカルグッドプレイヤー」とともに、共に考え、語り、取材をすることは、新たな視点や経験を得る貴重な体験です。取組を知り、現場でつながることは、おたがいの働く、学ぶ、暮らすを変えてゆくためのアイデアやアクションを生むためのイノベーションのヒントになります。地域のプレイヤーが悩み、チャレンジする現場に足を運び、声に耳を傾け、みなさんの得意や関心に併せた役割を見つけてください。自らを知る、変えるチャンスを提供します。誰もが参加して応援できるローカルグッドサポーターが、はじまっています。 https://yokohama.localgood.jp/about/ LOCAL GOOD YOKOHAMA 編集部へのお問い合わせやご意見、取材希望や情報提供はこちらにお願いいたします。 localgood@yokohamalab.jp 

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