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高校生への就労支援「バイターン」を学ぶ勉強会を横浜中区で開催【前編】

県立田奈高校(横浜市青葉区桂台2)で取り組みが進む有給の職業体験「バイターン」を中心に、「高校普通科 課題集中校における中間的就労支援」について考える勉強会が7月31日、さくらWORKS<関内>(中区相生町3-61)で開催されました。バイターンに取り組む田奈高校関係者や企業関係者、興味をもつ支援者など約60人が参加し、学校・地域・企業がつながって、若者たちを育てる中間的就労の仕組みについて学びを深めました。

主催は「困難を抱える若者のキャリア形成・雇用創出支援研究会」で、今回の勉強会は研究会メンバーでもある「株式会社シェアするココロ」(横浜市中区相生町3、石井正宏代表)が企画しました。

「バイターン」とは「バイト」と「インターン」をかけあわせた造語です。職業的経験として賃金が支払われる「アルバイト」と、企業内の教育として実施されることが多い「インターンシップ」、それぞれの良さを組み合わせた「教育的有給職業体験プログラム」のことを指しています。就労意欲があるものの、働いた経験がほとんどないため、就労に対する不安を持つ若者たちに対して2013年1月から田奈高校と株式会社シェアするココロが中心となって実施してきました。

勉強会には、ゲストとして、田奈高校教諭の金沢伸之さん、高校生の受け入れ先である企業と学校をつなぐ役割を担う石井さん、実際にバイターンの高校生を受け入れている企業代表として「株式会社クレヴァー」代表の畠山翼さん、企業の社会的責任について啓発活動を推進する「NPO法人横浜スタンダード推進協議会」理事長の江森克治さんが登壇し、事例報告を行いました。事例報告に先立ち、横浜市立大学教授で、企業の経営戦略を研究している影山摩子弥さんは「これまで有望でないだろうと思われていた人材が、実は企業の経営を改善するカギを握っている。バイターンを慈善事業としてとらえるのではなく、企業の経営戦略として位置づけ、導入を期待したい」と企業が取り組む意義を強調しました。さらに、同大教授で「若者居場所研究会」も主宰する高橋寛人さんは「困難を抱えている若者達の問題は、高校教育全体の問題。今後の社会を考えていく上でキーの1つとなる」と、一部の若者のための取り組みではない点について言及しました。

田奈高校教諭として、日々生徒たちと接している金沢信之さんは「課題集中校の就労支援の現状と進路未決定問題」と題し、バイターンに取り組む背景・経緯を紹介しました。

田奈高校教諭 金沢信之さん

田奈高校教諭 金沢信之さん

金沢さんによると、学校がバイターンに取り組んだ契機のひとつは、2008年9月のリーマン・ショックです。景気が急激に落ち込み、雇用情勢の悪化は、特に若手労働者に深刻な打撃を与えました。特に、高校の新卒人材の求人需要・就職率は雇用調整のため一気に落ち込み、各家庭の生活の困窮が顕著になったと感じたそうです。家庭の経済状況が悪化し、家族のつながりが複雑化するなど、子どもたちを取り巻く環境が不安定になっていくなかで、従来と変わらない就労支援では効果が出ないと、学校内で対策を考える体制に限界を感じました。

続いて登壇した石井正宏さんは、若者の支援を目的に2009年に横浜で株式会社シェアするココロを設立、2011年からは横浜パーソナル・サポート・サービス『生活・しごと・わかもの相談室』の出張相談員として、週に1回、田奈高校に出向いて、生徒たちのさまざな声に耳を傾けてきました。「田奈Pass」という愛称の「青春相談室」で、将来に不安をかかえた生徒たちと交流を深めながら石井さんは「教育と雇用が接続されていなければ、どれだけ相談していても先に続かない」と痛感したそうです。

その1つの答えとして始めた事業が「バイターン」でした。

石井さんによる知ってしまった責任の果たし方!
1.高校生の受け入れ企業になる
2.受け入れ企業を紹介する
3.バイターンfacebookページにいいね!する
4.行政機関、教育関係機関へのアピールをする
5.NPO法人パノラマを応援する!

「中間的就労という言葉は、当事者である高校生にとってはわかりづらい、この言葉を使っているうちは、彼らに取り組みを知ってもらえない、浸透しないのでないかと思い『バイターン』という言葉を考え出しました」と、ユニークな名前について思いを語りました。そのうえで「若者たちの就職・仕事をめぐる現実を知った以上、よりよい状況をつくっていく責任が大人には生じます。きょう、この研究会に参加したみなさんも知ってしまいました」と前置きし、バイターンの仕組み・現状について説明しました。

バイターンのしくみはシンプルです。

バイターンは企業の希望の採用モデルに即した企業と高校生が出会える仕組み。社内アルバイトやインターンから人材を登用したい>資格やスキル取得者を見つけたい>知人>就職斡旋会社>求人広告>履歴書

バイターンは企業の希望の採用モデルに即した企業と高校生が出会える仕組み。企業の好む採用方法:社内アルバイトやインターンから人材を登用したい>資格やスキル取得者を見つけたい>知人か同僚に紹介してもらう>就職斡旋会社に頼る>求人広告を出す>履歴書を見る

1)企業への趣旨説明2)生徒との事前研修3)企業と生徒でミッションの共有が行われ、その後、インターンシップとして無償職場体験が3日間行われます。その後、アルバイトの雇用契約を結び、バイターンがスタートします。2013年にこのプログラムがスタートしてから2014年7月現在までに、43社が高校生受け入れ企業として登録し、26人の生徒が職場体験をしました。さらに、19人がバイターンまで進み、正社員として6人が雇用されるなど着々と実績を積み上げています。正社員登用の際に、企業担当者が最も重視している点は、彼らの「仕事ぶり」。「社風にマッチした人を採用したい」という希望を持つ企業にとっては、仕事への姿勢を確認した後に、正社員として雇用できる仕組みであるため「バイターンは企業にとってもメリットがある」と石井さんは、企業・高校・生徒の3者にとってハッピーなプロジェクトであることを強調しました。

当日は、石井さんからサプライズ発表もありました。

勉強会にて石井さんはNPO法人パノラマの設立を発表。バイターン事業の全国各地への横展開を進め、バイターン制度化を目指す。

勉強会にて石井さんはNPO法人パノラマの設立を発表。バイターン事業の全国各地への横展開を進め、バイターン制度化を目指す。

バイターンプロジェクトを軸にした若年労働者の雇用環境改善を事業とする「NPO法人パノラマ」の設立です。

バイターンは今まで「シェアするココロ」の一事業でしたが、NPO法人として全国への横展開を進めていくこととなります。
田奈高校とその周辺地域だけではなく、同じフレームを全国に展開し、最終的にはバイターンを制度化することを目指しています。

 

 

 

ライター紹介

LOCAL GOOD YOKOHAMAは、まちでコトをつくりたい、人とつながりたい、課題を解決したいと考えている市民のみなさんのICTプラットフォームコミュニティ。みんなが情報やコミュニケーションでつながり、人が集まることで何かがはじまる場をつくり、コミュニティや活動がこれからも続くキッカケをデザインします。まちの課題や問いに対して「自分ごと」として新たな一歩を踏み出し、まちの未来をより良くするアクションを 「LOCAL GOOD」と名づけました。 さまざまな地域課題に向き合う「ローカルグッドプレイヤー」とともに、共に考え、語り、取材をすることは、新たな視点や経験を得る貴重な体験です。取組を知り、現場でつながることは、おたがいの働く、学ぶ、暮らすを変えてゆくためのアイデアやアクションを生むためのイノベーションのヒントになります。地域のプレイヤーが悩み、チャレンジする現場に足を運び、声に耳を傾け、みなさんの得意や関心に併せた役割を見つけてください。自らを知る、変えるチャンスを提供します。誰もが参加して応援できるローカルグッドサポーターが、はじまっています。 https://yokohama.localgood.jp/about/ LOCAL GOOD YOKOHAMA 編集部へのお問い合わせやご意見、取材希望や情報提供はこちらにお願いいたします。 localgood@yokohamalab.jp 

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