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【開催レポート】”ドヤ街”「寿地区」から福祉の街の未来を描く~寿リビングラボ実践講座が開催~

1026日、横浜市寿生活館(横浜市中区寿町3)の3階で「寿リビングラボ実践講座セッション1 ~多様な生活者の対話の広場《リビングラボ》を寿の街に創る~」が開催されました。主催は、寿リビングラボ準備会「ほんやらどう」。

横浜市中区の扇町3丁目と4丁目、寿町2丁目から4丁目、松蔭町2丁目から4丁目、長者町1丁目、三吉町の一部は「寿地区簡易宿泊所街」として、大阪の釜ヶ崎、東京の山谷に並ぶかつての「日本三大寄せ場」の一つとしても知られています。1956年に最初の簡易宿泊所が開業した頃から日雇い労働者でにぎわい、それから1970年代にかけて100件以上の簡易宿泊施設が立ち並びました。現在でも121軒の簡易宿泊施設が密集する地域です。いわゆる「ドヤ街」ですが、高度経済成長期に伴う労働の機械化などの働き方の変化、オイルショックを始めとする景気悪化などの要因のもと、時代の流れとともにかつての労働者たちが住む街、さらには社会という枠組みの中で「生きづらさ」を感じる人びとが住む街となっていきました。

現在では高齢化率57.5%(2017年現在)と超高齢化が進む同地区。今回、住民や行政、企業、大学、市民団体など多方面から参加者が集まり、一つのテーマに沿って話しアイデアを創出し、アイデアについて具体的に取り組むことを目的とした「寿リビングラボ実践講座」が開催されました。

寿地区に来年4月以降「横浜市寿町健康福祉交流センター」がオープンします。このセンターのオープンを契機として、寿の街の内と外が活発に交流し、横浜を誰もが生き生きと自分らしく暮らすことのできる街にしていくために「多様な生活者の対話の広場として『リビングラボ』の取組みをこの街から始める」という趣旨での開催となりました。

今回の登壇者でもある寿地区自治会長の村田由夫さんの著書「良くしようとするのはやめたほうがよい」(寿青年連絡会議清算事業団・豆の木学校を育てる会,1992)の中にある「一番始めに寿のことを聞かせてくれた人は、あそこに行くと入って出てこれなくなっちゃう人もいると。(略)殺されて消えてなくっちゃうというような、そういうニュアンスでですね(笑)、聞かされたことがあってですね、」と書かれた一文からもわかるように、かつて寿は多くの人から”近寄りがたい”イメージを抱かれることがありました。

最近ではそのように言われることは少なくなりましたが、高齢化の一途をたどる街は、高齢者が住みやすい街としてどのような工夫が必要か模索しています。新施設が開設されることに伴い、その施設の役割として何が期待されているのか、寿生活館で青少年の居場所や学童保育を運営する石井淳一さんと、横浜市役所でリビングラボを推進している政策局の関口昌幸さんがファシリテーションを務め、街のこれまでと現状を交えた寿の街のこれからについて話し合われました。

 

40年にわたり寿地区を見てきた寿地区自治会長の村田由夫さんは「寿を何とかしなければ」という思いから自分を解放してみてから、「寿の街が好きだ」という思いに変わったと話しました。「寿は、ある意味で自由なところ。現代は、情報や時間、人の目など、日々生活をおくる中で知らない間に拘束されている感覚を抱く『管理社会』ですが、そのようなストレスを感じやすい社会から離れたところにいるのが、寿の街に集まってくる人びと」だと説明します。一人ひとりが孤立しているようで、その孤立が集合体となって一つの緩やかな、自由なコミュニティを形成していると話しました。寿特有の「個室」や「24時間出入り自由」という概念を維持したまま、街が発展していくことを期待していると話されました。

 

オープンな場で誰もがそれぞれの立場を超え、主体性をもって発言し合い、一つのものを生み出していくリビングラボ。今回は寿での第一回目となりましたが、井土ヶ谷リビングラボを運営する株式会社太陽住建(南区井土ケ谷下町6)会長の河原英信さんが「街の人も外の人もこだわりなく出入りし、対話に興じる空間」をつくってきた立場からお話されました。河原さん自身の会社設立までの話、さらには設立してからの様々な困難を、寿地区に住む人びとと重ねて話し、「人のために何かをする」際に発揮される力は、特別に大きいということに気づき、現在の様々な事業の展開につながっていると話しました。

 

また、横浜市立大学国際総合科学部の高橋寛人教授は「居場所づくり」について数々の提言をしてきた立場から「現状を把握し、学ぶ姿勢が大切」と説明。現状を把握する際は、自分の肌で感じることはもちろん、数値的な裏付けも大切ですが、「すべて数値に落とし込まないこともある程度重要」と強調しました。「それによって見えなくなることもある」と話します。ただ、それぞれの持つ数値データがオープンになってきている現代。市民はそれを知る権利を行使し、自分たちの立ち位置を把握することもできると同時に、各セクターがそれらを用いて課題解決へ活用することもできます。

 

高齢化率は2013年に50%を超え[1]、横浜市平均、全国平均を上回る高齢化率を記録している寿の街は、高齢者の居場所づくりや健康への様々な取り組みが行われてきましたが、まだまだ課題が山積されていると言えます。中にはアルコール依存症やギャンブル依存症、精神的な問題など、社会で生きていくことが様々な理由により困難な状況の人もおり、いわゆる一般社会では「排除」されたり「批判」されたりする対象となる人びとを”受け入れてきた”街という捉え方もあります。

少し歩けば高級住宅街や観光名所が立ち並ぶ地域に行きつき、寿だけが隔離されているのではなくそれらの地域はすべて地続きでつながっています。寿の街と、近隣地域との境界線が無いように、寿の街と社会との境界線も無く、私たち一人ひとりの社会への向き合い方や捉え方が、寿の街の捉え方にもつながることを感じる講演会でした。寿の街が「よくなった」のではなく、社会全体が「誰かがはじき出される社会構造」を認識してきたという言い方ができるかもしれません。

その上で、新建される健康福祉交流センターでは「寿の街に住まう人びとの”個々の自由さ”を確保しつつ、孤独を感じないための居場所や空間づくりをすすめる」ことが、一つの目標として見えてきました。

最後に寿地区内の簡易宿泊所の住人から「子どもや高齢者の居場所はあるが、壮年層の居場所がない」という意見もでました。超高齢化が進む日本、そして横浜において、「寿は未来の横浜の縮図」という発言もありました。高齢者や「生きづらさ」を抱える人びとが安心して過ごすことができる居場所のある地域社会をどのように作るのか、ここ寿の街から考えます。

 

寿生活館3階廊下

 

[1] 65歳以上人口比率の推移(寿地区高齢者調査、寿地区人口調査結果)

 

【参考】

「横浜市寿生活館」

寿生活館は、寿町勤労者福祉協会をはじめとする寿生活館運営委員会が横浜市から受託して管理運営している地域の施設。「地域住民及び勤労者の福祉の向上を図り、住民・勤労者の交流の場として気軽に、そして清潔かつ、秩序をもって利用すること」を掲げ、1階は保育園、2階は寿地区町内会館、3階は女性と子供の利用施設、4階は路上生活者や簡易宿泊所宿泊者のための会議室や娯楽室のほか、無料で使えるランドリーやシャワー室が用意されている。

ライター紹介

「LOCAL GOOD YOKOHAMA」は、 サービス、 モノ、 カネ、 ヒト、 情報の循環をつくっていくことを目指し、インターネット上の場と、インターネットを超えた地域の現場両面から、地域をよくする活動「地域のGOOD=ステキないいコト」に市民、企業が参加するきっかけをつくっていきます。活動に加わり、メンバーとして地域に関わっていくローカルグッドサポーター、プロボノを募集しています。

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