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看取りだけではない、在宅医療の拠点を目指す「ホームケアクリニック横浜港南」

あなたは「在宅医療」と聞いて、まず何を思い浮かべますか。自力で病院に行くのが難しい家族が「在宅医療を利用している」という人がいるかもしれません。また、自分も将来病気になったときには「入院するよりも家で診療してほしい」という人もいるかもしれません。在宅医療はそのようなニーズに答える医療だとされています。

高齢化により在宅医療の需要は高まると考えられます。将来自分や自分の家族がお世話になるかもしれない在宅医療の現場で、どんな問題があるのか、何か私達にもできることはないのだろうかと思いました。それを知るために、横浜市港南区にある在宅医療専門のクリニック「医療法人コムニカ ホームケアクリニック横浜港南」(神奈川県横浜市港南区港南台3)の1日を取材し足立大樹院長に話を聞きました。

【これまで】

ホームケアクリニック横浜港南は、横浜市南部を中心に在宅医療を行っているクリニックです。在宅医療と言うと自宅訪問のイメージが強いのですが、このクリニックでは特別養護老人ホームやグループホームといった「高齢者施設」も訪問しています。

同クリニックの前身である「公田クリニック」は2004年に院長の足立大樹さんが横浜市栄区に設立しました。もともと足立さんは病院の勤務医でしたが、開業のきっかけは福祉関係の仕事をしていた奥さんが訪問診療の医師を探していたことだそうです。(在宅医療でこのクリニックが行っていることは訪問診療(定期的な診療)、往診(求めに応じた臨時の診療)と定義されているので、以下では「在宅医療」でなくこれらの言い方を使用します。)

その後スタッフや医師を増やし、2012年に場所も移転し現在のクリニックになりました。開業当初は、医療だけでなく経営も1人で行うということで苦労したそうです。

訪問診療を始めた際に驚いたことは「器具がローテクだったこと」と足立さんは振り返ります。病院にはデジタル化された高度な設備・機器がありますが、訪問診療は、持ち運びができる点が優先されます。このため高度な機器を持ち運ぶことができず、限られた診療器具で治療・診察をしなければなりません。

 

訪問医療は「医療」ではありますが「それだけではなく患者さんとその家族の生活を支援するという側面が大きい。医師だけでは役に立たない」ということを、足立さんは日々の医療の中で感じています。

【地域の課題】

市内でも高齢者の割合が高くなっています。また、今若い人達も、いずれ老いて活発に動くことが難しくなるかもしれません。横浜市は現在、2018 年度から 2023年度までの6年間を計画期間とする次期 「よこはま保健医療プラン 2018(仮称)」の策定に向け、国が示す「医療計画作成指針」等を踏まえ つつ、検討を進めています。この計画では、在宅医療需要が約 1.8 倍になることが見込まれています。

http://www.city.yokohama.lg.jp/shikai/pdf/siryo/j5-20170315-ir-21.pdf

このため、こうした在宅医療のクリニックはこれからますます必要になります。

しかし、「医療だけでは生活を完全に支えることはできない」と足立さんは指摘します。医療を受けながら地域に暮らし続けるためには、特にモビリティ(人の移動手段などの意味)、高齢の方が使いやすい住宅建築の設計、法制度が必要です」と、日々の訪問診療を通じて必要な3つの要素を挙げました。

例えば、モビリティ。今の住宅地の道路は、車1台が通行するだけでの余裕しかない狭い道路も多く、補助が必要な人や車椅子に乗っている人が通れる状況ではとてもありません。これではいくら訪問診療を受けても、自由な外出ができず行動が制限されてしまいます。

また、高齢者が安全に暮らしていくためには住宅建築にも工夫が必要です。例えば窓が押して開くタイプのものであった場合、外に身を乗り出す必要があり、筋力が衰えている高齢者の場合、バランスを崩して転落のする危険性があります。

さらに、高齢者施設では、補助者がいれば歩ける高齢者も、職員数が足りないため、外出が制限され「その結果、歩くことができなくなることもあります」と足立さん。

障害がある人が生活しやすい社会の基盤整備が日本ではまだまだ進んでいないことも、在宅医療体制の拡充に加えて大きな課題となっています。

【これから】

これからのホームケアクリニック横浜港南の目標は、プライマリー・ケア領域全般をワンストップでできる診療所を作ることだそうです。

プライマリー・ケアについて、米国国立科学アカデミー(National Academy of Sciences, NAS)は「患者の抱える問題の大部分に対処でき、かつ継続的なパートナーシップを築き、家族及び地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される、総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービスである」と定義しています。

将来的には外来、訪問介護、また現在も行われている訪問診療・ケアマネージャー・ソーシャルワーカーとの業務などを連携させ、「ここに来ればプライマリー・ケアの領域は何でもできるという場所にしたい」と、構想を練っています。

そのために、今はさらに医師の募集や、地域の課題や患者さんのニーズを探る学生インターンシップ受け入れをしているそうです。医療だけではなく「地域の方への支援の輪を広げていくという思いが患者さんのより良い生活を作っていくのだ」という足立さんの信念が伝わってきました。

【取材後記】

在宅医療は自力で病院に行くことができない患者さんの大きな助けになりますが、一方、こんな考えがあります。それは「果たしてその患者さんが、病院に自力で行けない状態であるということを肯定してしまって良いのか」ということです。

今回取材したホームケアクリニック横浜港南の足立大樹院長は、その問いに加えて「そもそも在宅医療が成立している世の中は良いと思わない」という考えを持っています。

足立院長は「もし、あなたが老いていった時、ずっと家で病院にも行けない、自力で外に行けないとして、在宅医療を受けたいと思いますか。」という質問をしました。「自分が当事者になったらどう思うか?」。その視点に、はっとしました。

現在日本では、在宅医療を進める流れができています。たしかにこれからますます高齢化していく横浜、そして日本でそうした政策は必要ですが、自力で外に行くことができない人達への医療の選択は「在宅」だけでよいのでしょうか。そんな問いが心に残っています。

取材にあたって、診療を1日見学しました。

午前9時、患者さんの情報をスタッフ全員で共有する「カンファレンス」があり、その後訪問診療に出発します。午前と午後に行いますが、それぞれ個人宅なら4~6人、施設なら1施設(約15~20人)※を回ります。

まず訪問診療を見学していて印象的だったのは、足立院長が家族構成や性格など、患者さんの病気だけではなく、その方の深いところまで把握して診療にあたっていたことです。訪問診療は病院と比べ、病気を診るというよりも一人ひとりを深く理解し、人として関わるということが大事なのだと思います。

午後の音楽療法の現場でも衝撃を受けました。「音楽に症状を緩和させたり、精神を安定させたりする効果があるのだろうか」と疑問にもあったのですが、実際に患者さんや御家族が、みるみる元気になっていくので驚きました。

この日の音楽療法は、音楽療法士の櫻井唯乃さんによるプログラムでした。患者さんやその御家族が知っているような曲をオートハープなどの楽器を使って演奏し、歌うのですが、最初は表情が硬かった患者さんも音楽を聴いているうちにとてもリラックスした様子になり笑顔が増えたように見えました。

また患者さん以上にご家族が、音楽や櫻井さんとの会話を積極的にとても楽しんでいるようでした。医療で身体を診るということだけでなく、患者さんやご家族と一緒に楽しむサービスを提供している点が素敵だと思いました。

今回の取材はこれからの自分の家族や自分の生活をもっと想像し、障害を持った時どんなことをしてほしいか、どんな設備が必要かということを考え、それに向けて今自分が出来ること(例えば投票など)を真剣に考えるきっかけになったと思います。訪問させていただいて本当に良かったです。ホームケアクリニック横浜港南の皆様に心より感謝申し上げます。

【記事執筆・渡邊葵乃】

横浜市立大学1年生。神奈川県出身。好きなことは本、Web漫画を読むこと、ダンス、ボクシング観戦など。大学では理学を学んでいる。現在医療、材料分野の研究、ドイツ語に関心があり、将来は研究職に就きたいと考えている。研究や自分の将来のために、今社会ではどんな問題があるのかということを大学生のうちにたくさん知りたいと思っている。

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