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シンポジウム「すべての人のための 文化施設であるために」第1部

 9月6日、神奈川県民ホール大ホール(横浜市中区山下町 3-1)で劇場運営マネージメント講座「これからのインクルーシブ社会と公立文化施設」第2回として、
 シンポジウム「すべての人のための 文化施設であるために」が開催されました。

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平成28年4月に障害者差別解消法が施行され、公立文化施設はバリアフリー対応が必要となりました。神奈川県民ホールでは、この課題に対して出来ることを考え実践していくために「これからのインクルーシブ社会と公立文化施設」という講座シリーズを実施しています。

第2回である今回は、神奈川県民ホールで全国大会を行った4つの障害関連団体代表者を招いたシンポジウムが開催されました。保安上の理由などから、参加は一部の方のみに限られていましたが、当日の記録を動画と文章にて公開します。

 

挨拶(神奈川県民ホール館長 折原守氏)

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神奈川県民ホール館長 折原守氏

動画リンク:第1部  障害者差別解消法についての講義 尾上浩二氏 DPI(障害者インターナショナル)日本会議副議長

折原 守氏:

 皆様こんにちは、神奈川県民ホール館長の折原守です。本日は大変お忙しい中参加していただき、ありがとうございます。開会に先立ちまして、ご案内と主催者として挨拶させていただきます。

 本日は、尾上講師による講演を約40分予定しています。休憩後、パネルディスカッションを約2時間開催します。その後質疑応答を20分予定しております。本日の終了予定は16時55分です。

 会場についてご説明します。ご覧の通り、最前列5列は椅子を取り払っております。今は広く平らな空間となっております。車椅子の方が余裕をもって過ごしていただけるような作りとなっております。舞台上手には要約筆記の為のスペースを設けました。今私が申していることをリアルタイムで入力してもらい、それを要約して舞台上のスクリーンに投影しております。聴覚に障害があり、手話が苦手な方の為のものです。それから手話通訳です、これは要約筆記とは違い、手話でコミュニケーションをとっている方への為です。

ステージ前方手話通訳・要約筆記スペース

客席最前列手話通訳・要約筆記スペース

 以上当館としては、本日できる限り最大限の事を行い、今回の担当である松尾・駒井の2人から「館長、担当として本当に頑張ったことだと、胸を張って説明してください」と言われたのですが、いかがでしょうか。

 本日の参加者出席者について、保安上の理由などから関係の施設・関係団体・行政・マスコミなどの方に限らせていただきました。主催者としても残念ですが、一般の方の周知は行いませんでした。この結果、私としても本日の出席者は少ないだろうと予測していました。しかし、会場は大ホールです、本当に午前中まで参加者は大ホール一列分だろうと思っていたのですが、それはそれでお招きする方に申し訳ないと思っていたのですが、こうして見ますと一列3,4人程いらっしゃいまして、少しほっとしております。ありがたく思っております。

 それでは、これより主催者といたしまして一言ご挨拶を申し上げたいと思っております。明日からは、いよいよリオでパラリンピックが始まります、4年後には2020東京オリンピック・パラリンピックが行われます。当館では今年度の施設運営事項にバリアフリーの推進を掲げました。実にチャレンジングなテーマです。

 このホールは今年で開館41年になります。。予算は大変厳しく、稼働率はおかげさまで結構良いのですが、出来る工事や修繕の時間はなかなか取ることが出来ないという状態です。それでもあえて本年度の重点事項にバリアフリーを掲げました。主に2つの理由があります。

1つはこの4月からの障害者差別解消法の施行です。職員一同こうした中ではありますが、出来る限りのことから行おうと思いまして、4月に職員研修を行い、いくつかの工夫や実践をしてもらいました。少しずつでもバリアフリー化、遅々として進むバリアフリー化。まだまだですが、この法律の目指すところ、条文に込められた思い・お気持ちなどをこの法律の起案に中心として参画された尾上さんにお話しいただきたいと思います。

 もう1つの理由は、今年度4つの障害者関連団体の全国大会で、その会場に当館を選んでいただいたことです。6月から8月にかけてその4つの全国大会が、ここでこの会場で行われました。その間、県内の障害者施設で本当に残念で痛ましい事件が起きました。

 ここで、皆さんと一緒に心からお悔やみ申し上げたいと思っています。二度とあのようなことが無いようにしなければなりません。

 

 本日のシンポジウムでは、その4団体の方が登壇し、当館からは予約受付を担当した職員が登壇します。それではこれからの社会の文化施設の為に、大変限られた時間ではありますが、尾上先生、パネリストの方々、会場の皆様方にも積極的に参加していただきまして、このシンポジウムが有益なものになりますようにご協力をお願いいたします。

 改めまして、本当にご支援ご協力いただいた関係の方に御礼申し上げます。特に、本日ご出席された皆様方のご多幸とご健勝とご発展を申しまして、挨拶とさせていただきます。

 

第1部  障害者差別解消法についての講義

動画リンク:第1部 挨拶(神奈川県民ホール館長 折原守氏) 

尾上浩二氏(以下、尾上氏) DPI(障害者インターナショナル)日本会議副議長より

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DPI日本会議 副議長 尾上浩二氏

プロフィール:

尾上浩二氏  DPI日本会議 副議長/内閣府障害者施策アドバイザー
小学校を養護学校、施設で過ごし、普通中学・高校へ進む。1978年大阪市立大学に入学後、障害者問題のサークル活動をきっかけに、自立生活運動に取り組み始める。DPI(障害者インターナショナル)日本会議事務局長、障害者政策委員等を歴任。
2014年内閣府障害者制度改革担当室政策企画調査官に着任、2016年現職に至る。

 

 ▽自己紹介

尾上氏:

 それでは紹介いただきました、DPI(障害者インターナショナル)日本会議副議長の尾上と申します。よろしくお願いします。障害者差別解消法に関して、特に「合理的配慮」と「建設的対話」。このことをキーワードにしてお話していきますので、よろしくお願いいたします。

 私自身の、障害者差別解消法への関わり・関わる思いを紹介しようと思います。私は1960年に大阪で生まれ、子供の頃に仮死早産ということで8か月の時に産まれ、なんとか保育器に入って生き延びたのですが、1歳で脳性麻痺となり、立つことや、歩くことが出来ない、ということでした。子どもの時から障害があって育ってきました。50年以上前であるため、障害のある子供が保育園や幼稚園にいるということが考えられない時代でした。この後登壇していただく、全国肢体不自由児者父母の会があるのですが、その大阪の会に私の親も参加していました。

 そこで行われている訓練事業にも通い、養護学校・施設を経て、地域の中学校に通いました。大学時代から駅のエレベーター設置やバリアフリーなど、同じ障害を持っている仲間の支援を行いました。2004年からDPI日本会議の事務局長として、国の障害者政策委員会に参加させていただき、3月までは内閣府で、今日お話させていただいている障害者差別解消法の準備にあたってまいりました。

 

 現在、DPIの副議長・内閣府の障害者施設アドバイザーをさせてもらっています。障害者差別解消法を理解していく1つのキーワードとして、合理的配慮に関連して、私の関り、この言葉を聞いて思い出す体験があります。

 

▽自身の体験

 中学校からは地域の学校に行きました。今から40年以上前のことです。当時は松葉杖で何とか歩ける障害でした。それぐらいであっても地域の学校へ行くことは大変でした。すったもんだの末、入学は何とか認められましたが、特に入学するにあたり、当時、学校にはエレベーターどころか階段の手すりすら無かったのです。

 松葉杖で2階の教室に上がるのは大変でした。入学にあたりこのようなことを言われました。「これから行く場所は普通学校です。歩けないからと言って特別扱いしないです。」障害者解消法の考え方で言えば「合理的配慮をして初めて平等、それを行わないことは差別」という考え方です。「特別扱いしないことが平等に扱うことならば、合理的配慮をします」ということになります。

 

 まだ1970年代には、合理的配慮の「ご」の字もない時代です。「特別扱いしない」ということは、学校は何もしないということです。「お母さん、念書を書いてください」ということです。内容は3つありました。

  1. 階段の手すりなどの設備設置は求めない
  2. 先生の手は借りません
  3. 周りの生徒の手は借りない

 「この3つを約束するならば、入れてあげましょう」と言われました。様々な大変なことはありました。

 

 例えば、私の学校のホームルームを1階に移すなど、出来ることは様々あったと思いますが、そのようなことを申し出る事も出来ませんでした。もし、障害者差別解消法があれば出来たのでしょうが、よく考えると、母がサインを求められたものは「合理的配慮を一切認めない宣言」なのです。

 「求めないなら入学を認める」と、そう言われてきた体験があります。そのような、恨みつらみで障害者差別解消法を作りたかったのではありません。そうではなくて、これからの世代の子供たちには、私たち世代が経験したような苦労をさせたくなかったのです。

 

▽障害者差別解消法の概要

 2013年6月に障害者差別解消法は出来ました。そしてその半年程、2013年11月に私は参議院委員会に参考にお招きいただきまして「障害者権利条約についてどう思うか?批准についてどう思うか?」という話だったため「障害者権利条約を批准して前に進んでほしい」と言いました。2014年1月に障害者権利条約の批准国になりました。障害者当事者の意見を聞きながら、準備を進めてきました。障害者差別解消法は、障害者権利条約には不可欠でした。大元になったものは、障害者権利条約。その上で、障害者差別解消法が出来たのです。

 この法律は簡単に言えば大きく言って、2つの差別を無くそうということでした。1つ目は、障害を理由とした差別的取り扱い。車椅子の方お断り、盲導犬を連れた方はお断りということ、それらは駄目ですよ、ということです。

 2つ目は、合理的配慮をしないことも差別だということ。逆に言えば、合理的配慮をきちんと提供するように書かれています。差別的取り扱いの禁止と合理的配慮の提供を求めている法律です。

 概要を押さえていきます。正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」です。長いため、障害者差別解消法と略しています。

 

 26条からなるもので、今年の4月から施行されました。障害者差別解消法を理解するポイントから紹介します。

 第1章の総則に目的が書かれています。「差別をした人をとっちめたい」という想いで作ってはいません。障害のある人も無い人も、共に暮らせる共生社会を作ることが目的です。つまり、「障害を理由とする差別の解消を推進し、障害の有無によってわけ隔てられることのない共生する社会」です。

 共生しようと思っても、差別があると生きにくいです。共生できる社会を作ろうというもの、障害の有無によってわけ隔てられない社会というのは、インクルーシブ社会のことです。インクルーシブとは、最初から分けたりしない、最初から一緒という考え方の社会です。これが障害者差別解消法の大元にあるとおさえてください。

 

 もうひとつ、この法律の定義で障害をどう捉えるかです。社会モデルは第2条にあります。この法律の対象となる障害者は誰かということが書かれています。「身体障害者、知的障害者、発達障害含む精神障害者」それに加えて「その他の心身の機能の障害」です。

 1つ目は難病に起因する障害、そのような谷間の無い障害です。そのため障害者手帳を持っている方はもちろん対象になりますが、障害者手帳を持っていない人も対象になり得る場合がある、ということです。

そして、もう1つ。後半部分ですが「障害及び社会的障壁により」というわずか15字程のところに障害者権利条約のエッセンスがぎゅっと含まれています。

 

 障害の社会モデルです。ここから、これについて考えます。今日私は舞台に出る時に電動車椅子を使いました。1日14時間程使っています。(車椅子が階段の前でたたずむスライドを投影しながら)階段の前にたたずむ私は「車椅子だと不便」という時です。この舞台に上がるためにも、10段階段があります。階段のみの舞台です。

 この舞台は、7月の改修でリフトを付けため、すいすいと上がることが出来ました。今年の3月、この階段で私がこの舞台に上がることは、とても大変だったと思います。私自体は何も変わっていないです。

 リフトがついただけ、環境が変わっただけなのです。これを念頭に置き、考えるとまた違う面が見えてきます。

 

 「足が動かない 歩けない」だけの場合、これは機能障害と言います。これだけをもって障害とすることが、医学モデル、個人モデルと言います。しかし、舞台にリフトが出来ました。

 3月までは、リフトが無い状態、階段のみの状態であるため、ここに上がりにくかったのです。この状態は社会的に作られたバリア、社会的障壁です。

 社会的な障壁を、障害者差別解消法と障害者権利条約が解消します。これが社会モデルです。障害が個人にあるのではなく、社会の環境にあるというとらえ方です。

 社会モデルから、合理的配慮の理由が深く理解されます。健常者は「差しさわり」という意味で「障害が無いのだろうか?」ということにもなります。

 仮に、階段がなくて、縄はしごだけがあり、高くて、飛び上がらなければ登れないという建物があります。絶壁となると、健常者と言えども登れないです。そこで「階段が出来て良かったな」という話になるのです。

 階段は実は、歩ける人にとっても合理的配慮です。合理的配慮は、障害者に対して特別な権利を与えるものではないのです。

 

 障害の無い人が当たり前に享受している権利。利用の機会・サービス利用が平等に使えるようにすることです。例えば、ドア幅です。ここは大きい建物であるため、そのようなものはないですが、古い会議室だと、入れないことがあります。

 60㎝しかないところもあります。車椅子で通るには、75~80センチが必要です。公共的な建物なら90センチ程必要です。

 しかし建築基準法では、60センチ以上としか定められていないのです。

必要な幅より、20センチ短いです。80センチにしておけばいいにも関わらず、60センチにしかしていないのです。

 

 健常者に必要な60センチは法的に埋め込まれています。わざわざ健常者は合理的配慮と言わず、当たり前に使います。社会多数に合わせているため、障がい者は使えないのです。

社会モデルから見た、合理的配慮にします。社会的障壁をなくすバリアフリーは物理的なものもあります。

 今までは物理的な部分のみです。それだけではなく、制度上のバリア、様々な慣行、ルール、意識上のバリア、いろいろな制度や障壁などに関するバリアをなくします。

 社会的障壁をなくすことが、障害者差別解消法のとても大きなポイントです。合理的配慮は社会的障壁除去・調整・取り組みだと障害者差別解消法で言われています。

 最後の基本方針のところでこの辺りは話します。

 

 時間の関係で今日話しませんが、皆さんのお手元の資料に内閣府のリーフレットを入れています。差別的配慮は2つの差別を禁止しています。

 「差別的取り扱い」「合理的配慮の不提供」を禁止すると入れています。「差別的取り組みをやめてください」「合理的配慮を提供してください」と言っています。基本方針・ガイドライン・対応要領・対応指針というものがあります。

 劇場、文化施設の対応要領を文部科学省で作っておりますので、是非参考にしてください。

 これから相談窓口を文化施設で作る時、どうしたらいいかという時、知恵を出し合う地域協議会が出来るとよいと思います。

 

 ▽障害者差別解消法を文化施設に当てはめる

 ここまで駆け足で、差別解消法の概要を話しました。残りの時間で、その法律が劇場や文化施設に当てはめた場合、何が問題になるのかにスポットを当てたいと思います。

 日本の文化施設での取り組みは、県民ホールだけでなく全体的に遅れているというか、これからがスタートです。諸外国との比較で動き始めた場所はスポーツ施設です。2020年東京オリンピック・パラリンピックがあるためです。東京ドームに車椅子席はどのくらいあると思いますか?

 4万6000人のうち、車椅子席はいくつあるでしょうか?空港リムジンバス、長距離バスは1万台走っていますが、車椅子のリフト付きバスは、何台でしょうか?分かりやすい例としてあげました。

 車椅子で入ろうと思うと、右側の表側の階段ではなくて、左下の関係者入り口から入り、専用エレベーターで入っていきます。車椅子席は3塁側のシートの裏にしかないです。車椅子の人は前に座ります。

 一緒に来た人、野球は友達や恋人など、誰かと一緒に見に来ます。それにも関わらず、車椅子の横に並ぶことが出来ないのです。一緒に来た人は後ろにしか座ることが出来ないのです。

 デートでも恋人が横に並んで座ることが出来ないのです。

 

 スタジアムの車椅子席の割合は、日本では0.026%で、アメリカは0.5%以上です。同伴者は後ろに座るため、一緒に楽しめません。

 サイトラインについては映像で確認しますが、前の人が立つと見えません。歓声があったとしても、前の人の背中しか見えず、しょんぼりします。

 健常者とはまったくの別ルートでインクルーシブではありません。東京ドームだけではなく、東京体育館も同じです。車椅子席を作ったと言っても、同じようになっています。

 車椅子席は手すりで囲まれ、檻のようになっています。加えてサイトラインにかかるのです。前の人が立ちあがると見えないのです。映画館で洋画を見ると、字幕と手すりが被ってしまうのです。
 いろいろ目を上げ下げして、首を延ばしたり移動しないとならないのです。日本武道館も同じく、前の人が立ちあがると見えません。特に古い建物であるため、車椅子席が少ししかありません。

 

 一方、外国のヤンキースタジアムでは68か所に200~300席あります。内野・外野・一塁側・チケットの高い席・安い席など自由に選択できます。バックネットには果てしなく続く車椅子席があります。規模というよりも発想が違うと言っていいです。

 移動は特大エレベーターを使います。大人数の移動の際は大規模スロープも並行して使います。災害の時を考えた際に、エレベーターだけではなくて、スロープがあると良いのです。

 しかも、パイプ椅子の部分を外して車椅子が座るため、横に並んで座ることが出来るのです。これならば、友達や恋人とのデートで見に行くことが出来るのです。

 

 また、高速バスに関して、空港リムジンはリフト付きバスは1台もありませんでした。やっとこの4月から2台、8月から3台に増えました。1万台の中の3台です、果たして、2020年に間に合うのか心配です。

 

 先程アメリカのスタジアムの例を見ていただきました。球場側の努力だけでなく、法律が違うのです。

 アメリカではADAというアメリカの障害者禁止法が1990年代からあり、

その規制の中に、サイトラインがあり、車椅子の使い方も載っています。前の人が立っても見えるようにするという基準があります。日本には、この基準がありませんでした。2015年の指針で、ようやく取り入れられました。

 日本と何が違うかと言うと、障害の無い物と場を分けない、インクルーシブというものが違いです。

 全て同じルートで使うことが出来ます。日本は違う入り口であり、鳥の檻で囲まれたようです。

 車椅子のチケットはアメリカではwebでも買えます。法的整備もあります。0.5%は最低ラインです。東京ドームの12席なんて認められません。

 これを変えていくために、基準を監督する国土交通省で検討会を9月から始まりつつあります。2020年に向けてようやく動き始めたのです。

 

▽正当な理由

 もう一度、差別解消法の基本方針に戻ります。去年2月、政府全体の方針として、閣議決定した基本方針の概要です。

その中の「2、共通事項 差別的取り扱いについて」では

「1、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するまたは提供にあたって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害者の権利利益を侵害することを禁止している。」

とあります。

 「不当な」と書かれていましが、正当になる場合もあるのです。ですが、厳密な書き方をしています。

 「どうしても断る時」は「正当な理由に相当すること」は「客観的」に見て、つまり誰が見ても「正当な目的に沿うもの」であれば正しいということです。

 そしてその正しい目的に対して色々と尽くしたが、やむを得ない場合には「客観的に見て正当に」「目的のもとで」「その目的に対してやむを得ない」という場合が、正当な理由です。

 それでは、具体的にコンサートなどでどのような場面があるか、例を出します。2015年9月に福島で公演をしました。

 私の講演が終わると、19歳の脳性麻痺の少年が「尾上さん、差別解消法が施行されたら、こんな悔しい思いをしないでもいいですか?」と聞いてきました。

 

 ロックバンドの公演があり、チケットを奇跡的にとることが出来、アンコールまで楽しもうと思っていた少年は、コンサートが始まると、スタッフから「満員で混雑している為、もし何かあったらいけないので、終わり手前2~3曲のところで、コンサート途中で会場を出る様にしてほしい」と言われました。

 彼は「アンコールまで見たいと思っていたのに、途中でなぜ帰らないといけないのか」と思い「アンコールまで見たい」と言いました。

 彼は「それだったら、一番最後に出たらいいでしょう」と言って、頑張って最後までいましたが、残念なことに、楽しむために行ったところで、そのやりとりになってしまった。やっとチケットをゲットして行ったにも関わらず、思い出すたびに、スタッフとのやり取りの嫌な思い出になりました。

 思い出すたびに「せっかくのコンサートが嫌な思い出だった」となりました。

 

 「もし何かあったら」ということで、何があるかを具体的に考えたらどうか、他のお客様との関係なら、前列から順番にブロックごとに出てもらう、動線、誘導など方法を考えることができました。

 それを考えずに、車椅子では「もし、何かあったら」と「帰ってくれ」と言う。これには正当な理由はないと、私は考えます。

 

▽合理的配慮

 次に合理的配慮、合理的配慮の基本的な考え方です。法律では「権利条約における合理的配慮の定義」を踏まえ、障害者から「現に社会的障壁の除去を必要としている」と意思の表明があった場合「社会的障壁の除去を行うという基本的な取り組み」を、行ってくださいということです。

 しかし実施にあたって負担が過重でないものは「代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通して、必要かつ合理的な判断で、柔軟に対応がなされるものである。」としています。

 建設的対話、そのことを通じて対応される、そこが大事です。

 

 例として車椅子利用者の為に、携帯スロープを渡す、ということや、今日は要約筆記を付けていますが、筆談や手話などの意思疎通への配慮、あるいは休憩時間です。

 発達障害・難病・精神障害など、そのような人への配慮として「ストレスに弱い」「長時間のストレスが体に応えること」があります。2時間に1回の休憩を2時間に2回にするなど、その様な配慮もあります。

 「そういうことをしてくださいよ」とすることなのですが、つまりは建設的対話、話し合いをして、落としどころを探して、必要かつ合理的な範囲で柔軟に、障害者が障害のない人と同じように活動することが出来るように変更や調整をすることです。

 今日来ている皆さんの業務との関係で言うと、障害のある人が障害のない人と同じようにコンサートや観劇や文化活動を楽しむことや、作り手として参加が出来たり、その為の調整、社会的障壁の除去です。

 

▽建設的対話とは

 建設的対話というものはどのようなことかというと、私自身の体験を話します。

 私は講演などで様々なところに出張することが多いです。最近のビジネスホテルでは、バリアフリールームだけでなく、湯船に入るシャワーチェアを用意してくれるところもありますが、まだまだ少ないです。

 ある日泊まったホテルがそのようなビジネスホテルより値段は高かったのですが、シャワーチェアが無く「今日は湯船に入らずに、シャワーで済ますと風邪ひくな」と思って、フロントに電話しました。

 

フロント:「シャワーチェアはありません、申し訳ございません」

と、とても丁寧に言われました。

尾上氏:「それならば、シャワーチェアではなくてスタッフルームにあるパイプ椅子は無いですか?あれで腰を押し付けて湯船に入ることが出来るんですよ」

フロント:「パイプ椅子はありますが、とてもお客様に貸し出す代物ではありません」

尾上氏:「いや、古びている物のほうが水に塗れても気を使わないので、いいんですよ」

フロント:「いいえ、備品リストにございませんので」

尾上氏:「お風呂に入れないから」

フロント:「少々お待ちください」

と一旦切り、5分後に「お待たせいたしました、今からお持ちします」とのことでした。

恐らく上司の判断を仰いでいたのでしょう。

 

 それで無事、シャワーではなくて湯船に入ることが出来たのです。実はこれは建設的対話の1つの例です。

 もし私が夜の10時に「今シャワーチェアがないと困るんだ、どこか福祉用品店で見つけて買ってきてくれ」と言っても、夜の10時にお店は開いておらず、過重な負担になります。

 でも、このような話をすると「なんだ、パイプ椅子貸すぐらいか」となります。しかし「パイプ椅子なんか貸してはならん」となると、パイプ椅子があるのに貸してもらえない、その時私は寒い中シャワーで済まして、風邪をひきます。

 つまり話し合いとして、落としどころを探す、建設的対話というものはオールオアナッシングではない、100か0ではない、つまり過重な負担な負担だから何もしなくていい、ということを言っているのではなくて、過重な負担ではなくて出来ることをしてください、ということを言っているのです。

 それでは出来ること、それを一緒に探していく、それが建設的対話です。

 

▽差別解消を妨げるNGワード、NGな考え方

 さて、その建設的対話との関係で「差別解消を妨げるNGワード、NGな考え方」を3つ紹介します。

 1つ目は「もし、何かあったら…」ということ。先程のコンサートの例の様に「もし、何かあったら…」となると、実はそこで思考がストップしているのです。どのような問題が生じるか、そのリスクを、減じる為にどういうことが出来るかを具体的に考えることが大切です。

 2つ目は、「あなただけ特別扱いできません」ということ。合理的配慮は「特別扱い」ではなく、共に活動したり楽しんだりするため(平等性確保)の個別的調整です。

 3つ目は、「先例はありません」ということ。それはこれまで障害者の参加が難しかったからのことで、その先例を作っていくことが差別解消です。

 

 このような3つのNGワードがあったら、このような言葉をやめにしたいなと思います。

何よりも無関心こそ、最大の障壁。今日来ていただいた方、多くの方に関心を広げてほしいです。

 

▽情報提供

 最後に情報提供です。劇場にはサイトラインが日本では法律に書かれていなかったです。

2015年7月に、国土交通省の建築物のバリアフリーに関する設計、正式名称「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計基準」として、公開されています。サブタイトルが「劇場、競技場等の客席・観覧席を有する施設に関する追補版」となっています。

 これもタイトルがいいです。「~高齢者、障害者等が友人や家族とともに来館し、観劇、観覧を楽しむために~」というテーマで書かれています。

 障害者1人でポツンと、ではなく、友人や家族と一緒に楽しむことを狙いにしています。

 具体的な取り組みとして

「高齢者、障害者等が客席・観覧席を自由に選択できる配慮が求められる。」

「視覚障害者や聴覚障害者が、上演内容や競技状況等の情報を得るために、音声・文字情報提供設備等の配慮が求められる。」

「高齢者・障害者等の舞台や楽屋へのアクセスしやすさへの配慮が求められる。」

としています。

 

▽まとめ

 その様なわけで、ようやく劇場のハード面に関する手続きが進んできました。日本は3歩進めていく必要があります。

まとめていうと、

・福祉分野に限らない社会全体での取り組み

・合理的配慮と意思表明、建設的対話

「合理的配慮というのはオールorナッシングではなく、具体的検討が必要です」ということ。

・様々な分野、場面での研修、啓発活動。そして、紛争解決の様々な相談できる仕組みを作っていってほしいと思います。

 

 合理的配慮の為の環境整備として、バリアフリーや情報アクセシビリティを、会館の改修機会等を使用して、皆さんの建物が環境整備されていくことを期待します。

 インクルーシブ社会とは、社会を活性化させるチャンス、全ての人が文化を楽しむチャンスだと思います。

 私どもはこの4月に、差別的解消法の施行後『合理的配慮・差別的取り扱いとは何か』という本を出版しました。ぜひ機会あればご覧ください。

 そしてもう一つ、今日のテーマに関連して、私も刺激を受けたところが多い本ですが、鈴木京子さんという大阪のビッグアイという劇場のプロデュ―サーの方が

『インクルーシブシアターを目指して 障害者差別解消法で劇場はどう変わるか』という本を出版しています、

 以上2点を紹介しまして、わたくしのお話に代えさせていただきます。どうもご清聴ありがとうございました。

このシンポジウムの続きは下記リンク先に掲載しています。

シンポジウム「すべての人のための 文化施設であるために」第2部 前半

シンポジウム「すべての人のための 文化施設であるために」第2部 後半